あわしま・かわたれ日記(6) 「FAX」

「もっとやりとりうまくいく方法ないもんかね。」

民宿で旅行会社とのやりとりがスムーズにいかず母は困った様子だった。携帯もインターネットもない時代にたくさんの人たちは離れた人と電話のみで相手とコミュニケーションをとっていた。
 母が困っている側で漁から帰った父がイビキをかいて寝ている。
「父ちゃん、父ちゃんってば!!昼ごはんだよ。」
私が父の体をゆすって起こそうとするが、一度転がった大きな岩はびくともしない。
「もう父ちゃんってば!!」
私の声は父のイビキによってかき消される。

「もう、お父さん、ご飯だよ💢」
ついに母の天誅が父に落とされた。
「おっそっかそっか。」
ようやく父が起きがあがった。
「さっき、母ちゃんが旅行会社とうまくやりとりできないって困ってたよ。父ちゃんも考えてよ。」
母の困りごとを告げると
「そっか。」
そう言って、大きな口でご飯を食べた。
「父ちゃん!!」
 そして数日後、我が家に見慣れないダンボールが届いた。学校から戻った私は近くの父に聞いた。
「何これ?」
「これか!?『エフエーエックス』だ。」
「エフ?エー?エックス?」
「何!?それ!?」
「書いた文が相手に届くらしんだ。」
「父ちゃん、それファックスって言うんだよ。」
「何!?そうとうも言う。」
「いや、そうとも言うって…。」
「これがあればもっと母さんは仕事がラクになるだろう。」
「父ちゃん、さすが!!なんだぁちゃんと話聞いてんじゃん!!」
「アッハハハハ!!」
豪快に笑う父ちゃん。
 島の人に手伝ってもらい、ついにセッティングが完了した。
「母ちゃんできたよ。これで旅行会社とスムーズに話が進むね。」
「お金はかかってしまったけど仕方ない。これを使ってたくさん旅行会社さんからお客さんを紹介してもらうね。」
母は嬉しそうだった。
 その夜、お風呂から上がると母がファックスの前でまたもや困っている様子だった。
「どうしたの?」
「ファックス故障しているかも。」
「えっ!?もう!?」
「だって紙を送っても送っても戻って来るんだよ。」
「送っても!?送っても!?」
「そうなの。」
母は自分が書いた紙が細いコードを伝って運ばれて、相手に自分の紙が届くと思っていたらしい…。その時点で相手には山のように同じ紙が届いていたであろう。営業妨害なみに。
「母ちゃん違うんだって!!」
「えっ何が!?」
それでも紙を送信し続ける母。その横で父はまたイビキをかいて寝ている。
「母ちゃ〜ん!!」
またもや私の叫びは父のイビキにかき消されるのであった。

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