あわしま・かわたれ日記(5) 「授業参観」

 お昼時間、いつものように家に向かう。当時、粟島の小中学校は給食がなかったのでお昼になると家に帰ってお昼ご飯を食べる。

「そう言えば今日授業参観なんだけど、来る?」
「お父さんが行くよ。」
母が言った。ご飯を食べながら父がうなずく。
「そうなんだ。」
 学校に戻り、掃除が終わって自分の席につ着くと隣りのミカさんが聞いてきた。
「マサヨシくん家、誰か来る?」
「たぶん、父ちゃんかな。」
「ミカさんは?」
「お母さんかな。なんかちょっと恥ずかしいね。」
「うん。わかる。なんかね。」
「なんかね。」
 担任の津村先生が教室に入って来た。
「今日は、仕事についてみんなで考えていきたいと思います。」
私以外の同級生は3人いるのだが、フミヒトくんの親はうちと一緒で漁師、そしてミカさんとノリコさんは大工をしている。粟島ではほとんどの人が漁師をして、生計を立てている。大工さんの数も一定数いる。家を建てる時、島外から大工をお願いすると金額がかなり高くなるため、島の大工の需要が高い。
「マサヨシくん、来たね。」
ミカさんが父の存在に気づく、小声で教えてくれた。ふと後ろを見ると、父が普段着ることがないスーツを着て教室の後ろに立っている。いつもとはあきらかに違う服装でなんだか気恥ずかしい。

そんな中、津村先生に質問された。

「マサヨシのお父さんはどうして漁師をしていると思う?」

「魚取りが好きだからです。」

私はすかさずこう答えた。私は魚釣りが大好きで、父と一緒に釣りをしたことが何回かあった。一緒に漁船に乗って網を上げに行ったことも何度もある。きっと父も自分と同じだと思っていたからだ。

「なるほど。たぶんそれもある。だけど…」

「だけど!?」

「だけど…それはマサヨシがいるからじゃないかな。」

私はハッ!!とした。

(そうか、父ちゃんはオレの学費のために働いているのか。)

衝撃を受けた。島には仕事がなく、漁師をするしかない現状がある。父ちゃんにも、もしかしたらいろいろな選択肢があったのかもしれない。父ちゃんにも夢があったのかもしれない。
「じゃあ次、ミカさんね。」
私は席に座った。ゆっくり後ろを振り返り、父を見た。表情はよくわからなかったが、スーツを着ている父がいつもより大きく見えた。


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