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道教ってよく分からないけど、気になるあなたへ

日本ではあまり知られていない「道教」について、おすすめの入門書を3冊ご紹介したいと思います。

道教は中国の伝統的な宗教の総称に近いものです。神道が日本の伝統宗教の総称であるのに似ています。確かに専門家でない一般の人からすると、道教とは具体的にどのようなものなのか、よく分かりにくい側面があります。

実は中国の人でさえ、道教のことを十分に理解しているわけではありません。特に40代以下の中国人では、中国史が好きな日本人よりも道教の知識が乏しい人が少なくありません。一方、台湾では現代でも道教が身近な存在で、YouTubeにも台湾人の作った道教関連の動画がたくさんあります。

中国でも多くの人が道教というと思い浮かべるのは、超常的な力を持った道士が剣や呪術で戦うというイメージのようです。しかし、これは映画やドラマの影響で、実際の道教はそういったドラマのイメージとはまた違った側面があります。

日本には道教について書かれた本が多数ありますが、歴史学的な専門書が中心で、一般の人向けの解説書は少ないのが実情です。道教自体が非常に広範囲に渡る多様な思想や修行法を含むため、一つの枠組みで理解しにくい面があるからでしょう。

道教は老子を教祖とする宗教ではなく、仏教や儒教のように一人の創始者による単一の系統ではありません。中国では古来、道教と仏教、儒教の思想が相互に影響を与え合い、時代とともに経典の内容も混淆していったようです。つまり、道教とは何かを簡単に定義することが難しいのです。

そのような道教ですが、実は日本にも古くから道教の文献が持ち込まれており、その思想や修行法は神道や仏教に吸収されてきました。
孫俊清老師の伝える全乗功は道教を知らなくても実践できますが、道教の思想を理解していれば、さらにその意味が深まるはずです。

そこで、道教を知るための手がかりとして、おすすめの入門書を3冊ご紹介します。


おすすめ第一弾は、明治の文豪・幸田露伴による『道教に就いて』です。

わずか36ページの小冊子ながら、当時の口語体で道教が解説されています。現代語ではないので読みづらい面もありますが、Kindleなら無料で読めます。

この冊子で論じられる道教とは正一教や宋代までの道教、特に三国時代の五斗米道です。明治の日本にはなぜか全真教の情報は入っていないようです。
昭和でもこれは変わらなかったようで、中国史小説家で台湾系の陳舜臣先生の「中国の歴史(全七巻)」にも全真教の話はほとんどありません。
「道教に就いて」の中で、幸田露伴先生は道教と老子の道徳経はあまり関係がないという論説を展開しています。五斗米道で信者に道徳経を読経させていても、それは不思議な呪文としてだろうとのことです。
初期の全真教は道徳経(河上公注)を重視していたそうなので、これを幸田露伴先生が知ったら「道教に就いて」の内容も変わったかもしれません。

ともかく、この一冊を読むだけでも、ほとんどの中国人より道教に詳しくなれるでしょう。



第二弾は、中国思想史研究者の横手裕氏による『中国道教の展開』です。

90ページのコンパクトな本ですが、道教の歴史について手堅い知識が身につきます。


次におすすめなのが、同じく横手氏の『世界の宗教 道教の歴史』です。

前著の内容がさらに詳細に展開された350ページの力作です。浄明忠孝道、太乙金華宗旨、八卦教といったマニアックなトピックにも触れており、道教の歴史と思想の変遷についてより詳しく掴めるはずです。

この本では民国以降の道教についても述べられています。
民国時代に科学的道教の仙学という学派を興した陳攖寧氏が中国各地の道教名山をまわっても、既に道教の修行法の知識が失われていてがっかりしたというエピソードがあり、意外でした。
上海辺りの知識人がいきなり地方の修行地に現れても、保守的で秘密主義の道士の方々は代々伝わる修行法を教える気がなかった可能性もあります。

「道教の歴史」によると、清代の全真教龍門派の中興の祖である王常月掌門の説法を元にした「龍門心法」という古典があるそうです。
清代末期には書かれていたので、明治の幸田露伴先生がこれを読んでいたら、「道教に就いて」は全真教の思想も含まれていたろうにと残念です。

龍門心法

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