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お迎え特殊課の火車10

 第10話 天網恢恢、自業自得とはこのことかねえ(七)

「で、何をたくらんでいるの? 童子丸どうじまる。地上の神は基本的に冥府めいふへは不干渉ふかんしょうよね?」

 童子丸は晴明せいめい幼名ようみょうだ。
 
「やれやれ。母上はだまされてくれませんか」
「当たり前でしょう。地獄き確定の罪人ざいにんまもったり、火車かしゃ眷族けんぞくの名前を付けさせたり。そりゃ、私だって手駒てごまが増えるのは嬉しいわ。あなたが私のことを考えて想ってくれてるのも嬉しい。でもね……」

 葛乃葉くずのは目尻めじりがじわじわとり上がる。

「それ『だけ』ではないのでしょう? 何をたくらんでいるのか大人しくきなさい」

 静かな声音こわねだが迫力があって怖い。

 さすがは火車の上司と言おうか、化け狐と言おうか……息子が母を想う気持ちが本物だと理解していても、その裏にあるものを見逃さない目ざとさを持っている

「実は、菅原道真すがわらのみちざね公に頼まれたのですよ。冥府との|繋つながりが欲しいと」
 
 葛乃葉の怒りを受け流すように、晴明は平然と答える。
 
 冥府とは閻魔大王えんまだいおうちょうを指すが、死後の世界全域を指すこともある。

 道真公が望んでいるのは、閻魔庁へ少しだけでも干渉出来る方法だった。それが実白みしろである。

 つまり実白は道真公に貸し出し予定の眷属なのだ。

 葛乃葉は怪訝けげんそうな表情になったが晴明の言葉の続きを待つ。
 
 道真公は晴明神社で合祀ごうしされてもいるのだ。分霊ぶんれいで、勧請かんじょうされた御霊みたまだが。

 道真公本体(?)は九州の太宰府天満宮だざいふてんまんぐうに居る。

「今回、道真公のやしろの巫女達が非道な目に会ったでしょう?」
 
 それは葛乃葉も知っているのでうなずく。

「……母上は、まだご存じないと思いますが、その巫女の一人がみずかいのちを絶ちましてな」
「――え!?」

 葛乃葉はスーツの内側うちがわに仕舞っていた閻魔帳の写しを取り出してひらく。

「それは尼増のほうよ。そう書いてあるわ」

 晴明は首を左右に降った。

「おそらく、記載漏きさいもれでしょうな」
「そんな――」

 はずはない――と思いたい葛乃葉である。

「冥府とて間違いを犯すこともあるのでしょう。現世げんせでは未だに『あの』ウイルスが猛威もういふるっているのですから、以前より忙しくなったのでしょうな」
 
 葛乃葉は唇をみしめる。

「だから道真公は……」
(何かあったときの為、こちらの様子を知る手段が欲しかったのね)

 葛乃葉は、口には出さず心の中で思った。

(息子の眷族でも火車が名付《なづ》け親ならば、干渉かんしょうされたとしても自分のところでめられるわ)

 本来ならば、実白は冥府……地獄か、動物の極楽寺浄土ごくらくじょうどおもむかなければならない存在だ。
 
 しかし、火車の失敗ポカで、九十九神つくもがみり怪異の一つにまで成ってしまった。

 実白はフィギュアの九十九神としてだけではなく、晴明の眷属けんぞくとなったことで色々な力が強くなっている。

 ――そう、だからこそ冥府に干渉出来るが、葛乃葉のところでめられるように、清明は火車に実白の名付けをさせたのだ。実白もそれを望んでいたから丁度良かった。

 それにしても、晴明はどうやって閻魔帳の記載漏れを知ったのだろう? 

 どうやら、それは企業――ではないが――秘密らしい。

 その方法は火車のみならず葛乃葉ですら知らないのである。

「……冥府こちらのミスか……上に報告するわね」

 葛乃葉は、息子である晴明へと力なく笑顔を見せた。

「大丈夫ですよ。母上のお手をわずらわせる事態にはさせません」

 晴明は、母である葛乃葉に優しくげたのだった……が、しかし現世げんせ未曾有みぞうの事態、これからどうなるのか、実のところ神の身でも分からないのであった。

 ――その頃、火車は、実白の名付け親になった意味を考えてはいたが……。
 
(……ま、あんまり深く考えにゃくても、多分、大丈夫さね)

 色々きて来て、考えることをめてしまった。
 
 何しろ火車は化け『猫』だ。
 そして、『猫』は気まぐれなものなのだから……。



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