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お迎え特殊課の火車2


 第2話 お迎え特殊課の火車出動(二)

「久々の出動だからねえ。まあ、こうにゃるのも無理はにゃいさねえ」

 火車かしゃは慌てふためく人間達を尻目に去ろうとしたが――

「ん?」

 視界の端に、亡者の飼い猫である白猫の姿をとらえた。
 と言うのも、火車は死の気配にさとい。
 つまり……白猫はへいから落ちたショックで死んでいたらしい。
 その気配に気付き、そちらに、ちらりと目を向けたのだ。

「ありゃあ? もしかして、アタシが地上へ降りた時に驚かせちまったのかにゃ? ……そりゃあ悪いことしちまったねえ」

(猫族どうぞくの死期を早めてしまったのかも知れにゃい……)

 と流石に罪悪感にかられた火車は今度は美女の姿のまま、地上に……白猫の亡骸なきがらの側に降り立った。
 
「ああ……こんにゃに傷だらけの顔にされちまって……不憫ふびんなヤツだねぇ……」

 火車は白猫の亡骸を抱き上げながら呟いた。
 当の白猫の魂は、塀から落ちた格好のまま、彼女を見上げている。
 
「アタシが怖いのかい? まあ、しょうがにゃいさねぇ」
 
 恐怖で動けなくなっている白猫の魂を抱いて、火の車ワゴンへと飛び上がる。

 火の車ワゴンに戻った火車は白猫の亡骸と魂を助手席に乗せると、妖力ようりょくで空に出現させていた黒雲くろくもの幻を消し、ラジカセのスイッチを切りながら火の車ワゴンの窓を閉める。
 
「それじゃあ。帰るとするかねぇ」

 火の車ワゴンを発進させて暫くすると――

「にゃんだい? あの妙にゃ建物は」

 火車の目に止まったのは、石垣の岩みたいな形の、灰色と藍色が交ざったような色合いの巨大な建物だった。
 
 大きさは――火車は何か適当な比較対象が浮かばないか、自らの記憶を探ってみる。
 
(……戦国時代辺りに建てられた、どっかの城くらいの大きさはあるかねえ?)
 
 その結果、どうにか比較出来そうな物を思い出せはしたが、どこの城だったのかまでは思い出せなかった。

 ――と、みずうみの上に浮かんでいるようなその建物に、何かが搬入はんにゅうされている。

 それは――トラックから取り出された長方形の木箱。
 
「にゃんだいあれは? フィギュアとか言う人形にんぎょうかい?」

 木箱を透して火車の目にはえていた。
 
 そのフィギュアには想いが込もっていた。
 フィギュアを造った職人の想いが……。

(より美しく! より可愛いく! 完璧で! 生きているが如くの躍動感を!!)

『あのう……ワタシ、あの綺麗なお人形の中に入っちゃダメですか? あのお人形にりたいんです』
 
 木箱の打ち付けが甘かったのか、側面の一つがのひらいてしまい。フィギュアの姿が現れて、ワゴンの助手席に居る白猫の目に映った。

「にゃんだい。それはお願いかい?」

 火車は火の車ワゴンを空中で停止させて答えた。

『はい! ワタシ、あの、お人形に成りたいんです!』

 火車は暫し考える。

 くだんお人形フィギュアは西洋人みたいな白い肌の色を持ち。人間を出迎えるように満面の笑顔で両手を広げている。

 ピンクのフリルが付いた白いワンピースに白銀色の長髪、頭には髪と同じ色の猫耳があり、下半身には長くて白い尻尾があった。

「んにゃあ~……どうしたもんかねえ」

 本当ならば、このままあのへと連れてかなければならないが、まだ、寿命が大いに残っている同族を死なせてしまったのは、さすがに始末書ものだ。

「……良し! 決めたよ! アンタ、一回あの人形フィギュアの中へ入って来にゃ! 魂があのフィギュアに馴染まなにゃかったら、即、あの世逝きだよ!」

(こうにゃったら、始末書が多少増えても構うものかい!)

 そうして、火車は覚悟を決めた。

『ありがとうございます!』

 火車がワゴンの助手席の窓を開けると、白猫の魂は喜び勇んで、フィギュアへとまっしぐらに飛んで行った。
   
「どうかにゃあ?」

 火車の金色の目で見ても、白猫の魂が宿ったそのフィギュアは.一層の輝きと美しさを増したように見えた。

「……魂が馴染にゃじんだみたいだにゃ……」

 火車は嬉しそうな困ったような、複雑な表情で呟いたのだっだ。

#創作大賞2023
 
 

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