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根っこをたどると、いいやつ『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ

岸本佐知子さんは「この本を絶対に翻訳したい!」という作品を選んで翻訳をする、と聞いて、なんて素敵な仕事のしかたなんだ!(ウラヤマシイ)と思った。
そんな岸本さん訳の短編集。
ジョージ・ソーンダーズさんは「作家志望の若者にもっとも文体を真似される作家」(解説より)だとか。

おとぼけ主人公たちがいいなぁ、と思った。
主人公がダメ人間っていうのは定石だけど、ダメの方向性や匙加減がいいなぁ。
スタートすらしていない行動の行く末をあれこれ想像して空回りしてたり。
本人の思考の中では悪気は一切ないけど、かなり問題ありの行動とか。

一番好きなのが「センプリカ・ガール日記」
三人の子供をもつお父さんが、未来に誰かが読む想定の日記をつけている。近所に住む人はみな生活にゆとりがあって、彼の一家だけそうではない。子どもたちがみじめな思いをするのに耐えられずあれこれ工夫しているところ、宝くじが大当たり。

家族思いで子煩悩。お金がなくても近所や子供に妙な見栄を張ろうとしたり、カワイイ。
周りから鼻で笑われているけれど、自分では人を馬鹿にするということを絶対にしない。未来の読者に対して「教えてあげよう」という上から目線が、ちょっとだけあるけど。
娘がやらかしてしまうんだけれど、それもお父さんの優しいところが遺伝したんだよって思う。

いいことなんか全然起こらないんだけど。なんか、いいんだよなぁ。

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