僕には自分で決めたルールがある。
自分が悪いと思ったらすぐに『ごめんなさい』と言うこと。
僕は元々意地っ張りで、自分が悪いと思っても『ごめんなさい』の一言が出ない。
小さな頃から勝気で、三つ上の兄とも同等にケンカして、必ず兄が折れるまで謝ったことはなかった。
通知表の担任欄にも、
『意思が強いのは良いところ。意地っ張りは悪いところ』
と堂々と書かれていて、母も手を焼いていた。

当時、付き合っていた彼氏ともそうだった。
ケンカをしても絶対に折れることがなく、彼がいつも折れてくれることで修復されていた。
クリスマスイブにも、大ゲンカをした。
原因は僕。
でも、意地っ張りな僕。
悪いと思っても、なかなか『ごめんなさい』が言い出せなかった。
彼女もほとほと疲れたのだろう。
いつもなら『分かった、分かった』と和ませてくれるのに、その日は違った。
「もういいよ」
と一言だけ言い放ち、バイクで一人、さっさと帰ってしまった。
意地っ張りな僕。
その場でごめんなさいが言えなかったから、当然電話を出来る勇気もなく、メールで謝る事も出来ず、あっと言う間に日付けが変わった。

ホワイトクリスマスになった夜中になっても彼女からの連絡はなく、それに怒ってしまった自分勝手な僕。
自宅に男友達を呼び、クリスマスパーティーをして騒いだ。
今でもよく覚えている。
しんしんと降り積もった雪のせいで、深夜でも明るい夜空の中。
私の携帯のバイブレーションの音が、妙に部屋に響いた。
彼女のお母さんからの着信だった。
僕と別れた帰り道、信号無視して来たトラックに跳ねられ、そのまま命を落とした。
頭の中は真っ白だった。
ほんの何時間前まで一緒に居て、
いつものようにケンカしちゃって、
『ごめんなさい』が言えなくて、
無我夢中で病院に駆け付けて、
何度も何度も叫んだ。
『ごめんなさい』
『ごめんなさい』
『ごめんなさい』
今更言っても遅いのに。彼女が戻って来ることもないのに。
僕がちゃんと謝っていれば、彼女がこんな事にならなくて済んだ。
僕が素直になれていれば、まだ彼女と一緒に居る時間だった。
『もういいよ』
それが、彼女との最後に交わした言葉。
『ごめんなさい』の一言が言えずにいた僕のちっぽけなプライドのせいで、彼女は亡くなった。
暫くはどんな風に毎日生活していたかは記憶にない。
そんな僕に、彼女のお母さんが彼女が使っていた携帯を見せてくれた。
そこには未送信メール1件。その言葉とは、