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コーヒーの水について

皆様はじめまして。清水兼聖と申します。
この度は数ある記事の中から私の記事をご覧頂きありがとうございます。

今回はコーヒーの「」をテーマにお話ししたいと思います。私は高校3年生の時、コーヒーの水について研究をしていました。
研究にはバリスタの小野光さん(JBrC2017,2019準優勝 研究当時)から様々なアドバイスをいただきました。この場を借りて感謝申し上げます。
ここでは研究過程や結果をこのnoteを通じて皆様にお伝えしたいと思います。
コーヒーにおける水の基礎的な部分から、カスタムウォーターの作り方やテクニックなど、マニアックな部分まで、2回に分けてお話ししていきたいと思います。
コーヒーの水について知りたい方、勉強したいけれど、水ってなんとなくハードルが高いとイメージされている方に向けて、なるべく分かりやすくお伝えしたいと思います。かなりボリューミーな内容になっていますが、読むのが大変にならない様にぜひ楽しんで最後まで読んでいただけると幸いです(さっそく楽しんでいただけてますでしょうか笑)。

導入篇

早速ですが皆様はコーヒーを淹れる際、抽出に使用するお水がコーヒーの味わいに影響するということをご存知でしょうか。
既にご存知で、普段からスーパーなどで好みの水を選んでご自宅で淹れてる方もいらっしゃるかもしれません。

なぜ水が味わいに影響するのか。
それは皆様が口に含む抽出されたコーヒー液の約99%は、抽出に使用した水で構成されているからです(フィルターコーヒーの場合)。
言い換えるとつまり、あの色の濃い液体の中にコーヒーの成分はたったの1%ほどしか溶け込んでいないということです。ほぼ水です。
コーヒーの専門用語でTDSという言葉があります。TDSとはTotal dissolved solidの頭文字で、日本語にすると総溶解固形分になります。
難しいワードですが、文字の通り溶解性の物質がどのくらい水に溶けているかを数値で示したものです。ちなみにコーヒーのTDSの測定には屈折計というプリズムを使用した精密機器を使用します(果物の糖度計のコーヒーバージョンです)。
一般的にコーヒーのTDSは1.3%ほどが良いとされており、僕も普段は1.2%くらいのコーヒーを好んで飲んでいます。この僕のコーヒーの場合、残りの98.8%が水だと言うことです。先程述べた通りコーヒー液の約99%は水ということと繋がりますね。

ミネラル

ここまででコーヒー液中の水の割合を理解していただけたと思います。
鋭い方は「コーヒー液の大部分を占めるが水が変われば、水よって味が違うから当然コーヒーの味も変わるよね。」と思ったかもしれません。
その通り、お水の種類によって水自体の味が異なるためコーヒーの味わいの印象に影響します。
が、しかし、コーヒーの味わい(成分の抽出)に影響している原因は水自体の味わいより、もっと細かい小さな世界なのです。

それは水の中に含まれているミネラルです。
皆様ミネラルウォーターはご存じだと思います。
クリスタルカイザーやevianなどが有名ですね。
ミネラルウォーターに限らず、水道水や天然水など身近な水には必ずミネラルが含まれています。
ミネラルとは無機物のことで、水に含まれるミネラルの場合、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)などが挙げられます。シリカ(SiO2)なんかも美容で有名ですね。これらミネラルは健康的な生活を送るために体内の働きを助け、体の組織を形成する原料にもなる栄養素です。もう一つ、水において重要な成分として重炭酸イオン(HCO3-)があります。重炭酸イオンは体内で血液のpHを正常に保つための緩衝剤として使われます(pHについてもこの後で述べます)。
このように水にはたくさんのミネラルが含まれています。このたくさんあるミネラルの中で、コーヒーの抽出に大きく影響するミネラルが、カルシウム(Ca)マグネシウム(Mg)重炭酸イオン(HCO3-)です。
私はこれらのミネラルが実際、味わいにどの様に影響するのか研究していました。研究結果はまた後程お伝えします。
ここではコーヒーの抽出に重要なミネラルを知っていただければと思います。

硬度

硬度というワードを皆さん耳にしたことがあるのではないかと思います。スーパーでお水を選ぶ際、この硬度を見て買う方もいらっしゃるかもしれません。
硬度とは英語でHardness(ハードネス)
つまり硬さのことです。
硬度の他に、軟水と硬水という言葉を聞いたことあると思います。これも水の硬度に関連した言葉です。
硬さと表現しましたが、硬度とは水の中に含まれるマグネシウム(Mg)とカルシウム(Ca)の量を示す言葉です。単位には〔mg/L〕〔ppm〕が使われます。
ppm又は百万分率とはParts per million(パーツパーミリオン)の頭文字で、100万分の1の割合のことです。主に濃度を表すために用いられ、ppmとmg/Lは同じ割合なのでどちらを使っても問題ありません。mg/Lの場合で説明しますと、分子のmgはgにすると0.001gです。分母のLは水の場合1Lはgにすると1000gになります。すると0.001/1000になり、0.001÷1000で0.000001。よって100万分の1になるわけです。
例えば硬度50[mg/L]とは、1Lの水の中にマグネシウムとカルシウム合わせて50mg(0.05g)含まれているということです。
この先でもppmが登場するので、なんとなくすごく小さい数なんだと覚えていただけると良いかと思います。

硬度の種類

硬度には大きく分けて4つの種類があります。
○総硬度(GH)
一般硬度
とも呼ばれ、皆さんが目にする水のラベルに書かれている硬度はこの総硬度です。水に溶け込んでいるミネラルの総量を指しています。
○永久硬度又は非炭酸塩硬度
これは水中の硫酸塩や塩化物のマグネシウム(Mg)とカルシウム(Ca)の量を指しています。永久の由来は沸騰してもミネラル分を取り除けないためです。
○炭酸塩硬度(KH)又は一時硬度
ドイツ語でKarbonathärteなのでKHとも呼ばれます。
重炭酸イオン(HCO3-)の量を指しています。
沸騰させるとカルシウム(Ca)と化合して炭酸カルシウム(CaCO3)になりスケール(水垢)を形成し、硬度が下がるため一時硬度と呼ばれます。
他にもアルカリニティアルカリ度とも呼ばれます。これは重炭酸イオンのpHがアルカリ性を示すためです。炭酸塩硬度が高い水は、アルカリ性を示すものが多いです。
○マグネシウム硬度
水中のマグネシウムの量。
○カルシウム硬度
水中のカルシウムの量。

硬度の種類のイメージとしては以下の様な感じです。

総硬度=永久硬度(マグネシウム硬度+カルシウム硬度)+炭酸塩硬度

硬度の計算

又、硬度には計算式があります。一般的に硬度の計算には以下のアメリカ硬度の式が使われます。

硬度[ppm]= Mg[ppm]×4.1+Ca[ppm]×2.5 

日本で用いられている硬度はこのアメリカ硬度です。アメリカ硬度の計算は、水中のカルシウムとマグネシウムの量を炭酸カルシウム(CaCO3)の量に換算しています。
いきなり難しく感じる方もいるかと思います。
この換算には物質のモル質量[g/mol]が関係しています。モル質量とは単位物質量あたりの質量で、物質によって異なります。例えば、同じ体積の木の球と鉄球では重さが違いますよね?原因は鉄(Fe)のモル質量が木の主成分である炭素(C)のモル質量より大きいからです。
換算に使う炭酸カルシウム(CaCO3)のモル質量は、なんと100ピッタリです(100.0869[g/mol])。マグネシウム(Mg)のモル質量は24[g/mol]、カルシウム(Ca)は40[g/mol]です。
なので炭酸カルシウムのモル質量に換算するには、マグネシウムの場合100÷24した4.1倍、カルシウムの場合は100÷40で2.5倍する必要があるということです。
例えば、マグネシウムが12ppm溶けているお水があったとします。先程の式を使うと、12×4.1=49.2。このお水の硬度は49.2[ppm]だということが分かります。

Q. ではCaが80[ppm]の硬度306.6[ppm]の水があります。この水に含まれるMgは何ppmでしょうか?

A. まずカルシウム硬度を計算します。先程の計算式を使うと、80×2.5=200[ppm]。総硬度の306.6[ppm]から求めたカルシウム硬度を引くと、306.6ー200=106.6[ppm]。つまり106.6[ppm]がマグネシウム硬度になります。よってマグネシウムの量は106.6÷4.1=26[ppm]になります。

、、ちなみにこのお水は、evianです。
少し計算に慣れましたでしょうか。

軟水と硬水

続いて硬度による水の種類の話をしたいと思います。
世界保健機関(WHO)の基準では、硬度が0〜60ppmを軟水、60〜120ppmが中硬水、120ppmを硬水としています。日本は河川が短く、水が岩に接している時間が短いため、ミネラルの溶出が少なく一部の地域(山口県や沖縄県など鍾乳洞やサンゴ礁がある地域)を除きほとんどが軟水です。
一方、ヨーロッパは地下に石灰岩が多いため、硬水がほとんどです。
軟水で有名なお水は、コカ・コーラのい・ろ・は・すやSUNTORYの南アルプスの天然水などが挙げられます。
硬水はevianやCONTREX、DOLCE&GABBANA、Diorあたりが有名でしょうか(不意)。
一般的に軟水で淹れたコーヒーは酸味が出てまろやかな味わいになり、硬水は苦味や飲みごたえのあるコーヒーになると言われています。
硬度についてもどのように味わいの違いが出るのか検証をしました。

TDS

2回目の登場です。
しかし、ここでのTDSは導入編でお話ししたコーヒー液のTDSではなく、水のTDSです。
総溶解固形分の意味は変わらず、水の中に含まれる物質の量を指しています。単位は〔ppm〕を使用します。
水のTDS。つまりミネラルの量を指しています。
硬度と同じじゃん。と思った方がいるかもしれません。
そう、硬度とTDSはとても似ています。
TDSと検索すると「🔍TDS 硬度 違い」と出てくるほどです笑
硬度とTDSの違いは、水に含まれる「全ての」物質の量を指しているか、「特定の」物質の量を指しているかの違いです(TDSは溶解固形分ですからね)。
硬度の場合は特定の物質、マグネシウム(Mg)とカルシウム(Ca)の量を指しています。
TDSの場合は水中の全ての物質の量を指しています。マグネシウム(Mg)とカルシウム(Ca)に加え、重炭酸イオン(HCO3-)やナトリウム(Na)、カリウム(K)、水道水に含まれる塩素(Cl2)などもTDSには含まれます。
なので、同じ水の硬度とTDSを測った場合、基本的にはTDSの方が大きい値になります。
TDSの測定にはTDS計を使用しますが、導入編でお話ししたコーヒーのTDS計とは異なり、プリズムではなく電気伝導率を使った測定方法になります。

pH

pHは英語のPotential hydrogenの頭文字で、日本語で水素イオン指数と言います。液体の中に溶け込んでいる水素イオン(H+)の量を指しています。
基本的にpHは0〜14で表され、7.0を中性とし、7以下を酸性、7以上をアルカリ性(塩基性)としています。
大体、水のpHは約7を示します。抽出されたコーヒーはpH5ぐらいです。
pHの測定には主に指示薬法(懐かしのリトマス紙など)やガラス電極のpH計を使います(これが正確で便利)。
また、水素イオン濃度[H+]の逆数の常用対数を使った計算方法も存在しますが、かなり面倒なので基本的には使いません。私は実際ビュレットを使って中和滴定をし計算しましたが、pH計で測定した値とほぼ同じ値になりました。面倒なのと、かなり手順を精密に行う必要があります、、、(もうやりたくない)

      pH=ーlog10[H+]

一般的に酸性の水で抽出されたコーヒーは酸味が強く、塩基性の水で抽出すると苦味が増すと言われています。pHについても検証を行いました。

余談:pHのことを「ペーパー」と読む人は昭和の人だと、あるコーヒー屋さんのオーナーが仰っていました笑  
現在では「ピーエイチ」又は「ピーエッチ」と読むのが一般的になってきているようです。

超綺麗な水

純水蒸留水というお水を聞いことはありますでしょうか。RO水脱イオン水なんてものもあります。
これらはミネラルや不純物が全く含まれていない非常に純度の高い水を指します。なのでTDSが0[ppm]です。又、pHは中性の7.0を示します(僅かに電離してる、水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH-)の量が等しいため)。
本当に真水です(語彙力)。

ここでカスタムウォーターの話を少し。
皆さんはカスタムウォーターという言葉を聞いたことはありますか?コーヒーが好きな方は聞いたことがあるかもしれません。
名前の通り意図的に作られた水のことです。
競技会では多くのバリスタが、このカスタムウォーターを抽出に使用しています。
カスタムウォーターを作るにあたり、ベースとなるのがこの純水や蒸留水なのです。
カスタムウォーターはミネラルの濃縮液を別で作り、それをベースとなる水に加えていくことで作っていきます。この際、ベースとなる水に水道水やミネラルウォーターを使うと、元々ミネラルが含まれているためミネラルのコントロールが難しくなります。
ベースにTDSが0[ppm]の水を使うことで、作り手が自由自在にミネラルを0からコントロールすることができるのです。

精製水というお水もよく耳にするかと思いますが、精製水は純水や蒸留水よりも純度が少し低いものを指します。

はい!と今回はここまでにしたいと思います。
第一部では水の基礎的なことをお話しさせていただきました。最後まで読んでくれた皆様ありがとうございました。
水について少し知れましたでしょうか?
第二部の方では、もう一歩踏み込んだマニアックなことについてお話ししていきたいと思います。

第二部の内容

カスタムウォーターの作り方
・各ソリューション(濃縮液)の作り方(化合物の質量計算の方法etc)
各ミネラルの味わいへの影響力
・Mgの影響力
・Caの影響力
・Kの影響力
・HCO3-の影響力
ミネラルの組み合わせ
硬度の影響力
TDSの影響力
pHの影響力
カスタムウォーターのメリット
カスタムウォーターのテクニック
豆に合わせたカスタムウォーターの使用例etc

それではまた第ニ部でお会いしましょう!

                  清水兼聖

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