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『クリスマス・キャロル』 修正される前の資本主義への警句

 『クリスマル・キャロル』(ディッケンズ著 村岡花子訳 新潮文庫)は、イギリスの文豪チャールズ・ディッケンズの出世作です。

 わたしはなぜか二冊この本を買っており、先日書棚を整理していて気づきました。似たようなことはほかにもあって、衝動的に本を買う癖を直さないといけないと感じはじめました。

 この物語は、小学校か中学校の教科書にも載っていましたので内容は知っていました。でも、教科書に載っているのは作品の一部ですし、文豪ディッケンズの作品ですから、ちゃんと読めば教科書にある「考えてみよう」の項目で誘導される感想とは異なる感想を持つかもしれないと思い、最初の一冊も次の一冊も買ったはずです。二冊を買うときは、一冊目を買ったことなど忘れていたようですが。

 ところで私は、この物語は非情な守銭奴が「改心」する内容だと理解しています。
 ここだけだと、「よくある道徳物語」に思えますが、この本は1843年12月19日に出版されています。つまり19世紀中盤の出版です。
 19世紀のイギリスは、「工場労働者の過酷な労働環境が社会問題化された」と中学の社会の教科書に書かれていたと記憶しています。
 マルクスの『資本論』の初版発行が1867年9月17日ですから、『クリスマス・キャロル』が出版された時代がどういう時代であったか想像できます。私は、共産主義者ではありませんが、共産主義思想の影響によって資本主義は修正されることを余儀なくされたものと思っています。
 この修正により、労働者の労働環境の改善、貧困層への支援などがなされるようになりました。
 もともと資本主義は、「富の確保を追求した結果、努力して生き残った者が生産手段を手に入れたのであって、そのどこが悪い。」という弱肉強食を肯定するかのような思想でしたが、それが修正され著しい不公平や人権を侵害するような取り扱いは認めない、となりました。

 『クリスマス・キャロス』は、そういう社会の変動が起こる直前に書かれた作品といえます。
 主人公スクルージは、金の亡者ですがこのこと自体はなんら責められることではありません。
 また、寄金活動に対して辛辣な見解を述べカネを出すことを拒否しますが、この見解も一応の理屈は通っていますし、カネを出すかどうかも自由です。こういうスクルージの姿は、当時の資本家達をイメージしたものだと思われます。

 しかし、彼はクリスマス・イブの夜に改心します。
 その改心は、神の警句によるものか、自分の良心の呵責によるものか、自分の言動が悪魔の領域に近づこうとしているという自覚による恐怖からなのか物語では示されません。
 でも、スクリージは改心します。

 この本の裏表紙には「文豪が贈る愛と感動のクリスマス・プレゼント。」とありますが、私には、「文豪が資本家に対して抱く、静かな怒りとあるべき姿をクリスマスのベールで包んだ猛烈な社会批判。」に思われます。

 以上

#海外文学のススメ #クリスマス・キャロル

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