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『まだまだ2分間ミステリ』とミステリの読み方

 『まだまだ2分かんミステリ』(ドナルド・J・ソボル ハヤカワ文庫)は、『2分間ミステリ』シリーズの第三弾です。200ページの中に61問のミステリ風クイズが出題されています。
 このシリーズの三冊は「ミステリは作者と読者の頭脳戦である。」と主張する派のミステリファンに歩み寄った企画のように思われます。
 私は、「ミステリは文学性があった方がよい。」と考えます。だったら、この種の本を忌避するのかというと、そういうことはなく、楽しく読みました。ちなみに、このシリーズは全部持っています。
 この本のように、「短い文章から不合理な点を見つけだし出題者の真意を当てる。」方式は頭のトレーニングとして面白いと思っており、否定するものではありません。

 私個人の意見としは、ミステリに犯人当て以外の要素が入ることは好ましいと思っています。だからこそミステリを複数回読み返すことができるわけです。犯人当て一本にしか興味を抱かせないのなら、一回読み終えたらその本の寿命はそれでおしまいってことになってしまします。
 本一冊分読む時間を、探偵役や脇役それに被害者と付き合ってきたのに、読み終えたらそれでお別れというのはなにか寂しい。人気探偵のシリーズ物というのもありますが、被害者は何度も使えませんから、結局寂しくなることには変わりありません。

 アガサ・クリスティの『ナイルに死す』は、犯人とトリックが分かった後から読み返すことで、犯人の言動を、想定外のアクシデントに動揺しながらも殺害計画の完成を試みようとする言動を、理解することができます。(ちなみに私は、この犯人に同情的です。減刑すべきだとは思いませんが。)

 テレビドラマ『警部補古畑任三郎』の深夜ラジオ放送中に殺人を犯す回で、ドラマ冒頭にクルマの中で犯人が、被害者となる者と普通に話をしながらストッキングを脱ぐシーンがあります。この犯人は、この後しばらくして、休憩中のわずかな時間に、靴を脱ぎ走りやすい素足で疾走して被害者を殺害し戻って来て、何事もなかったかのように仕事を進めます。つまり犯人は、ドラマ冒頭から殺害の意思を持ってその準備をしていたわけです。この犯人の揺るがない犯行動機と実行力のあるキャラクターは、ドラマを一度観ただけでは分からないように思います。

 この『まだまだ2分間ミステリ』は、私のミステリの読み方を整理させてくれました。

以上

#2分間ミステリ #ミステリ #ナイルに死す #古畑任三郎

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