父が亡くなった時のこと

父はガンで亡くなった。発見した時には既に手遅れだった。

最期は緩和病棟に入院していたのだが、給
食もロクに食べられずにいた。

父への見舞いが2日ほどあいてしまったと思ったある日、病室に父はおらず、がらんどうであった。

ナースステーションで看護師さんに訊くと「ご自宅にお帰りになられました」と。
あの身体で帰れるわけないのにな?と首をかしげると「ご家族にお訊きください」。いや家族なんだけどな~。

自宅に何回電話しても通じない。父のケータイに電話してみると、初めて聞く男性の声。父の兄を名乗った。向こうも私の名前はすぐにわかった。

彼は居場所を告げた。そこが葬儀場であることはすぐにわかった。
  
すぐに向かった。小部屋に安置され、3人の男性が葬儀をどうするか話し合っていた。

3人とも初対面であった。私は目礼をして、上がり框すぐの所に正座した。一番年嵩の一人が一番若い人(この2人は同じ会社)に「この方は?」と訊いた。初対面の男性は「この方が娘さんだ」と言った。私のことを常々聞いていたのかもしれない。

ひとしきり話した後、2人帰って初対面の伯父と2人きりになった。
まず父が亡くなった瞬間のことなどを訊いた。
そして「危篤になった時に連絡をもらえなかったのが悲しいです」と言った。
「申し訳ない。君を呼ぶことは全く頭になかった」と。そんなものなのね。

かなり時間が経ってから、父の後妻さんがスッキリした顔をして葬儀場にやってきた。葬儀をどうするかとか、生前お世話になった方への連絡などは全部伯父に任せて、自分一人だけ睡眠不足を取り戻したらしい。
私は呆れて、父の死に目に会わせてもらえなかったことを攻める気も失せた。


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