派遣録75 闘病記④ 手術

マイペース♪(サンセットスウィッシュ)

 年金機構からの不合格通知に絶望した俺の心を癒されなかった。
 当たり前だ。数日後に脳腫瘍の手術を受けるのだ。俺は未来に何を期待したら良いのか?
 そんな時に、スマホのYouTubeで“マイペース”という歌を聴いた。

 そびえ立った大きな壁に恐れることはない♪
 答えのない人生に、迷うことなく、キープ マイ ペース♪

 松山医師(仮名)は相変わらず明るく気さくで手術への怖さはなかった。
 だが、嫌な考えは浮かんでしまう。
 手術が成功しても、俺はまた非正規でまた“冴えなく、惨めな社会人”生活が待っている…。
 そんな風に考え込むと陰鬱で、“嫌な想像”をしてしまう。怒り💢もある。

 そんな時、たまたま聴いたこの歌詞が、妙に心に残った。
 “答えのない人生”
 まさに今の自分のようだった。

 

死の縁を巡る

2011、3,29。
それは俺の人生が“変わった日”だ。

世の中は3/11の東日本大震災で大変な中だった。

 その日の早朝、俺は自分で歩いて、医大の地下にある手術室へ徒歩で向かった。
 手術台に寝ると、手術の格好をした松山医師「遂に、来たね…」と笑いながら声をかけてきた。
 俺は「…お願いします」と答えた。
 この松山医師は明るく、そこまで緊張していなかったが、ここまできたら、かなり緊張した。

 俺の身体に針が刺された。痛くはない。もう針にはなれていた。
 寝ている俺に、麻酔医が「もうすぐ寝むたくなりますよー」と声をかけてきた。
 俺は眠さが来た。
 眠くなりながら思った。 
 (死ぬのかな?)
 死への恐怖が湧き出した。
 (…俺の人生、ここで終わるのか?)
 急に“生”にすがりたくなってきた。
 (俺の人生、悪いこともなかったけど、良いこともあんまりなかったなあ。…これで良かっのかな…)
 そんな事が頭の中を巡り出すと同時に深い眠気が訪れた。
 (俺、どうなるの?)
 
 ここまでは覚えている。後は記憶がない。
 年金機構への怒りや年金事務所の事、派遣など仕事の事は思い返さなかった…。

 2日後の朝、俺は目が覚めた。



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