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娘の誕生日

長女が産まれたのは21年前の寒い日だった。
その2年前、まだ独身だった私は卵巣の摘出手術を受けた。仕事が忙しくて受診が遅れ、見つかった時には摘出しかなかった。
「2つあるから大丈夫。」
医師からも家族からもそう慰められ励まされた。自分でも言い聞かせてはいたけど、期待するのも怖くて、半ば強制的に妊娠は諦めようと考えていた。摘出手術の後、喪失感と痛みで「うんうん」うなされてICUで一晩を過ごした。その夜の記憶は濃いグレイ色。モノクロに近い。

 2年後、娘を出産した。前日からの陣痛と分娩の疲労からぐっすりと寝てしまった。
そして眠りから目覚めた時、
「ああ、私は赤ちゃんを産んだんだ。。」
卵巣を失い、マイナスからゼロにするための痛みを経験していたからか、目覚めた時に「得る」ものがある手術は私にとって言葉では言い表せないほど幸せだった。
目覚めた瞬間、まるで世界がピンク色に見えたあの時の記憶は今でも忘れられない。

この21年間、決していつも良い親ではなかった。
「あの日あの時に戻って、言ってしまった言葉を取り消しにしたい!」
という局面は、この21年間に幾度もある。
振り返ると毎回涙が出てくるような、激しい後悔や辛い思いをした出来事もある。
常にピンクではいられないのが現実だった。
それが子育てだし親になるということなのかもしれない。
1年に一度、この日が来たらあの時のピンク色で全てをリセットし、またこの日が来たことに心から感謝したいと思う。

終わり


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