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深海に漂う⑥

タクシーの中で、ボンヤリと昨日の事を考える。

私は、カミングアウトをしていない。
ずっとノーマルな振り、普通の人の仮面を被っている。
例えば、好きなタイプ。
本当は、身長が高めで少しキツそうに見える美人に惹かれる。それだけじゃなく、外ではできる女だけど2人の時だけは弱い部分や甘えた部分を見せて欲しいなんて言う独占欲もあったりする。
芸能人なら比嘉 愛未とか?身長は低いけど、吉高由里子も好きなタイプ。年上なら、りょうも好き。あ、昨年見たドラマから、イ・ホジュンも好きだ。
こうやって、女性なら好きなタイプは沢山思いつく。
でも、男性は…。なので、いつも答えを決めている。誠実で頼れるタイプが好きで、芸能人では鈴木 亮平だと言うようにしている。
思考が脇道に逸れた。
つまり、酔っ払っていた昨夜、素の自分をこぼしたりはしてないだろうか。普通の振りは、できていたのだろうか…。

あの店で、あつさんの途切れない会話と、私の横で少し困ったような表情で時々相槌をうつ環さん。2人が創り出す空間が心地よくて、久し振りに世界に色が戻った気がする。
部屋までどう行ったか記憶はないけれど、落ち着く匂いのベッドで誰かを抱きしめた感覚が残っている。
耳元で、「大丈夫。大丈夫」妙に落ち着く声が聞こえていた。その声が、私を眠らせてくれた。
急にその記憶の一部が蘇り、タクシーの後部座席で1人焦る。
抱きしめた思いのほか華奢な身体と、頬に触れる首すじの香り。デコルテ辺りに、何度も唇が触れたのを覚えている。
…最悪だ。やってしまった。きっと昨夜の事を不快に思い、仕事だと偽って私が起きる前に出ていったのだろう。

申し訳無さと恥ずかしさで、穴があるなら…いや、穴を掘ってでも入りたい気持ちに押し潰されそうになる。

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