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レンタルする人

 「はあ、抜きたい」
 夜。その言葉を発端に僕は自転車でレンタルビデオ屋へと向かった。お目当ての作品を借りるためだ。
 数分後、無事に到着した。駐輪場に自転車を置き、入店した。
 中に入り、目当ての作品を探しに奥へと進む。周りには棚が置かれており、洋画や邦画、アニメ等があった。子供から大人までが楽しめる作品でいっぱいだった。
 隅の方まで向かうと、18禁と書かれた暖簾をくぐった。入るとアダルト作品が目に入る。先ほどの場所とは違った雰囲気が流れている。18禁コーナーには年配の男性がほとんどで、あまり清潔感のない大人たちが作品に手を出しては、吟味し続けている。
 さっそく僕も作品を探していく。どんなジャンルで楽しもうか迷った。最近お世話になっているのは上司系だったので、別のジャンルを探すことにした。人妻や熟女、痴女やギャル。どの作品も魅力的で悩んでしまう。
 あれから時間は過ぎていき、結局手に取ったのは毎回上司系だった。カゴに気に言った作品を入れていき、レジへと向かう。昔とは違い、無人レジが増えている。それらのおかげで店員に僕自身の性癖を見られることなく、レンタルすることが出来た。全ての商品をバーコードでスキャンしていく。現金を入れ、会計が終わらせると袋の中へ入れていった。それを大事に持ち、自転車で家へと帰った。

 帰り道、僕は考え事をしながら運転していた。なぜ上司で抜くのかを。
「好きなのかな……」
 会社で見かける女上司の姿を思い出す。厳しい人だが、とても頼りになる存在。そんな彼女に憧れているのかもしれない。だから自慰行為をする時にも、彼女の顔がチラつく。
 だが、勇気を出して誘うことが出来ないでいた。だから、自身だけで満足するだけで何かを得ることなく逃げてばかり……。今日も荒んだ心を癒すために1人部屋で行為をする。
 そんなことを考えていると、前から人が歩いてくる。顔には見覚えがあった。彼女も僕の姿を認知し、話しかけてきた。
「倉知くん?」
 その人物は憧れの上司、佐々木さんだった。
「お買い物?」
「ええ、まあ」
 上司と話すときは上手く言葉を伝えれないでいた。緊張しているから。
「そっか。それじゃあ明日も一緒に仕事頑張ろうね!」
 彼女は明るい口調で伝え、そのまま去っていこうとした。しかし、この瞬間を僕は逃したくなかった。
「あの!」
「うん? どうかした?」
 彼女の言葉のあとに何かを話した。今の僕自身の気持ちを。しかし、緊張のせいか記憶がなかった。だけども、久しぶりに素直な自分を出せた気がした。

 

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