見出し画像

インドの国民食「マギー」から見る、ネスレの戦略

こんばんは!

インドで働く身としても、インド人の仕事観で文化的な違いを感じることが多く、外国企業・外国人がインドでいかにビジネスを進めていくべきかは、個人的に興味深いテーマのひとつだ。

今回は、外国企業ながらインドの食文化を作ったある会社の戦略についてだ。

みなさんは「マギー」をご存じだろうか。
「マギー」は、インドの国民食ともいわれるほど、人気のインスタント麺だ。
そして、これを製造・販売するのは、世界最大の食品飲料メーカーの「ネスレ」である。

インドは商習慣の違いなどによって、外国人が商売をするのが難しい国とされるが、いったいどのようにして、インドNo1シェアのインスタント麺が生まれたのか。

他のメディアでは取り上げられないようなインドの「深い」ニュース記事を取り上げ、「リアルなインド」を皆さんに紹介していく。
皆さんの意見があったら、ぜひコメントで教えてほしい。


“2 minute noodles”:

“2 minute noodles”

それは、インドで最も食べられているインスタント麺である「マギー」のキャッチコピーである。

大手競合他社が存在する中でも、「マギー」はこの市場で60%の市場シェアを持っている。
ネスレ・インドは1961年に立ち上げ、祖業である乳製品ビジネスを始めた。
今日でも、ネスレ・インドは「マギー」を含む調理済み食品が総収益の32%を占める一方、乳製品は42.5%を占めている。

1958年に世界初のインスタント麺として、日清が発売した「チキンラーメン」。
お湯を注ぐとたった2分で食べられる「チキンラーメン」は、高度経済成長期の日本で、すぐさま主婦の味方となり、大ヒットした。

実はこの出来事を、注意深く研究していたのがネスレだ。
ネスレは、日本で大ヒットし、世界中で売れ始めたこのインスタント麺に巨大なビジネスチャンスを感じ、まだ競争が起こっていない市場を求めた。
そして、ネスレはインドで、1983年にインスタント麺市場に進出する。
インスタント麺の最大のメリットはその手軽さだ。
「チキンラーメン」がそうであるように、お湯を注ぐとたった2分で食べられる、その手軽さを利用し、学校から帰宅した子供にすぐ食べさせられるおやつとして売り出した。
前述のスローガンである“2 minute noodles”はそうして生み出された。
当時のテレビコマーシャルがこちら。このテレビコマーシャルでは、子供たちがお母さんにマギーがほしいと言うと、「2 minutes」と言って、あっという間に出来る。
このコマーシャルは、夕食の支度で忙しい主婦に向けに、子供のおやつを手軽に出来ることをアピールしているのが特徴だ。
また、販売初期は、決して安くはなかったため、所得を高めに設定しいるため、登場する子供たちがヒンディー語ではなく、英語を使っているというのも特徴だろう。

販売戦略:

ではなぜ、競合に勝つことができたのか、理由は大きく分け3つある。

1つは、強固な販売ネットワークだ。
ネスレは、「マギー」を売る前から、20年以上に渡って、インドで乳製品ビジネスを行ってきた。
この既存の販売ネットワークを使って、3・4級都市といわれる地方の隅々まで、「マギー」の販売ネットワークを広げた。
これが、日清がインド市場でシェアをとれなかった大きな原因だ。

2つ目は、ピンポイント広告戦略だ。
ネスレは顧客を子供とその母親に絞り、その層に訴える広告を徹底して行ってきた。
例えば、子供を対象に、クイズ大会などのさまざまなイベントをインド各地で開催し、その場で無料で「マギー」を配った。
これは、年間400万人以上となる。
また、"お母さん"を主役におき、早く出来て、子供が美味しそうに食べるという、コマーシャルを一貫して作り続けた。

3つ目は、味のローカライズ化だ。
ネスレには、「食はローカルなもの(地域優先)」と考え、製品は世界中で販売されるが、標準化された味は持たない。
例えば、ネスカフェは世界中で200種類のブレンド、マギースープも300種類を販売している。
マギーには、袋に麺とスパイスが入っており、このスパイスを徹底的にローカライズすることで、インド人の心を捉えた。

逆風:

こうして、シェア80%を占めるほどの、人気の商品となったが、2015年に大きな事件が起きる。
2015 年 4 月にマギーから許容量を超えた水準の鉛が検出されたとして、「マギー」約 20 万袋の回収命令を受けた。
その結果、インド各地の約10 州で検査実施や販売停止命令に動き、事態が急速にインド全国に拡散した。
この時点で、シェアを失い、売り上げの30%の人気商品が販売出来なくなってしまった。

ではどのようにしてこの逆風を乗り越えたのか。

まず、ネスレはすべての製品を販売停止して小売店からの自主回収、また消費者からの払い戻しに応じた。
また、専用ホームページに、試験行程や試験結果データなどを事細かなに公表し、
カスタマーサービスのメールアドレス及び電話番号を公開し、消費者、メディアの記者からの個別の問い合わせに応じた。
このような真摯な対応により、顧客からの信頼を取り戻し、翌年には56%のシェアを取り戻した

最後に:

彼らの戦略から主に3つの点が学べる。

一つ目は、顧客へのアプローチよりも、市場選びに時間をかけるべきであるということ。
ネスレがもし日清が強いアジア圏の国で勝負をしていたら、同じ成功が得られただろうか。
成功するビジネスは時に、その市場選びで決定される場合がある。

二つ目は、顧客を常に明確にすべきであるということ。
ネスレはこれまで一貫して、顧客を子供とそのお母さんに絞ってきた。
そして、そのターゲットが何に不満を持つかを考え、その問題を解決する商品を、彼らに届くやり方で商売を行った。
そこが、日清でも、他の会社でもなく、ネスレがインスタント麺の市場で勝てた理由である。

最後は、商品をブランド化し、感情を販売すべきということ。
ネスレは、ただの麺を売っている訳ではない。
そこには、ドラマを観客に結びつけ、決して離さない。
ただの麺を、ブランド化することで、逆境があってもそれを跳ね返すことが出来る。

今回の分析は、これまでだ。
ご覧いただきありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?