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【インドのスタートアップ分析】ライドシェア業界の第三極

こんばんは!
日本でも条件付きではあるものの、今年の4月から利用が開始される「ライドシェア」。
ライドシェアとは、いわゆる「白タク」のことで、車の所有者と車に乗りたい人を結び付ける移動手段のことを指し、日本でフードデリバリー事業を行う「Uber」の祖業はライドシェアである。
地方や観光地でのタクシー供給不足や価格競争による値段の低下などが期待される一方、安全性の問題やタクシー業界の雇用の問題により、日本では本格解禁はされていない。

一方、インドではライドシェアは非常に一般的で、主要空港には、大手企業のUberやOlaの予約レーンが用意されている。
Olaは2021年のシリーズJの投資で73億ドルの評価を受けている巨大スタートアップだ。

今回は2022年のシリーズ Dで1億8,000万ドルを獲得し、インドライドシェア業界でOla、Uberに次ぐ第三極として注目を浴びる、Rapidoを分析する。


Rapidoとは:

Rapidoは、ライドシェア大手OlaやUberと異なり、バイクのみに絞ったライドシェアサービスを展開し、中流階級や地方都市の人々のニーズに着目し、既存大手に迫る勢いでシェアを伸ばす。
バイクタクシーの分野のみだと、65%と最大手となっている。

Business Today

創業者は、サムスンのソフトウェアエンジニアとして働いたPavan Guntupalli氏と、Eコマース最大手Flipkartで財務担当として働いていたAravind Sanka氏と、IMPStantというベンチャー企業の創業者Rishikesh SR氏だ。
Aravind氏のFlipkart在籍時に感じた、インドの物流の非効率性に着目し、プラットフォーム上で、企業や個人を直接つなげる物流サービス、TheKarrierを2014年に設立。
しかし、財務上の問題により、わずか1年で、会社をたたむこととなった。

その後、2015年にバイクタクシー専用のライドシェアサービスRapidoを設立。
当時、OlaとUberにより、インドのライドシェア業界は活気に満ちていた。
Softbankは2014年に、OlaへシリーズDで、10億ドルの評価で、2億ドル以上の出資を行った。

Tech Crunch

Rapidoの戦略:

なぜ、すでに巨大プレイヤーがいる市場への参入を決めたのか。
それは、ライドシェアが人気を見せる中、市場にある3つの問題を発見したからだ。
1つ目は、低額で利用できるサービスの不足だ。
当時、OlaとUberが注力していた分野は自動車タクシーの分野で、費用は200から400ルピーの範囲であった。
2021年時点で、インドの一人当たりの所得は、年間91,481ルピー、月にして、7,623ルピー。
利用額を300ルピーと考えても、月の所得の25分の1となり、1回のタクシー代としては破格で、なかなか中間層が気軽に利用はできない。
バイクタクシーであれば、はるかに低い金額で、サービスを利用することができる。

The Economic Times
"India's per capita income remains below pre-Covid level in 2021-22"

2つ目は、インドのバイクが非常に未活用であったことだ。
Rapidoでは下記のように語っている。
当時、2億2000万台のバイク所有者がおり、そのうち20%が失業者、パートタイム労働者、学生であり、1日の平均バイク利用率は約18%と分析している。

3つ目は、Rapidoの創業地バンガロールでは、インドの交通バスが渋滞がひどく、都市から外れたエリアをカバーすることができていなかったことだ。
つまり、ひどい渋滞への解決策がOla、Uberは提示できていないと考えていた。
しかし、バイクであれば、車の間をすり抜けて走っていけるので、渋滞にははまることも少ない。

この3つの問題の解決策として、バイクを持っていて小遣いを稼ぎたいドライバーと、より安い金額で利用したいユーザーをつなぐプラットフォームRapidoが誕生した。

バイクタクシーに絞ったのは、財務上の大きなメリットがあった。
それは、初期投資が不要であることだ。
インドでは、2021年時点で自動車率はわずか7.5%であり、バイクは49.5%である。
そのため、自動車タクシーのライドシェアを提供する場合は、ドライバーへローンという形で、自動車購入費の貸付を行う必要がある。
Olaのような大量のキャッシュがあればそれができても、Rapidoは前の会社が破産した状態での創業であり、ドライバーに投資するキャッシュはない。
バイクであれば、その必要がなかった。

DriveSpark
"State-Wise Percentage Of Car/Bike Ownership In India"

こうして、これまでライドシェアを利用できなかった層を取り込むことで、Rapidoは急速に成長していった。
その成長を支えたのが、ドライバーの数だ。
Rapidoは公式発表で、100万人以上のドライバーを抱えているという。

Rapidoのドライバーになることは、OlaとUberのドライバーになるより、はるかにローリスクで、手軽である。
例えば、車のドライバーであれば、毎月メンテナンス費やローンなどの固定費が必ずかかってしまう。
ただ、Rapidoなら、そういった費用はほとんどかからない。
これはかなり大きい。
なぜなら、Rapidoのドライバーはほとんどが副業で、1日数時間ドライバーとして働くスタイルであるため、リスクが高ければ、始めるインセンティブはやはり低くなってしまう。

最後に:

こうして、利益率が低いため、市場のプレイヤーがあえて、選ばなかった市場に特化することで、市場での新しい顧客、セグメントを確立し、群雄割拠のライドシェア業界で確かな存在感を出すことができている。

この話は、実は以前取り上げたダイヤモンド市場と全く同じ戦略である。

その市場が巨大で、すでに資本を持った大型プレイヤーがいる場合は、そのプレイヤーがあえて踏み込まない領域にチャレンジし、特化することで、新しい価値の創造が可能となるのだ。

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