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本好きになったきっかけをもらった本とその思い出の話/野崎まど『[映]アムリタ』

僕はそこそこ小説を読む方だ。
年間50冊を目標にしているものの最近は40冊いかないくらい。

昔から好きだったわけではなく、本屋の小説コーナーに行くようになったのは高校3年生の頃から、それまでは漫画かラノベだった。

そんな僕が小説にハマったきっかけの本と読んだ時の記憶は鮮明に覚えている。些細なことかもしれないけど、それを書きたくなった。

高校生の僕が小説を読む機会と言えば友達から勧められて貸してもらったラノベくらい。
僕のお気に入りは『ココロコネクト』とか以前記事にも書いた『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』
本に関する情報を手に入れる機会は友達から勧められるか、現代文に出てくる作品くらいだった。

ラノベを読み慣れていた時、抱いていた感情が一つ
「もっとすごいのが読みたい」
もちろんラノベは面白いし、すごいと思う時もある。
だから読んでいる人決して否定したい訳じゃない、あくまで一人の感想として捉えて欲しい。僕の読み方が甘かったかもしれない。
それにラノベの定義があまりにも曖昧だから、僕がこれから勧める小説もラノベかもしれないし、ラノベを読んでいたからこそ、これから紹介する作品がより面白いと感じたと自信を持って言える。

とにかく僕はそれまで小説にそこまでハマらなかった。
そんな時にとある1冊の本に出会って転機が訪れた。今まで衝撃を受けた作品と聞かれたら迷わずにこれを答える。
それがメディアワークス文庫から出版されている野崎まど著『[映]アムリタ』という作品。
野崎まどのデビュー作であり当時電撃文庫大賞の中のメディアワークス文庫大賞に選ばれた作品でもある。

野崎まどはSF作風よりの作家だけどラノベっぽい書き味だから読みやすい。

作品について紹介すると、大学で映画制作部に入った映画ヲタクの主人公二見遭一が天才と噂される映画監督であるヒロイン最原最早の映画製作に参加して楽しい?大学生活を送る話だ。

男と女が出会い、一緒に何かをすることで恋に芽生える、高校生の学園モノの話を大学に舞台を移してやったような話だが、この作品は最後に衝撃の展開がある。

これまで本に出会ってきて、その中でドンデン返し系の作品も読んできたが当時としては衝撃的で、本を読んでいる自分以外の世界は何も変わっていないのに自分の中がぐちゃぐちゃに変わってしまった。

この本に出会った日、僕は親と祖父の実家に行くために車に乗っていた。
そこで道中にある本屋に寄ることになりメディアワークス文庫のコーナーでこの本を手に取った。
手に取った理由は表紙の女の子が可愛かったからだ。ラノベを手に取る理由もそうだろう。
現在は新装版が発売されていているが当時の旧表紙はこんな感じ。

映画が好き、そして来年大学進学を考えていた僕には大学の映画制作部の話というのに興味を持ち、250Pくらいの内容だったため多少文が重くても頑張れそうだったため購入して車の中で読んでいった。

序盤主人公の遭一が大学入学時から天才と噂されているヒロイン最早の書いた絵コンテを読んで、意識が飛ぶ、しかも意識を取り戻したのが2日後というとんでもない切り出しに、僕は心つかまれた。
絵コンテの段階で意識が飛ぶようなことがあるのだろうか、それを映画にしてしまったら果たして遭一はどうなってしまうのか、もう面白い。

最早の映画に興味を持った遭一は映画の主演として参加をする、最早は監督という役割だけでなく、主演も演じるとのことで、最早と遭一の2人は映画を撮影しながら関係を築いていく。
2人が参加する映画のタイトルが『アムリタ』となっている。
この2人の掛け合いはラノベのような軽さでコントを見ている様だった。

また、この本はしばしば映画論が語られる。映画は大衆に見てもらうために広く浅く作られるが全人類を等しく深く感動させることのできる映画は存在しないし、これからも作られない。もし作られたとしてもそれは映画ではなく、宗教に近いモノになると話している。
そして最早は逆に誰かのために狭く深く映画を作ればもっと深く人を感動させることが出来るという。

「上映時間、例えば二時間の中で、見た人を笑わせて、怒らせて、泣かせて、希望を抱かせて、失望させて、願わせて、祈らせて、諦めさせて、死にたいと思わせて、それでもまだ生きたいと思わせる。そういうことです」

[映]アムリタP51より

それに対して遭一は時間が足りない、不可能だと否定をしていた。

僕はこの本を読んでから最早のセリフがたまに映画を観ている時に頭から浮かび上がってくる。果たしてそんな映画が存在するのかと。
それ以前は、あまり考えて映画を観るタイプではなく、単純に映画を観ることを純粋に楽しんでいた。映画を追求することで人を感情をコントロールできるという最早の理論は夢があり同時に怖いと思った。
多分今の僕は最原最早に寄って無事にコントロールされている。

物語が進んでいく内に遭一は最早という人間に対して興味を持ち、調べ始める。元カレが事故で死んだこと、撮影している映画のシナリオは元カレが作っていてそれを受け継いだこと、最早に興味を持っているのは自分だけではなく、彼女の映画を心理学的に研究している研究者がいること。

調べていく内に遭一は彼女が『アムリタ』を製作した意図、自分に近づいてきた意図を知ることになる。
それがミステリー要素になっていてどんどん読み進めてしまった。

その謎の事実を知って僕はただただ興奮していた。車の中で読んでいるのでそれを悟られない様に。
また同時に、なんで今までこの本を誰も僕に勧めてこなかったのかと、何故か八つ当たりしたい気持ちになった。
誰もこの本の凄さに気が付いていないのか、もしくはこういう本が実は世の中にありふれているのか、自分だけが面白いと思っているのか。

今となっては分かるが人は本が好きでも、何が好きなのか、どんなジャンルを読むのか全く違う、それほど本が溢れている。

でも、この本は遭一が事実に気が付いてもその先にとある真実が隠されていたのだ。
最後まで読みたいけど驚いている頃にはもう祖父の家についていた。
大学生の頃、僕は通学中に本を読むことがあって、面白い本に出会った時は下車せずにそのまま読み続けることがあった。
そういうことをこの時始めてやった。
僕は祖父の家でもこの本を読み続けた。あんまりよろしくないが、欲求には勝てなかった。

最後まで読み終えるとどんでん返しは1回だけではなかったことが判明する。表が裏になったのが1回目のどんでん返し、それがもう一回起きると、もう一度表になる……そう思っていたけど、そうじゃない。
「!?!?!?!?????!!!!!???!!??」
何もかもに疑問を持ち始める。
1冊の本で僕は狂わされた。

僕はすぐにもう一度読み返した。
ストーリー自体があやふやになっているわけじゃなくちゃんと筋が通っている、考えた人天才だろ。

僕はもう一度思った『なんで今まで誰も僕に勧めてこなかったのか』と。
それから僕はラノベを読む友達にこの本を勧めたが、興味を持ってもらえなかった。
そして、自分が好きな本は誰かに勧められるのを待つのではなく、自分で探すしかないと感じた。
とある人を狙って狭く深く感動させられることはできるかというテーマの作品に僕は見事に感動させられて変わってしまったのだ。

それから僕は文芸作品やミステリーと様々な本を読むようになった。
『[映]アムリタ』がなければ本が好きにならなかったとは言わない、多分僕は人よりも感情が動かされやすい方だし影響を受けやすい、別の衝撃的な作品に出会って本にハマっていただろう。

でも、これだけは断言できる。僕はメディアワークス文庫がラノベと小説の中間にあるジャンルだと思っていて、そのおかげで今までラノベしか読んでなかった僕がそれ以外の本に手を出せた。

自分のレベルでも読みやすいと思える本、好きなジャンル・テーマや題材、そして可愛いと思える表紙、好きな本に出会えるのはかっこいい事を言うと奇跡だと思う。
今も年に一回くらいはこの本を読むが毎回馬鹿みたいに驚かされる。
ちなみに同作者の『死なない生徒殺人事件』という作品もめちゃくちゃ面白い、是非2つの作品を手に取ってみて欲しい。





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