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Christie Front Drive「Stereo」、エモの原風景

エモというジャンルがある。感情を押し殺すかのように繰り返される静謐なアルペジオのリフレインは徐々に熱を帯びボーカルの絶唱と共にバンド全体が一体化し楽器を掻き鳴らす。その一体化した姿、音像は紛うことなきパンクやハードコアのそれである。ジャンルとしてのエモは「DIYなスタイル」「完成しきっていない演奏」「美しい刹那的なメロディー」という言葉で説明されることが多い。若さ故の言葉にならない感情(=エモ)を吐き出したバンド達を説明する言葉として十分であろう。それに加えて先に述べた通り、私は静と動の間で揺れ動く姿を「エモ」と名付けたい。

また、エモは後にポストロックへと拡大する。ハードコア/エモバンド・BastroのメンバーであったジョンマッケンタイアはThe Sea and Cake、Tortoiseにおいて当時傾倒していた電子音楽とバンドサウンドの音響的接続を試みた。同様にChristie Front Driveもエモ~ポストロックの橋渡し役として捉えることが可能だ。

彼らについて少し。1993年にGt.Vo、Gt、Ba、Drのオーソドックスな四人編成バンドとして結成した彼らは4,5年間の活動でスタジオアルバム1枚を残し解散した。2014年に再結成。奇しくもMineralも再始動した年である。

その残した1枚がエモの原風景であり、拡張するエモの血筋の原点である1997年作、「Stereo」だ。4分から6分程度の6曲が「First Interlude」~「Fourth Interlude」(リマスター版では「Fourth Interlude」は「Coda」に)と名付けられた1分程度のインスト曲に挟まれるという構成の10曲32分。先ほど「エモは静と動の間で揺れ動く姿こそが本質」と書いたが、このアルバムはまさにそんなアルバムである。

オープニングナンバーの「Saturday」はそのエモの本質を味わえる。アルバムタイトル通りステレオでパンニングされたギター、そして中心に陣取るピアノが一音一音を丁寧に3分半ほど刻む。ギターのフィードバックノイズが挟まりようやく歪んだ和音が奏でられ、切なげな叫びが挿入される。数分に渡る「静」の積み重ねからヒートアップし爆発寸前までじっくりと向かっていく高揚感に拳を握らずにいられない。

4曲目「Novenmber」はロック史に残る名曲と言っていいだろう。コードをなぞるアルペジオと切ないメロディーはルーリードから連なる詩人/メロディーメイカーの系譜に則ったものだ。「It's Over」「Staged Over」と歌い上げる様はweezerなどを連想させる。中盤からバンドの熱量は上がりながらも爆発しきらない、しかし確かな足取りで「Should Go(行かなくちゃ)」と歌い上げる。「これが僕らの音楽だ!!!」と快哉を叫びたくなる。

インタールード曲の使い方も巧みである。とくに「Second Interlude」は打ち込みと生のドラムを折衷した質感、「Third interlude」でのアンビエント的なエフェクトとギターの融合など、ただのエモバンドで片づけることのできない音響的挑戦を成し得ている。

全10曲で32分と非常にコンパクトながら速さで駆け抜ける印象も無く、インタールードや重ねられるアルペジオで叙情的でしっかりとした重さを持ってエモ/ギターロックを堪能できる。「静」と「動」が両耳からタイトル通り「ステレオ」で脳に侵入し身体の中心で爆ぜる。歴史に残る名盤である。


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