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【2Q決算分析】三井化学(2023年11月)

今回は三井化学の決算説明資料を読んでいきます。これで財閥化学は3社目ですね。

2023年の2Q決算は以下の通りです。

・売上高:8,237億円
・コア営業利益:420億円(5%)
・営業利益:312億円
・最終利益:207億円

売上は前年同期比で△13%、コア営業利益は前年比△46%の減収となりました。

事業領域は以下の4つ。

・ライフ&ヘルスケア・ソリューション:メガネレンズ市場、不織布、農薬
・モビリティソリューション:エラストマー、複合材、PPコンパウンドなど樹脂関連
・ICTソリューション:半導体、電子部品
・ベーシック&グリーンマテリアルズ:石化事業

もちろん、他の財閥化学と同じで石油化学事業であるベーシック&グリーンマテリアルズ部門が大きく収益を落としてしまい、トータルでの減益に繋がってしまいました。

一方で、他の3部門は安定して黒字を計上しており、そこまで悪い数字には見えません。3部門についてはどれも営業利益率が10%前後で稼げており、三菱ケミカルや住友化学のような、「石化以外も雲行が怪しい」ということではありません。

三菱ケミカルの社長は石化事業の国内再編を呼び掛けていますが、三井化学の社長や会長は、インタビューを見る限りは三菱ケミカルとの協業を拒んでいるように見えます。

個社によってエチレンクラッカーの位置づけが違いますから、これを十把一絡げにして「多過ぎるから減らそう」という単純な形では済みません。

こういった発言は、三菱ケミカルの社長への当てつけのようにも見え、三井化学の方針としては、「三菱ケミカルがやる気ないなら、ウチが残存者利益を取りに行く」という野心が垣間見えます。

当然、昨今のサプライチェーンの世界的な再編の影響で、モノづくりや発電は地産地消の時代に入りました。

日本市場は人口減少により全体の需要は減るものの、乱立する総合化学メーカーのエチレンプラントが全て不要というわけではありません。

三菱ケミカルは国全体、業界全体を見ての発言となりますが、三井化学の場合は徹底的に競争して椅子取りゲームを勝ち抜く意志を感じます。

今期の予想は売上高1.7兆円、コア営業利益は1,120億円(6.3%)を見込んでいます。

セグメント別に見ても石化部門が赤字なだけでその他の領域は安定して推移する見込みです。

業界的にもライフ&ヘルスケアは堅調、モビリティは今後も成長余地あり、半導体などのエレクトロニクス分野も成長が期待されている業界であるため、財閥3社の中では最もポートフォリオが良いように思います。

三菱ケミカルも同じようなセグメントを成長分野に位置づけていますが、実際は口だけのアピールであり、数字は良くないので製品力も営業力もイマイチです。一方で三井化学はしっかりとした営業利益を出せていますので、機能製品へのシフトで1歩リードしているように思います。

EUV用のペリクルや、モビリティ分野ではPPコンパウンドやエラストマー素材に強みがあり、世界で戦える製品も保有出来ています。

これで石化事業を切り離したり、残存者利益を制することが出来れば、財閥3社の中では三井化学が勝ち抜くように思います。

設備投資や研究開発費も増やしており、しっかり成長にお金を使っているので、その点も財閥3社の中では今後に期待できる内容です。少なくとも住友化学のような財務状況ではないです笑

営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフローが大幅に増えており、これは別に研究開発費や人員を削減してこうなっているわけではありませんので、純粋にキャッシュフローが良くなっていることが分かります。


人材について

スコアは3.35で住友化学よりも良いスコアです。(三菱ケミカルは3.08)

管理職になるのは他社よりも早く30代前半で、そこから年収が大幅にアップします。10年目くらいで登用され、年収は800万円程度に。ただし、1,000万に到達するのは40歳付近ですので、同業他社と大きくは変わりません。これより高い業界は総合商社やディベロッパー、良い時の海運やマスコミ系、金融系、メーカーだと食品やビール大手などでしょうか。

30前半で一般社員の限界は600万円程度ですので、管理職になって800万円台になるのは早いが、それまでは他社と比較してもそこまで高くないという印象です。三菱ケミカルは30代前半の組合員で750万円程度もらっている口コミを見かけましたし、30歳手前でそれくらい貰っている人も見かけました。

理論的には、ジョブ型雇用でベースの高い三菱ケミカルで20代を過ごし、30代で三井化学で早めの管理職になると、安定して700~850万円程度を長期間もらえるということになります(笑)

賞与も今後は業績的に三井化学の方が多く貰えそうですからね。

福利厚生は財閥3社とも差はなく、住宅補助は無し。社宅と寮があるくらいです。

社員口コミを見ると、住友化学を見ているのかと勘違いするほど同じで、社風はThe JTCです。

若いうちはバイトの雑務かのような仕事内容が多く、やる気のある社員は裁量多めで働きますが、大した仕事をしていない社員との待遇差はなし。実力のない上司が1,000万円もらっていて上から頭ごなしに指示をしてくるなど、まあどこも同じようなものですね笑

人材戦略・中途採用の戦略のYoutube動画を観ましたが、「Vision2030に合わせて即戦力採用を増やす」「個の力を重視」「経営戦略にマッチする従来の三井化学にはいない人材を採用する」など、採用にも力を入れていることが伺えます。


総括

石油化学セグメントが厳しい状況ではありますが、それ以外の機能製品へのシフトは財閥3社の中では最も上手く行っているように見えますし、きちんと数字も出ています。

自己資本比率は40%にも届いていませんが、三菱・住友よりも高く、キャッシュフロー自体も数字が良くなっていることが確認できましたので、やはり財閥3社の中では最も有望なのが三井化学なように思います。

三菱ケミカルは強烈なリストラと産業ガスの爆益で株価が足上がる可能性はありますが、機能商品の伸びはイマイチです。

一方、三井化学はすでにモビリティソリューション事業部で区分けされ、組織的にモビリティセクターに素材のスペックインを行っています。

三菱ケミカルは製品や分野ごとに組織図を切っていましたので、そういうところからも三井化学が顧客業界を見て現場に深く入り込もうとしていることが伺えます。(三菱は注力業界は決めているものの、社員の業界知識が深くならない組織図である印象)

個人的に気になるのは三井化学の石化事業で、三菱ケミカルの業界再編の呼びかけを無視して、残存者利益獲得競争の椅子取りゲームを制しにいく個人プレーを見せてくれると面白いなーと思います。

国としてエチレンセンターの再編は必要だが、営利企業的には「結局は競争してるんだよ」という資本主義のシビアな部分を見せてくれると、競合他社も危機意識が高まってレベルが底上げされるのではないでしょうか。

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