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LocJAM ー ゲーム翻訳作業の裏側

原文:https://locjam.itch.io/script-change-replay

拙訳:https://rie-18ra.itch.io/script-change-replay

今回の課題をどんな風に訳していったか、一次訳から最終訳までを比べることで、私の翻訳時の頭の中を垣間見せることができたらなと思う。ここに載せている作業や処理が正解だとは言わないが、翻訳の作業風景というのはなかなか表に出ることがないので、なんらかの参考になればと思う。

素読み

まずは、章立てと、それぞれの章の割合など、ざっと全体に目を通す。ひとつひとつの文章を細かく見るわけではないけれど、全体の話の流れを把握する。たとえばひとつの主張が出てきた時に、筆者がそれを反論のために持ち出したのか、話の補強のために持ち出したのかで、文の訳し方は変わる。話の流れの中で読者を迷子にして終わないように、地図をざっと描くのだ。

筆者が一番重視していることは何か?何を読者に感じてほしいのか?

今回の課題の場合は、互いに尊重し合ってほしいということが何度も書かれていて、セラピー目的のTRPGプレイヤーのことも前提にしているようだと感じた。他人を排除してゲームプレイをするのではなく、みんなで“confortable”を探ってゆこう、というのがこのテキストの目指すところであるので、たとえば“unconfortable”の訳は、「嫌」とか「不快」などの強い言葉をできるだけ使わず(ここぞという時のために取っておく)、「気が進まない」、「わずらわしい」といった婉曲的な表現を使った方がよいな、と素読みしながら考えた。

また、この時に口調(ですますか、だであるにするか、漢字を多めに硬い感じにするかなど)と記号表記(括弧を全角にするか、半角にするかなど)も決めておく。あとから丸っきり変えることもあるが、とりあえずこの2つは基本方針を先に決めておく。それから用語として統一した方がよい頻出語や重要なフレーズもなんとなく下見する。

それからお仕事の時は、この時点で原文データとしておかしいところがないかも確認する。たまにあるのだ、文章のお尻が切れていたり、聞いていた分量と明らかに違ったり…

素読みが終われば、翻訳に入る。

今回は以下に、「はじめに」の中程にある1段落の変遷を載せる。

一次訳

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そんな時は、このスクリプト・チェンジ・リプレイの出番だ。
(空き)
(空き)
ゲーム中、好きな時に、プレイヤーやゲームマスター (GM) がゲーム内の話題や行動に不満があれば、スクリプト・チェンジと唱えることができる。

翻訳ツールを使うか、使う場合はどのツールを使うかは、もう本当になんとなくで決めている。今回はMemoQを使った。一時訳の時点では、とにかく訳漏れ(原文に書かれていることが訳から抜け落ちていること)がないように、気をつけている。
ではなぜ真ん中の2つのセグメントを訳していないかというと、”rewind”などの用語がたくさん登場するからだ。こういった用語の訳は、あとで詳しく説明があるので、その部分を訳しながら決める。だからここで仮訳を入れても変更する可能性が高いので飛ばした。

二次訳

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そんな時こそ、”ちょっと止まって、リプレイ”の出番です。 ”ちょっと止まって、リプレイ”では、巻き戻し、早送り、ポーズ、コマ送りといった合い言葉を使います。 ほかには、ハイライトリール、インスタントリプレイ、まとめ会議などの合い言葉もあります (後半で説明)。 プレイヤーやゲームマスター (GM) は、ゲーム内の話題や行動に不満があれば、ゲーム中好きな時に、”ちょっと止まって”と唱えることができます。

とりあえず最後まで訳して、もう一度頭から見直しつつガンガン修正を入れる二次訳。だいぶ変わっているのがわかる。今回の課題で一番悩んだのが、タイトルである”script change”と”tool”の訳だ。前者はもっといい訳があるだろうなと思っているんだけれど、”tool”を「合い言葉」にしたのは結構気に入っている。

最終稿

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そんな時こそ、”ちょっと止まって、リプレイ”の出番です。”ちょっと止まって、リプレイ”では、巻き戻し、早送り、ポーズ、コマ送りといった合い言葉を使います。またこのテキストの後半では、ハイライトリール、インスタントリプレイ、まとめ会議などの合い言葉も登場します。ゲーム内の話題やイベントが心地よくないとプレイヤーやゲームマスター (GM) が感じた時は、いつでも”ちょっと止まって”と伝えることができます。

最後は実装して、日本語だけを読んで修正を加えた。「後半で説明」というのを変えて地の文に組み込んだのは、このパートが全体の中では導入部にあたるので、急に説明的な記述になると流れがぶった切れると思ったからだ。筆者がここで本当に言いたいこと(この文の役割)は、パッとイメージの湧く「巻き戻し」などのフレーズに加えて、最後まで読んでもらえると「ハイライトリール」などの独自のシステムも紹介していますよ、ということだ。だからそれを再現できるようにした。“at any point during the game”の訳も、日本語として自然に読みやすくなるように、この段階で大きく変更した。全体のトーンも、最初に私が描いていた「互いに尊重し合おう」という色に寄っている(と思う)。

最終ツールチェック

そして最後にいよいよ…校正ツールのJust Right!をかける(このソフトは文字をアウトプットする人はみんな買ってください!お高いと思うかもしれませんが、値段以上の価値はあります!!!)。

Just Right!は誤字や用字の間違い、表記のばらつきを教えてくれる。なぜそれが効果的なのかというと、このツールがあるおかげで、多少の間違いはあとからJust Right!が見つけてくれると安心できて、訳を考える時に言葉の置き換えそのものに集中できるからだ。
そして今回Just Right!が見つけてくれた間違いはこちら。

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それを言うならグロテスクでしょーが!!

まじで、これは自分の目ではさりげなさすぎて気づかない間違いだった……!ありがとう、Just Right!

という感じで、今回の訳は完成した。これだけ何回も行き来して上から下から斜めから見直せるのはよい方で、仕事では期限やデータ形式などの制約により、その時にできる最大限のことだけをやって提出することも多い。こんなに制約なしで自分が納得いくように翻訳できるLocJAMは貴重な機会なので、ぜひみんなLocJAMに参加しよう!

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