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メッセージBook『谷口雄也ー覚悟を力にー』(廣済堂出版)発売記念ーアイドル選手は、超えなければならないものなのだろうかーその5

 

ー脱アイドルの向こうにー

さて、時空を戻そう。2014年の剛力彩芽コスプレ以降ー脱アイドル化してゆく谷口雄也の野球成績は、どうだったのだろうか。

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…こうしてみるとアイドル力全開だった14年の成績は、かなり良い…。15年はやや落ち込み、16年に再び盛り返す。

この間のファイターズ は、大谷翔平二刀流中心主義。みんな大谷くんのことしかほとんど覚えてないはず。そんな中できゅんちゃんは、実に地味にがんばっていたが、ファンの間では「チャンスに弱い」と思われていた。成績を眺めても打点は14年の11点が最多である。走者のいる場面、タイムリーのチャンスの場面が巡ってくる度、テレビの前でドキドキしていた。

今日は打ってくれ、お願い! このままでは二軍落ちだ〜〜😭

打てないままに終わる・・鎌ヶ谷に帰る。鎌ヶ谷で成績を出す、一軍で故障者が出るなり空きが出ると戻ってくる。短期中期のカンバックサーモン。そんな感じの1.5軍選手。それが客観的な「普通の野球選手」としての評価だと思う。

そんな頃、誠に失礼ながら谷口くんが、それでも一軍に呼ばれるのは(やっぱり人気があるからだよな)と内心思っていた。同じくらいの成績で同じくらいの力のある若手選手がいたとして、しかし球場にお客を呼べるのは「きゅん」の方だ。ドケチ采配、ビジネス優先主義の日ハム球団(ていうか吉村GM)ならば、そういう考えじゃないのかなーって。

でも、またそう穿ちながらも、こちらも逐一ファームの試合も成績もチェックしてる。バッターもピッチャーもその時その時、それなりの成績を出してなければ、一軍に上がってはこないのは、わかっていた。

しばしばファンは、ゆうちゃんが贔屓されてるだの幸太郎が贔屓されてるだの文句をつけたりしてるけど、客観的に、えこひいきがあるとは、見えない。ゆうちゃんだって下から上がってくるときには、2試合3試合はきっちり抑えているのである。

もちろんきゅんちゃんだって、その法則にのっとって出たり入ったりしていただけだ。(人気があるからじゃないの?)と偏見を持っていたのは、わたしの方。本当に浅はかでお恥ずかしい限りのファンだった。

2016年、開幕スタメン、相手の楽天エース則本キラーたるデーターを背負い、緊張のDH出場。千載一遇のチャンスを絶対に逃すことはできない。神様仏様〜〜札幌ドームの一塁側C指定席から祈る気持ちで応援していた。

結果は、則本投手から大きな犠牲フライをもぎ取る。打点がついたのを確かめて手を叩く笑顔が、オーロラビジョンに映っていた。嬉しくて胸がいっぱいだった。その後も外野のレギュラーとはいかなかったが、日本一の決まる広島に、きゅんちゃんはいた。

ー僕としても一番いい年だったと思いますー(『メッセージBook』P77)

というように、地道に一軍選手の階段をこつこつと上がっていく。

のだったが、翌年のキャンプで事態は暗転してしまう。ここから先はファイターズ ファンならよくご存知の通り。谷口くんは、右膝十字靭帯損傷の大怪我をし手術、2017年はリハビリに費やし、18年もほぼ二軍暮らし、秋に札幌ドームで打席に復活したときは、大歓声に包まれていた。

そのときの気持ちは、すでにnoteに書いてあるので、読んでみてください。

そして、2020年。谷口雄也は、なんと10年目のシーズンを迎えた。同期同学年の西川遥輝もともに。実績も年俸も、その名のごとく遙か彼方を走っている遥輝だけれど、雄也もがんばっているのである。10年プロ野球選手を続けるって大変なことなんですよ。10年選手っていうくらいで。

チーム内の位置づけは変わっていない。しかし(給料の安い)若手選手を次々抜擢し、チームを新陳代謝させながら維持していかざるを得ないのが、ファイターズ というローカル球団である。きゅんちゃんのお給料は、そんなに高くないからむしろ安心みたいな逆転現象もあるにせよ。まったく安泰ではない。27歳はファイターズ における中堅のタイムリミットでもある。ここは本当の正念場だな。

きっと、本人も覚悟して挑むであろう春のキャンプ。驚くべきことに一軍名簿に「谷口雄也」の名前はなかった。(石川亮もなかった!)なんでやねん!どういうことやねん!シーズン後半、ちゃんと結果出してたじゃんよお!?どうなってんですか?栗山監督うううう!?(おそらくは、若い若い選手ばかりの二軍キャンプでのお目付役として当てられちゃったんでしょうけど)

憤懣やる方ないファンの心をよそに、新型コロナの影響を受けながらもキャンプは進んでいった。ほぼずっと二軍扱い。無観客の練習試合、オープン戦が始まる頃、ようやく若い子(万波くんだけど)と入れ替わりに一軍に入ってきた。

そして、わたしは、再び自分の不見識を知ることになる。二軍に置き去りにされて腐ってるんじゃないか。若い人と比べられて緊張してるんじゃないか。力が衰えているとチームに判断されているんじゃないか。様々なマイナスの想像は。

主に代打の役割を与えられ、打席に立つ。最初は緊張が見られたけれど、徐々に力を発揮しだし、ヒットを放ち、結果を出していく、開幕直近、一軍当確のランプを点そうとする。その姿に。

しぶとい。

しぶといなあ。谷口くん。

10年間、応援してきたけれど、ただの一度も口にしたことのなかった言葉が、自然とこぼれてきた。

そうして、そもそもそういう選手だったのではないかと思い至る。

ルーキー時から西川遥輝と否が応でも比較され、先行されても、じりじり後から付いていく。アイドル人気で右往左往しながらも、私生活での失敗やスキャンダルめいた事態は一度も招かず、与えられた仕事には黙って応え。チャンスに弱いと言われながら。何度も何度も降格しながら。舞い戻ってくる。

大きな怪我をしても、看護師さんとの触れ合いイベントに自ら出席する。真冬の狸小路にも立ってみせた。あれはアイドル業の使命感だったのか。それとも「僕はすっかり大丈夫なんですよ!」と知らしめるためであったのか。どっちにしたって、それはープロ根性ーと呼ばれてしかるべき態度ではなかったか。

アイドルと根性は、相性が悪いなんて、大間違いだ。アイドルも野球選手もこなしてきた谷口雄也は、ど根性ガエル!みたいにどっこい生きてる〜〜両面性でもってしぶとく生き残るのだ。

脱アイドルの彼方に。

ー覚悟を力にーと示した、一人のプロ野球選手は、どんな新な姿を見せてくれるだろうか。


って…すんごく楽しみだった20年シーズンは、開幕しない。これも運なのか。条件は皆同じ。この掴みどころのない、先の見えない薄闇の世界で、途方にくれながら。それでもなお明日という日は、やって来るしかないのだから。プロ野球ファンのみなさん、いつかきっと必ずや、野球場でお会いしましょう。

                  完

















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