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稲葉ジャパン。東京五輪で金メダルを掴む。苦悶の4年間が終わったー稲葉さんの実践について、考えてみる。

トップの写真は、リンクした読売新聞の記事から拝借しました。

稲葉さん。やっぱり、わたしたちファイターズファンは、そう呼ぶ。「金メダルしかない」と言葉にし続けてきた東京オリンピックで、優勝することができた。

稲葉さんが侍ジャパンと称する、NPB(日本野球機構)のトップチームの監督になったのは、4年前のことである。前任小久保監督の後継は、なかなか決まらず、打撃コーチだった稲葉さんは、人が良いので有名で、断りきれずに引き受けたんだろうなあって、わたしは想像していた。ただの想像です。

その時から、侍ジャパンー日本代表の中枢は、北海道日本ハムファイターズ主体のチームとなった。監督、稲葉篤紀、ヘッドコーチ、金子誠、投手コーチ、建山義則は、ファイターズの元同僚。外野守備コーチの清水さんは、ファイターズのコーチを長いことやっていた。ファイターズ関連でないのは、元中日(最後は巨人)の井端さんくらいだ。 

結果的に金メダル取れたんだから、いいのかもしれないけど。苦労ばかり多く、しがらみだらけのNPB、野球界で面倒な仕事を引き受けるのは、ファイターズくらいだったんじゃねーの?くらいのことは、性格の良くないあたしは思った。

だいたいが、金子誠コーチは、ファイターズの現役コーチである。ヘッドコーチやったり、打撃コーチやったり、なんだかよくわからない役目だが、引退以来ずっとやってる。そういう立場のなのに、侍のために現場をしばしば離れるわけである。他のチームでもあるのかしら、って清水さんもそうか。

稲葉さんのため、侍ジャパンという名の日本代表のため、ひいては日本の野球全体のため、役に立てるなら、どうぞ。って感じでないのか。

球界全体、本家本元のNPBが、そういう気持ちを抱いているようには、見えませんでしたけども…。なんか日本代表チーム、意外とお金にならないなあ的な白けを感じるのは、性格の悪いあたしだけか?

プロ野球が好きで、ファイターズが大好きで、前に仕事してたお店にもよく来てくれて、レジも打ったことある稲葉さんや、建山さんとか、もろに近所で地元の親しみがあるわけで、色々疑念があって開催に反対していた今回のオリンピックも野球の試合だけは、全部見たし応援もした。

今回の日本代表も、甲斐拓也を中心とした、良いチームだった。甲斐くんのリードと梅ちゃんのそれとは、申し訳ないけど、やっぱり差があった。選手たちは、疲れ果てるまで頑張った。みんなずっと見てきた好きな選手ばかりだから思い入れもある。茶番のようなノックアウトステージ(なんでこんな名前つけたのか?全然ノックアウトされないじゃん…)とやらの仕組みに呆れながらも、勝ち続けたチームの技術と根性は、本物だっただろう。

稲葉さんもマックも建山さんも、ようやっと肩の荷が降りて、良かった。そう思うけれど。このオリンピックでなかったら…というモヤモヤした気持ちは、どうしても拭えない。ただただとりあえず勝って終われてよかったというほっと感だけが、そこはかとなく漂う虚しさとともにある。

……おめでたい話のはずなのに、陰気な愚痴ばかりですいません。

オリンピックと別の話として、稲葉ジャパンが勝って良かったな、と思う点はある。稲葉さんは、怒らない監督だ。選手を尊重して対話し、信頼関係を築き、主体性のあるチームを作った。代表選手たちは、「国を背負っていて、楽しいわけない」とか「責任が重くて辛かった」とか、明かされる苦悩は、本音だと思うけれど。それでも、みんな一様に、楽しそうだった。

プロ野球所属チームでの野球は、彼らにとってあくまでも生活を支える「仕事」である。日本代表だって仕事かもしれないが、一種のボランティアのようなものだ。ボランティアって言葉は、日本では「奉仕の精神」と読み換えられているが、本来の意味は「自分の意思で参加する」ことにある。

やっぱり普段は、しがらみだらけのプロ野球の中で、毎日試合に出るレギュラー選手たちにとって、代表チームは、言ってみれば純粋に野球をすればいいだけの場所だったのではないか。

そういう中で、稲葉さんは、そもそも代表の選抜について、もちろんリーグでの成績や実績が第一としても、さらに選手の人間性を優先していたように見える。甲斐拓也と千賀滉大のホークスバッテリーを最後の最後まで待ち続けたことに象徴される、献身的に野球に没頭するタイプの選手。スワローズの山田哲人や村上宗隆のように天真爛漫でプレッシャーに強く(というより周囲をあまり気にしない?)天性の勝負強いタイプ。

投手陣では、カープの森下くんやルーキーの栗林良吏、ファイターズの伊藤大海。彼らも非常に意思が強くて、主体性のある選手たちだが、金子コーチがうちのひろみのことを言ってたように、なんとなく「ふわっとして」いる。ふわっとしているとは、プロ野球の世界で未だあんまり痛い目にあっていない、言い方悪いけど擦れていない、アマチュアっぽさがある。彼らもまたいろんなことを考える必要はなく、純粋に野球をやれば良かったし、結果も伴うことができた。

主軸を担ってきた、カープの鈴木誠也やホークスの柳田ギータにしても、今ひとつ打撃成績は上がらなかったが、彼らもそもそも天真爛漫なタイプで、性格は優しい。いわゆる体育会的な先輩風を吹かす人は見当たらず、稲葉ジャパンにはギスギスしたところが、まるでなかった。

良い意味でも悪い意味でも現場に丸投げ感100%の侍ジャパンだったけど。ゆえに勝負の全ては、現場に任されていた。チームは、勝負ー野球に没頭できていた。負けたらどうしよう、失敗したらどうしようという圧力を、極力受けすぎない、ギスギスしないで、先輩後輩の人間関係で余計な気を使いすぎないですむように、風通しのよい「仲間」でいられるように、稲葉さんは、相当気を使ったんではないか。

上からガミガミ統制する、支配的な暴力構造の下にある昭和の野球ではもう絶対に通用しない。稲葉さん自身の性格もあるだろうけど、ファイターズでのトレイ・ヒルマン監督との経験がおそらくは大きいと思える。

負けたら徹底的に叩かれる日本野球とメディアと日本人の現実を、骨身にしみて知っている稲葉さんだからこそ。慎重に慎重を重ね、石橋を叩きながら、細やかに選手との信頼関係を築き、チームを守り、勝利を導き、結果的には自らを守り切った。本人的には、きっと薄氷を踏む、ギリギリの。

大事なことは何なのか。この結果が、プロ野球と日本の野球の方向転換に、結びつけば良いと思う。でもどうだろうか。ー敵ーは、そんなに甘いもんでもないような気もする。





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