私の中の『APOLLO』 ~千曲と私~④
9月の風を感じるようになると『APOLLO』を思い出す。
「つつじがにおう」という歌詞からは、秋の曲ではないのかもしれないけれど。
「裸足で飛び出したきみ」との関係、想いを、
過去の描写と今の想いを交差させながら、曲は進んでいく。
ラブソングなのだろう。
曲と出会う時、聞く側のシチュエーションによって、
全く違うとらえ方ができるものだ。
私と『APOLLO』との出会いは、
強烈で、それゆえ鮮明に覚えている。
何度も泣いてたくさん悩んで、兎にも角にも大変だった看護学校をはれて卒業し、社会人1年目、就職して半年が経とうとしていた頃のこと。
私は、希望の病院の希望の科に配属されていた。
三次救急を担うその病院は重患が多く、いくら願っても報われない命。
忙しくて無我夢中の毎日。
それでも自分なりのやりがいを見出していた。
9月下旬、2日続いた深夜勤務明けの朝、
予約していたCDを受け取り、そのまま長距離バスに乗った。
数日前に連絡してきた学生時代の友人に会うために。
地元近くの総合病院へ就職した彼女は、
「こんなはずじゃない」「どうにもならない」
そう話していた。
それは命に対する言葉だった。
ただ生きたいという願い、ただ生きていてほしいという祈り、
それすら報われないことが日常である場所に身をおく人間としての言葉。
会ってもどうしたらいいのかは分からない、そんな緊張を抱えながら、
私は、バスの中でポータブルのデッキにCDを入れ、
ヘッドホンをした。
ボリュームを上げ、ONしたら、聞こえてきたのは、
イントロなしで彼の声。
ヘッドホンから鼓膜へと直接届く、その優しい歌声は、
緊張と夜勤明けの疲れた私を、
やわらかに解いていく。
バスは都心を離れ、まっすぐ続く道を走り続ける
出会った人たち、旅立ってしまった人たちの顔が車窓に浮かぶ。
優しく響き続ける歌声と
私の現実にリンクしていく歌詞
バスの中で、ひとり涙が止められなくて
幾度も幾度も溢れては流れて
そう、今 私はまさにその未来にいるのに。
辛かった日々を乗り越えて手にした未来にいるのに。
追い越すだけで終わっていないだろうか。
出会った人、旅立ってしまった人
そこに存在していた喜怒哀楽を受け止めていたか。
ただやり過ごしていなかったか。
何故だかすごく焦ってしまって。
あぁ、大切に生きよう。
忙しさにかまけていた自分と、彼女の感受性を想う。
乗り越えてきた学生時代と、この半年を想う。
彼女に会ったら、一緒にこの曲を聴きたい。
公共の中で、ひとりであんなに泣いたのは、あれが最初で最後。
もし、1曲目が『たわわの果実』だったなら、
『APOLLO』との出会いは、また違ったものになっていたと思う。
あの日、あの瞬間に、出会うべくして出会った。
私の中の『APOLLO』 あの瞬間を大切に過ごすための道標となった曲。
初出:2009-09-18 09:20 playlogより加筆修正
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