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戸惑いのあとさき

住み替えをした。長年生活した住まいからの引越しである。
結局次女がまだ同居しているのでダウンサイジングとはいかなかったけれど、住み替えは以前から考えていた。
もともと娘たちのために校区内限定で探した物件だったので、選ぶときに幾つか妥協したことがあって、いつか引越しするだろうな、と心の隅で思いながら住んでいた。ここ数年は、周りの住環境が変わったこともあり、引越し熱は高まっていたから、ようやく、である。

娘が出たり入ったりするたびに引越しは経験していたので軽く考えていたけれど、賃貸かつひとり分の引越しと比べてはいけなかったとすぐに思い知る。
年明けからずっと、旧住まいの見積もりから始まり引き渡しの手続きアレコレと新居の契約の手続きアレコレと転居に伴う変更手続きアレコレと引越し業者とのアレコレと、旧住まいの不用品処分方法や新居の打合せや諸々買い物と荷造りとで、休みはもちろん平日夜もほぼ忙殺される数ヶ月を送っていた。

残念だったのは創作の時間が確実に減っていたこと。本業がどんなに忙しくても、作詞がどんなに立て込んでいても辛いと感じることはないし、実家や施設への往復も今では私のほうが良い気分転換になっている。でも、その生活サイクルの中で更に不動産屋や銀行等との慣れないやり取りを追加することは疲弊するばかりで、時間が勿体ないとすら感じてしまった。自分で選んだことなのに。

インテリア好きを自称する私。引越し前はわくわくで溢れていた。実はインテリア好きが講じて北欧インテリアプランナーなる資格を持っているほど。
どんな内装にしてインテリアはどんなふうにしようか。新居には厳選したものだけを運び、それに合わせてさらに厳選したものを購入し、そのなかで暮らす。そう思うと気持ちが昂ぶって闇雲にあちこちのインテリアショツプを彷徨い歩いたり、ネットで好みのモノを探し求めたりして、時間をあっという間に消費したりもした。

それと同時に、逆に新居に持っていかないものをピックアップしていった。ずっと一緒にいたけれど、これからのライフスタイルを考えて。消費していく時間をどんなふうに暮らしていきたいのか思い浮かべながら、モノと向き合った。
当然ながら、簡単に手放すことを決めたものとそうでないものがあった。もともと持ち物が多いほうではないので、時間のかからない作業だと自分では思っていた。
でも。
もう何年も手に取っていない本。お気に入りだったのに仕舞いこんだままの文房具。いつかまた、と思いつつ結局そのまま手つかずのレース編み用品、毛糸、布、等々。もしかして金輪際使わないかもしれない、と思いつつ手放す踏ん切りのつかないモノたち。
使わないものの一時保管場所をつくって一定期間過ぎたら処分、などというアドバイスがあるけれど、とうに何年もその状態でも手放せないのだ。ただ場所を使っているだけのモノをどうして手放せないのか。

自分にとって必要なものって何だろう。
整理収納のテキスト通りにはいかない答えを求めて、時間の余裕もないのに心が漂う。
必要なものの中には当然お気に入りのものは含まれる。すっきりと余計なものは置かない暮らしに憧れつつも、必要=生活必需品とは思っていない。
林明子さんの絵本やピーターラビットのポストカードは生活必需品ではないけれど迷わず引越し荷物の中に入れていく。生活の潤いは生活必需品以外のところにある。いや、潤いとなるものは生活必需品である。
と決めつけたあとも、荷物を段ボールに詰め込むたびに、手元に残すものとそうではないものとの境界がだんだん分からなくなっていく。断捨離も整理収納も得意分野のはずだったのに。

不動産売買に纏わるちんぷんかんぷんの手続きを言われるがままにこなしつつ、どんなふうに暮らしたいのかを考えていた。何か月も。
次第に疲労が蓄積され引越しの頃はすでに意識消失していたのではないかと思うほど記憶が曖昧だ。

無事?引越しを終えて、一ヶ月以上経ってようやく生活が落ち着いてきた今、私はホームシックになっている。
自分の家にいるのにホームシックである。
まだ新居の間取りに慣れてないせいだろうか。窓からの景色が違うからだろうか。
お気に入りのものは持ってきた。使っていなくても処分するなんてできなかった。さらに自分好みの家具や小物に囲まれている。以前の住まいよりも新居の方が俄然私好みに近い。なのにときどき、あの歪と妥協の空間が無性に恋しくなるのは何故なんだろう。
その正体を知るために、これから私はここで暮らしていくのかもしれない。
ひとつひとつ整えながら。
いずれ答えがでたときに、やっぱりここが一番だと、そんなふうに思える空間になっていたらいい。

今年の桜は母と見ました


前回、久しぶりの投稿にも関わらず訪問いただき手土産を受け取ってくださった方々、本当にありがとうございました。この街の風景もやはりいろいろ変わっている印象は拭えませんが、通知のなかに馴染みのアイコンを見たときはじんわり温かいものを感じました。感謝多謝です。
また1か月以上空いての投稿となりましたが、マイペースを保ちつつ顔を出しますので、宜しくお願い致します。。

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