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【Disk】Iron Maiden全アルバムランク付け

 前回の投稿で6人編成以降のIron Maiden全曲レビューをやってみましたが、今回はIron Maiden全アルバム16枚をランク付けしてみました。

 ちなみに自分がメイデンを最初に聴いたのは、今から32年前の89年。Bon JoviやHelloweenを切っ掛けにちょうどハードロック/メタル系の音楽を熱心に掘り始めた頃で、確か兄貴が買ってた「Young Guitar」誌のバックナンバーを読んでたら"Seventh Son of a Seventh Son"の高評価レビューが掲載されていて、元々大好きなHelloweenが影響受けたバンドということもあって興味を持ち、レンタルCD店に「第七の予言」を借りにいったのが出会いだったように記憶してます。そこで最初に聴いた感想は「これがプログレなのか。ツインリードは凄いけど、複雑で覚えにくい曲が多いなあ」というもの。音楽的蓄積の少ない田舎の中坊が理解するには若干難易度が高く、少し高尚な音を奏でる上の世代(=おじさん)のバンドというのが彼等に対する率直なイメージでしたね。正直新しく聴くべきアーティストが多過ぎたことや、見た目も含めてどうしても自分の世代のバンドでないという意識もあって、当時の自分にはBlack Sabbath、Deep Purple、Scorpions、Judas Priest等と同様に「後回しで聴けばいいおじさんアーティスト」の位置付けに回されてました。今じゃ考えられないですが…。
 その後初めてリアルタイムで接した新作である"No Prayer for the Dying"も内容が精彩を欠いていたこともありハマらずでしたが、一気にメイデンへの印象を変えてくれたのがたまたまラジオ番組「Power Rock Today」で掛かった"Invaders"(3rd収録)。自分のメタル経験値が大分上がっていたというタイミングもあったのかと思いますが、「こんな主張の激しいベースがあるんだ?」という衝撃とスピーディーで攻撃的なのにキャッチーな曲展開に一発で心を持っていかれ、そこから全アルバムを追求するくらいのめり込んだというのが自分のメイデンストーリーになります。

 さて前置きはこれくらいにしてランク付けに話を移しますが、ここで悩ましいのが相対評価にすべきか絶対評価にすべきかという点。前者だとそこまでの名作や駄作でなくとも必ずSやDランクを選ばなくてはならず他アーティストと横並びに見れなくなるし、後者だと同じランクに作品が集中してランク付けの意味がなくなる可能性が高いということで、今回は相対評価をベースに一部絶対評価を採り入れて、両者のバランスをとってみました。ルールは以下の通り。

・S、A、B、C、Dの5ランク
・A~Cはアーティスト内の相対評価。各ランク30-40%ずつ振り分ける
・Sランクは絶対評価。年間トップ10レベルの名作。枚数規制なし
・Dランクも絶対評価。退屈盤、駄作。枚数規制なし

結果は以下の通りになりました。

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<Sランク>
・Killers (1981/2nd)
・The Number of the Beast (1982/3rd)
・Somewhere in Time (1986/6th)
・Seventh Son of a Seventh Son (1988/7th)

Sランクは4枚。メイデン史だけでなく、メタル史屈指の名作と言っても多くの人が賛同してくれるんじゃないかなと勝手に思ってます。この中でベストを選ぶとなると非常に難しい選択になりますが、ブルース・ディッキンソン参加以降メタル界を代表するバンドに成長していったという歴史的経緯と、パンキッシュな攻撃性とブルースのハイトーンを活かしたスケール感あるメタルサウンドへの移行具合の絶妙さという観点から、やはり3rd”The Number of the Beast”が「代表作」だと思います。特にメジャーコードの爽やかなサビメロの導入("The Prisoner"や"Run to the Hills")やドラマティックに展開しまくる長編曲("Hallowed be Thy Name")といった新領域楽曲の出来がすこぶる良いですね。ちなみに個人的な好みで言えば、メイデン史上最高の攻撃性と躍動感あるスピーディな展開が聴ける2nd”Killers”が一番好きな作品になります。やや吐き捨て型のパンキッシュなポール・ディアノのVo、前のめりのビートと巧みなロールを多用するクライヴ・バーのDrが素晴らしく、後年のスラッシュメタルへの影響力という点でも見逃せません。また音楽的完成度という点では、サウンドプロダクション、演奏、楽曲クオリティ(平均点の高さ)、アルバムトータルの芸術性の総合点で7th”Seventh Son of a Seventh Son”がNo.1だと思っています。"The Evil that Men Do"や"The Clairvoyant"のようなメイデン代表曲だけでなく全ての収録曲の完成度が驚異的に高いのが本作の特徴だと思います。なお6th”Somewhere in Time”も印象的なメロディ&展開の楽曲の詰まった素晴らしい完成度で甲乙つけ難いところです。”The Loneliness of the Long Distance Ruuner"や”De-Javu”といった印象的なツインリードを導入したHelloweenのプロトタイプのような疾走曲も魅力的。ただ完成度という側面では、スティーヴ・ハリス作のやや長い曲が多く、全体のバランス感(曲の配置も含め)や親しみやすさでは7thの方が一歩上かなという印象ですね。

<Aランク>
・Iron Maiden (1980/1st)
・Powerslave (1984/5th)
・A Matter of Life and Death (2006/14th)


Aランクは3枚。一般的なバンドがこのクオリティの作品を出したら、キャリアハイの傑作と呼ばれていたであろうレベル感の見事な内容で、実際1stと5thに至っては、Sランクに入れるかどうかを迷ったくらいです。1stはヘヴィメタルという音楽的フォーミュラの発展に絶大なる影響を与えた、歴史的側面だけ取ればBlack Sabbath - ”Black Sabbath”やJudas Priest - ”British Steel”並みの重要度を持つ作品。特に”Prowler”と”Phantom of the Opera”の2曲が突出して凄い。”Running Free”、”Strange World”という後年のメイデンからすると個性とインパクトがやや薄い楽曲が8曲中2曲(25%)含まれているという理由でSには至らずと判断しましたが、ディアノ期好きな自分としても非常に愛着のある作品です。同じくSランクと迷った5th”Powerslave”も、メイデン最強の疾走曲”Aces High”やアルバム終盤を飾るドラマティックな”Powerslave”、”Rime of the Ancient Mariner”が名盤としての風格を醸し出している作品ですが、よく聴くとアルバム中盤収録曲のインパクトが幾分弱いこともあり、Sランクには至らないと判断しました。また6人編成期の最高傑作14th”A Matter of Life and Death”は、メイデン史上最も重厚感と緊張感に溢れる作品で、6人編成以降のブルースの歌唱力強化によって初めて成し得ることができた「大作主義&メイデン版プログレメタル」の1つの完成形だと思ってます。

<Bランク>
・Piece of Mind (1983/4th)
・Fear of the Dark (1992/9th)
・Brave New World (2000/12th)
・Dance of Death (2003/13th)

Bランクは4枚。この中では12th”Brave New World”がワンランク上のB+といった感じですね。前回投稿でも書きましたが、10th”The X-Factor”以降の大作主義&プログレメタルなメイデンと80年代メイデンメタルのバランスが良く、楽曲のレベルも押し並べて平均点以上に仕上がっています。4th”Piece of Mind”は、名作揃いの80年代メイデンの中では一番普通な出来の作品という印象。ニコ・マクブレインにDrが変わりリズム面での小細工はむしろ強化された一方、彼等の持ち味であった性急なリズム展開がもたらす躍動感が薄らいでしまっています。またその後大成させていったプログレ風長編曲もまだ過渡期段階といった印象で、中盤の"Flight of Icarus"、”Die with Your Boots on"、”The Trooper”の強烈なインパクトに牽引されているアルバムという感じです。9th”Fear of the Dark”も名盤扱いされることが多いですが、実はメイデンとしては平凡な作品で、疾走曲”Be Quick or be Dead”とドラマティックな超名曲”Afraid to Shoot Strangers”、”Fear of the Dark”の3曲に助けられている印象が強く(緊張感溢れる”Childhood's End”も大好きですが)、前半はまだしも6~11曲目までのメイデンらしからぬ地味な楽曲群(つまらない訳ではないので普通に聴けますが)が足を引っ張っており、さすがに名盤とは呼べないと思ってます。13th”Dance of Death”は、佳曲揃いにもかかわらず、音の古臭さ、長編曲の地味さが全体をマイナス方向に引っ張っている「惜しい作品」です。

<Cランク>
・Virtual XI (1998/11th)
・The Final Frontier (2010/15th)
・The Book of Souls (2015/16th)

Cランクは3枚。この辺からはメイデンの平均レベルを下回る作品で(他のバンドに比べるとレベルは高いですが)、どっちかと言うと「ちょっとガッカリ感のあるアルバム」が続きます。この中では16th”The Book of Souls”がC+というかBランク最下位の”Dance of Death"を少し下回る程度の悪くない出来の作品という評価です。この作品の問題点は2枚組ということよりも、”The Red and the Black”以外に突き抜けた楽曲がないところ。悪くはないけどグッとこない曲がずっと続き(9th"Fear of the Dark"の中盤以降みたいな感じ)最後の”Empire of the Clouds”で持ち直すものの長くて流石に疲れる、そんな微妙な印象の作品です。15th”The Final Frontier”も、個々の楽曲のインパクトが弱く、また全体的にラフさやハードロックっぽさを導入したら単に弛緩した雰囲気になってしまった作品という印象です。後半3曲の大作路線でアルバムトータル作ってくれた方が個人的には良かったですね。最後に11th”Virtual XI”ですが、前作とは異なりブレイズ・ベイリーのVoに合わせたストレートなメタル曲が多数揃えられていて、個人的には巷で言われるような駄作という印象は全くありません。ただ、どこまで言っても「ブレイズがちゃんと歌えている」という以上のインパクトはなく、根本的にメイデンのサウンドに”Something Special”をもたらすまでには至っていません。

<Dランク>

・No Prayer for the Dying (1990/8th)
・The X Factor (1995/10th)

Dランクは2枚。どちらもメイデン史の中では「残念なアルバム」です。まずは9th”No Prayer for the Dying”。音が酷い、ブルースの歌が雑過ぎる、スポンテニアスな雰囲気を出そうとして単に緩い演奏になっている、楽曲が弱過ぎる(平均点をクリアしているのは”Tailgunner”、”No Prayer for the Dying”、”The Assasin”の3曲くらい)と良い所なしの退屈盤。リアルタイムで聴いていましたが、同時期に出たJudas Priest - ”Painkiller”のインパクトが絶大だったこともあり、メイデンは「終わったバンド」というのが、自分だけでなく周りの仲間(中坊)たちの共通認識でしたね。それくらいイケてない作品でした。そしてワースト作は、世間一般の評価と同じく10th”The X-Factor”です。問題点は明確で、大作主義&プログレメタル的なドラマ性強化の方向性にシフトチェンジしたにも関わらず、ブレイズ・ベイリーというD・L・ロスのような声質のヴォーカリストにそれを歌わせようとしたこと(Wolfsbaneでは素晴らしいVoを披露しており、彼のVoがダメなのではなく単に相性が合っていないだけ)。冒頭のドラマティックな大曲”Sign of the Cross”のミスマッチ感も強烈ですが、無残なのが”Fortunes of War”。こんな音程の外れた曲をそのまま収録しちゃって良かったのかというKreator - ”Renewal”ラス曲の”Depression Unrest”の衝撃を思い出してしまったくらい。またアルバムの曲順も悪く、ブレイズの声質・レンジに合っていない楽曲が前半に集中していることから相性の悪さばかりが際立ち、個々の楽曲のクオリティを評価する以前に聴く気が失せてしまうという最悪の事態が発生してしまっていました。”Sign of the Cross”筆頭に今のブルースが歌えばドラマティックに生まれ変わるだろうなと思える佳曲もそれなりに揃ってるのですが、久々に聴き返してみたもののやっぱりミスマッチ感ばかりが目立ち、これは申し訳ないですが駄作と断言します。

 以上メイデン全アルバムランク付けでした。久しぶりにメイデンの色んなアルバムを引っ張り出し、当時の空気を思い出しながら聴きまくってみましたが、Iron Maidenって極めて個性的なサウンドを奏でるバンドだし、そして何より抜群に曲作りの上手いバンドだなと改めて感じましたね。16枚もありながら、アルバムの平均クオリティがとにかく高い!

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