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【Disk】6人編成以降のIron Maiden全曲レビュー

 様々なものをSからDといった感じにランク分けることの出来るTierMaker。

 ”Metal”というカテゴリー区分もあり、様々なアーティストのアルバムランキング(アーティスト内相対評価にするか絶対評価にするかは個人の自由)も公開されています。英語圏の人が多いこともあり、日本との評価の差異も分かって面白いのですが、見てるだけでなく自分でもやってみようということで、アルバム数の多い歴史の長い大御所バンド、Van Halen、Led Zeppelin、Black Sabbath、Judas Priestなどをやってみたところで当然メタル界の大御所Iron Maidenもと思ったものの、よく考えると6人編成になってからのIron Maidenをマトモに聴き込んでいないということが発覚…。ちょうど復活劇の頃はクラシックメタルからは少し距離を置いていた時期であまり関心が向いていなかったし、その後もサウンドプロダクションの古臭さや長い曲が多いという前情報から自然と触手が伸びずに、ちらっとWeb上の音源や視聴コーナーで聴いてみて「イマイチ」と判断して、今に至るという状況が続いてました。

 そんなちゃんと聴かずに低い評価をするのはいかんと素直に反省し、今でも世界中で大人気なのはきっと何か引っ掛かる要素があるのではという期待と、ワンパターンの締まりのない長い曲ばっかり聴き続ける羽目になるのではという不安を抱えながら、1週間掛けて1曲ずつメモを取りながら繰り返し聴き込んでみることに。で、改めて聴き込んでみると、アルバムによるカラーの違いもよく分かるし、00年代以降と80年代黄金期との目指す方向性の違いもよく理解できました。結論からすると「サウンドプロダクションが古臭いのは確かだけど、内容は結構面白いじゃん」というのが率直な感想で、過去の遺産で食いつなぐバンドでは全くなく、若いプログレメタルバンドを多分に意識しながらも、自分達の出来ること(個性、作曲能力、演奏技術力)をどうコンテンポラリーなシーンの中で価値あるものとして位置づけていくのかをきちんと考慮しているなというのを強く感じさせてくれました。

 曲単位でレビューする習慣はあまり無かったのですが、せっかく1曲ずつ感想をメモったこともあり、全作品ランキングの前に6人編成期限定の全曲レビューを公開してみることにしました(TierMakerによるIron Maiden全アルバムランキングは次回に)。なお各曲5段階評価で点数をつけています。点数の基準は以下の通り。

5点・・・バンドの歴史を代表する名曲
4点・・・アルバムおススメ曲。繰り返し聴きたい
3点・・・平均的なレベルの曲。まあまあ。
2点・・・イマイチな曲。印象に残らない
1点・・・退屈な曲。飛ばして聴きたい


Brave New World (1999)


 6人編成になって最初の作品。"No Prayer for the Dying"(1990/8th)以降のデモテープのような貧弱なサウンドからは大分改善はされていますが(特にスネアの抜けが良くなったし、ギターのエッジも出てきてる)、同時代の作品と横並びで比較すると、サウンドプロダクションはお世辞にも良いとは言えないですね。楽曲的には、"The X-Factor"(1995/9th)以降のプログレメタルへの目配せ&大作主義と、80年代「メイデンメタル」のバランスを最大限考慮したサービス精神溢れる作品で、世界中で本作および6人編成メイデンが大きく歓迎されたのがよく分かります。トリプルギターの効能は正直そこまで感じないですが、ポイントはブルース・ディッキンソン復帰によるドラマ性・煽情力の強化とヤニック・ガーズの作曲面での活躍による楽曲クオリティの大幅向上ですね。全盛期のアルバムと並べても特に引けを取らない完成度だと思います。

M1-The Wicker Man (Smith/Harris/Dickinson)
4分台。Judas Priest - "Running Wild"みたいな軽快なメタリックリフでドライビングしていく。ブリッジの爽やかなメロディも良いですし、サビもブルースのハイトーンを活かしたキャッチーなものに仕上がってますね。アルバムの掴みとしては凄く良いです。4
M2-Ghost Of The Navigator (Gers/Dickinson/Harris)
6分台。”Caught Somewhere in Time”的なその後の盛り上がりを期待させるイントロからの”Powerslave”風の刻みリフ。リズムチェンジ含めて曲が様々な展開を見せる中、マイナーなメロディを聴かせるブルースのVoが曲を牽引していて非常に良いですね。”The Seventh Son of a Seventh Son”(1988/7th)に入ってても違和感ないキャッチーさ。中盤以降のテンポアップしてからのギターソロも秀逸。6分台だけど長さを感じさせません。4
M3- Brave New World (Murray/Harris/Dickinson)
6分台。これもテンポチェンジを何度も取り入れたプログレメタル的な楽曲。6人編成になってからの屋台骨を支える系統の曲と言えますね。緊張感溢れる雰囲気の中、流れるような気持ち良い展開に「これぞメイデン」と言いたくなります。同じことをブレイズ・ベイリーでやっても声質のせいかどうしても野暮ったくなるので、ブルース復帰はやはり正解ですね。またデイヴ・マーレイ作らしくツインギターの使い方が絶妙。ツボが分かってるなと思います。4
M4-Blood Brothers (Harris)
7分台。段々とプログレメタルへの目配せが強くなってきました。やはりハリス作ですね。ストリングスを採り入れてシンフォ系プログレメタルのような荘厳な雰囲気。サビでブルースが熱唱するメロディが非常に印象的で、グッと胸に迫ってきます。00年代以降のメイデンは、派手さはないもののブルースの熱唱でじわじわと楽曲を牽引する印象のものが多く、これはその典型ですね。巷の評価は分かりませんが名曲だと思います。5
M5-The Mercenary (Gers/Harris)
4分台のコンパクトな楽曲。”Prowler"のような無骨な80年代系メタルリフでアップテンポにドライブしていく。少しオールドスタイルな香りがするのがいかにもヤニック印。サビでテンポダウンしてブルースが熱唱。全然悪くないですが、前後の曲が強力なのでどうしても地味な印象になってしまいますね。ギターソロが少し雑な気もします。ギターソロラストのツインギターは気持ち良く聴けますが。3
M6-Dream Of Mirrors (Gers/Harris)
9分台。まずはオープニングからオペラティックというか起伏の激しいメロディを歌いこなすブルースが強烈。静と動を繰り返しながら徐々にクライマックスに向けて展開していきますが、バックの演奏よりも曲全体をブルースのVoが引っ張ってる印象が強いです。80年代よりもブルースの歌唱に安定感と力強さが増した気がするのと、緩急の付け方が抜群に巧くなってます。ギャロッピングしてからの劇的な展開はいかにもメイデン印で文句無し。5
M7-The Fallen Angel (Smith/Harris)
4分台のコンパクトな曲。Gamma Ray -”Land of the free”みたいなイントロから、オーソドクスなミッドテンポのメタルチューンへ。ブリッジのメロディの付け方が面白いですね。今までのメイデンには無かったタイプ。サビは比較的キャッチーですが、80年代のエイドリアン楽曲にありがちな取って付けたようなポップさはなく自然と聴ける分、そこまで耳に強くは残らないですね。3
M8-The Nomad (Murray/Harris)
9分台。なぜか感想コメントが少ない…。ミステリアス。ミッドテンポ。地味。正直長く感じる。これだけでした(笑) 2
M9-Out Of The Silent Planet (Gers/Dickinson/Harris)
6分台。間違いなくアルバムのハイライト曲ですね。ギャロップのリズムに、マイナー調のメロディアスな歌が乗る名曲。00年代のメイデンでは数少ないサビが超キャッチーなのもオールドファンには嬉しいですね。ギターもメイデンらしさのツボを押さえたもの。80年代の数々の名曲に引けを取らない見事な出来だと思います。5
M10-The Thin Line Between Love & Hate (Murray/Harris)
8分台。ベースがアグレッシブ。スネアの抜けも良い。強力なリズムに負けないメタリックなリフで攻める前半戦。メイデンにしては結構モダンなアプローチを採り入れたプログレメタル曲かと思います。躍動感が凄いです。歌と演奏の絡み方が面白いですね。後半静かになり一旦メロウに溜めてからのギターが畳み掛ける展開が圧巻。メイデンとしては新境地の一曲。4


Dance of Death (2003)


 まずもってアートワークがひどいですね…。Cathedralの出来損ないというか単にチープ。またサウンドプロダクションが大分古臭く感じます。曲はプログレメタル色は少し控えめで、アップテンポのエネルギッシュなメタル曲が主体。時期的にメタルコアやシンフォメタルブレイク以降のクラシックメタル再評価の流れを多分に意識しているはずです。前作の成功と時代の流れに乗り、若い新しい世代のファン層拡大という目的にはしっかり沿う作風には仕上がっているとは思います(サウンドプロダクション除く)。確かにサビやイントロにかつて程のキャッチーさは無いので全体的にはどうしても地味に感じてしまいますが、個々の曲自体はちゃんと腰を据えて聴くとなかなか聴き応えがあります。ただ、過去と直接比較したくなるタイプの王道曲が多いのに、過去の名曲を上回ってはいないので、積極的に本作に手を伸ばしたくなるような、唯一無二の作品になってないといった感覚はオールドファンとしてはどうしてもありますね。また6人編成以降の真骨頂である長編曲の完成度が今ひとつで、それも作品全体を締まりのない印象に引き下げてしまっている気がします。そこそこの曲が揃っているのに、アルバムトータルのインパクトが強くない「惜しい作品」です。

M1-Wildest Dreams (Smith/Harris)
3分台。カウントの掛け声の後、明るく軽快にドライビングするアップテンポなハードロック調の曲。ヴァースからブリッジに掛けては適度にキャッチーで悪くはないのですが、サビが今ひとつ盛り上がりきれないのが惜しいですね。”The Wicker Man”のようなインパクトは感じられませんでした。3
M2-Rainmaker (Murray/Harris/Dickinson)
3分台。イントロの流麗なギターから掴みはバッチリ。テンポも良く、無駄なくコンパクトに仕上がっていて、歌メロもエモくてグッときます。デイヴ・マーレイ作らしくツインギターの美旋律ソロも感動的。叙情性溢れるメロディを緩急付けながら熱唱するブルースの歌唱力も光ります。アルバムの代表曲の1つ。4
M3- No More Lies (Harris)
7分台。静かにスタートして”No more lies~” のハイトーンの強烈な連呼の後、一気にアップテンポなメイデンメタル曲に。中間部でツインリードがアラビックなメロディを紡いでいくところも彼等らしい。リフは結構ヘヴィ。この曲もブルースの力強い歌唱が印象的。スティーヴ・ハリスらしさ満点の曲で、目新しさはないけど安心して聴けます。4
M4-Montsegur (Gers/Harris/Dickinson)
5分台。メイデン史上屈指の攻撃的なヘヴィリフがフィーチュアされていてリズムも非常にタイト。これも比較的アップテンポな曲で、サビのハイトーン熱唱後に転調してメジャーの明るいメロディに変わるところが面白い。今まで取り組んでこなかったタイプの新路線で、攻めてて凄く良いと思います。4
M5-Dance of Death (Gers/Harris)
8分台。静かにミステリアスに始まるメイデン伝統芸。静的パートが少し長い印象(3分くらい続く)。そこから印象的なリフレインの動的展開部へ。タタタタタッタン タタタタ タタタというユニゾン。これもメイデン得意技ですね("Hallowed be Thy Name"とか)。ただヘヴィになってからのVoパートが今ひとつ。どこか盛り上がりに欠けるというか、高音主体で緩急がないからか耳に残りづらいですね。そこから長めのギターソロ。珍しくタッピングも入ってます。巷では名曲扱いなのかもしれないですが、中間部以降のリフレインにどこまでハマれるか次第の曲かなという感じで、自分的にはそこまで入り込めませんでした。曲が長いですね…。3
M6‐Gates of Tomorrow (Gers/Harris/Dickinson)
5分台。明るいリフ。"From Here to Eternity"みたいなというか、テンポの速くなったAC/DC ‐ ”For Those about to Rock”的というか。軽快にドライビングする曲で全体的には名曲"The Clairvoyant"的な開放感があります。そこまでのインパクトはないけれど、曲調がガラッと変わることもあり、アルバムの流れで聴くと良いアクセントにはなっています。3
M7-New Frontier (McBrain/Smith/Dickinson)
5分台。初のニコ・マクブレイン作曲参加曲。アップテンポでこれも開放的な雰囲気がありますね。メタリックなリフ主体で攻めるのは、近年のメイデンとしては珍しいかも。同系統の"The Number of the Beast"や"2 Minutes 2 Midnight"までの強烈なフックはないものの、テンポは気持ちいいし、サビも派手さはないですが流れが良いのでスッと聴き流せちゃう感じです。3
M8-Paschendale (Smith/Harris)
8分台の展開の激しいプログレメタル曲。イントロは何となくJudas Priest - "Victim of changes"。全体的に色んな曲のパートが継ぎ接ぎされてる印象で、前の曲とは逆にスッと聴き流せない違和感を感じます。フレーズ単体は悪くないのですが一曲としての統合感に欠けますね。正直長く感じます。2
M9-Face in the Sand (Smith/Harris/Dickinson)
6分台のどっしりとしたヘヴィな曲。オーケストレーションを重ねて全体的にエピカルな印象。ニコがツーバスを連打してるのはこれが初めて?派手さはないかもしれないですが、ブルースの力強いVoが曲を引っ張っていて、味わい深い楽曲に仕上がってます。じっくり腰を据えて向き合いたい曲ですね。3
M10-Age of Innocence (Murray/Harris)
6分台。サビがメロウでソフトな印象。ポストグランジ系のリフ。全体的にモダンな雰囲気を採り入れようとしたのかメイデンとしては珍しいタイプの曲。ただギターソロが曲調に合ってないですね。もっとコンパクトに作れたんじゃないかなと思います。3
M11-Journeyman (Smith/Harris/Dickinson)
7分台。アコギとシンセをバックにブルースが切々と歌う本格的バラード曲。アコギオンリー楽曲はメイデン初ですね。結構フォーキーでメイデンというよりもLed Zeppelinという感じもしますが、メロウで素直に良い曲だと思います。ブルースの歌唱を堪能するための楽曲ですね。彼のソロ作に入っててもおかしくないという感じです。4



A Matter of Life and Death (2006)


 大作主義の追求と現役プログレメタルバンドへの対抗意識が最も過剰に表れた作品。00年以降、プログレッシヴなアプローチのメタルバンドが増える中、プログレメタルの本家としての意地と実力を見せたかったんだと思われます。全10曲71分、うち7曲が複雑な展開の長尺曲(6分以上)というかなり聴き手を選ぶ作風ながら、世界10か国で1位を獲得し、アメリカでもビルボードチャート9位に食い込む大ヒットアルバムに。これもひとえに作品のクオリティの高さ故のことかなと思います。重厚かつ緊張感あるサウンドで、ハイトーンで印象的なメロディを紡ぐブルースのVoも素晴らしく、長編曲が多いのにダレを感じさせないのが流石。掴みどころがない、冗長という声もありますが、曲のクオリティ、演奏でみれば6人編成後No.1の傑作というのが自分としての評価。惜しむらくはもっと音が良ければなあという点。やや籠り気味で各楽器の分離が悪いです。その中ではニコのドラムは重くタイトに録音されていて、その点だけは歴代最高かもしれません。

M1-Different Worlds (Smith/Harris)
4分台。アグレッシブで緊張感あるリフとブリッジのキャッチーなコーラス、伸びやかなサビが印象的な王道メタルチューン。"Brave New World"以降3作続けてアップテンポのシンプルな楽曲をアルバムオープニングに持ってきてますが、掴みの良さで言えばこの曲が一番でしょう。4
M2-These Colours Don't Run (Smith/Harris/Dickinson)
6分台。インスト部分のリズムとギターの緊張感あるアンサンブルが素晴らしい。7分近い大曲で展開は複雑ながら、印象的なフレーズや演奏が次々と繰り出されてきて全く中弛みしません。ハイトーンでメランコリックなメロディを歌うブルースの歌唱が圧巻。アルバム全体のトーンをこの曲が決めてる感じで、ここで本作の世界観に入り込めないとアルバムを楽しむのが難しいかもしれませんね。5
M3-Brighter Than a Thousand Suns (Smith/Harris/Dickinson)
8分台の大曲ながらも、中間部の疾走パート含めて、非常に緊迫感ある楽曲に仕上がっています。複雑な展開の曲ながら、ブルースの歌がグイグイ曲を引っ張り、ギターがこれでもかと絶品フレーズをぶちこんで目まぐるしく駆け抜ける。6人編成以降のプログレメタルなメイデンの良さが凝縮されてる名曲。5
M4-The Pilgrim (Gers/Harris)
4分台のコンパクトな曲。Wishbone Ashのような印象的なツインリードを絶妙に配した疾走感ある楽曲で、サビのドラマティックな展開があまりにも素晴らしい。長編の複雑な曲が多い中、叙情的でキャッチーな本曲がこの位置に配置されることによって、アルバム全体の締まりが非常に良くなっています。5
M5-The Longest Day (Smith/Harris/Dickinson)
7分台。スティーブ・ハリスのダークなベースから始まるミッドテンポでヘヴィな曲。ブルースの伸びやかな歌唱がハイライト。ミステリアスに進んでいき一気に開放するサビが印象的。迫力あるニコのドラムがいいですね。M3 - ”Brighter Than a Thousand Suns”とはまた違ったタイプですが、これも6人編成メイデンの典型的な楽曲系統だと思います。4
M6-Out of the Shadows (Dickinson/Harris)
5分台。アルバム中ではコンパクトな曲。サビのスケールの大きなメロディがブルースソロの"Tears of the Dragon"を彷彿とさせるエモーショナルなヘヴィバラード。ブルースのVoメインの曲ですが、トリプルギターによるギターソロも良いアクセントになってます。4
M7-The Reincarnation of Benjamin Breeg (Murray/Harris)
7分台。長いイントロから、メイデンにしてはかなりヘヴィな(多少モダンな香りがする)リフを軸にしたミッドテンポ曲。最近のJudas Priestのハズれ曲的な雰囲気。展開はシンプルで、フックもあまりなく中休み的というか、捨て曲というか…。2
M8-For the Greater Good of God (Harris)
9分台の大曲。ドラマティックな曲調で、スティーヴ・ハリス色全開。前半は"Childhood's End"的な緊張感あるリズム展開。ブルースの歌が素晴らしいですね。ニコのドラムもパワフル。後半のインストパートもグイグイと聴き手の集中力を引っ張っていく見事な構成力。6人編成以降のプログレメタルなメイデンを象徴する名曲だと思います。5
M9-Lord of Light (Smith/Harris/Dickinson)
7分台。静かなイントロでスタートするパターン。普通にリフから始めればもう少し曲が短くなるんじゃないかな?と正直思ってしまいます。アルペシオが終わるとアップテンポに展開。ブルースはかなり高い音で押していき、逆にサビでは若干トーンを下げてエピカルな感じを狙ってます。中間部にまたアルペシオ。そこからテンポチェンジして疾走しながらギターソロというお馴染みパターン。悪くはないんですが、ちょっとクドさが鼻につく曲ですね。3
M10-The Legacy (Gers/Harris)
9分台の大曲。アコギの使い方が実に効果的で、往年のプログレバンド的。大仰な出だしのアレンジが新鮮。そこからミッドテンポの重厚感溢れる楽曲へ。この流れメイデン新パターンじゃないですかね。力強いブルースの歌が素晴らしく、サビのメロディのインパクトが凄い。キーボードのアレンジも曲のスケール感を高めるのに実に効果的。コンサート大合唱系とは異なるタイプの新境地を切り開いた名曲。5



The Final Frontier (2010)


 緊迫感があり過ぎて若干重苦しさもあった前作の反動で(そういう批判も少なからずあった)、軽快なハードロック感を採り入れバランスを取ろうとした模様。ただ正直その試みはあまり上手くいっておらず、単に雑な印象が強くなり、"No Prayer for the Dying"的な弛緩した雰囲気が色濃くなってしまいました。特にアルバム前半がイマイチで、軽快さ(メイデン得意の「スポンテニアスな雰囲気」)を意識したあまり逆に緊張感が削がれ、どうも集中力が続きません。また6人編成後の1つの特徴であった「ブルースの歌でグイグイ引っ張っていく」楽曲が非常に少ないのも痛く、全体的にVoメロディの練り込みが雑な印象です。"X-Factor"のハズれ曲が続いている感じと言えば分かりやすいでしょうか。後半戦は大作中心のメイデン版プログレメタル。特に後半3曲は楽曲に緊張感があるしメロディが良いので、長さも気にならず引き込まれます。そこだけ切り取れば魅力的な作品と言えますが、全体的にはメイデンの平均値には届かない出来で、6人編成後のワーストという評価になってしまいます。

M1-Satellite 15... The Final Frontier (Smith/Harris)
8分台。2分半ほど続くイントロのトライバルなビートとインダストリアル風なサウンドの組合せは非常に新鮮でカッコ良く、その後の展開に期待したものの、続くメイン曲が平凡というか面白くない。あまりフックのない古臭いミッドテンポのハードロックで、イントロとの対比でよりモッサリした印象が強くなってしまっています。相変わらずサウンドプロダクションの悪さも目立ち、オープニングの掴みの悪さとしては歴代でもワースト1、2位なのではないでしょうか。2
M2-El Dorado (Smith/Harris/Dickinson)
6分台。1曲目からインターバルなく続く本曲は、ラフな雰囲気のオーソドックスなメタル。NWOBHMとかにありそうな何だか古臭い印象です。歌メロも流れが全然良くなく、サビも取って付けたかのような感じで、ブルースの良さが活きていませんね。全体的にダルい印象の曲。2
M3-Mother of Mercy (Smith/Harris)
5分台。80年代のメイデンがやりそうなミッドテンポ曲で、イントロとかは雰囲気あって悪くないのですが、サウンドプロダクションのせいもあり全体的にキレが悪く、メロディも地味目でいまひとつ盛り上がりに欠けます。ここまで何だかモッサリとした印象。2
M4-Coming Home (Smith/Harris/Dickinson)
4分台。アルペジオから始まるミットテンポ曲。派手さはないですが、高揚感あるサビの歌メロが結構グッときます。ブルージーな味のあるギターソロが素晴らしい。ベテランバンドならではの深みを感じさせる曲ですね。アルバム前半のハイライト。4
M5-The Alchemist(Gers/Harris/Dickinson)
4分台。古典的なイントロのツインギターフレーズが牽引するスピードチューン。良く言えば王道、悪く言えば古臭い、いかにもヤニックが書きそうな曲。アルバムのメリハリはつきますが、イントロが全てで曲自体はそこまで訴求力は感じませんでした。何だかメイデンの影響を受けたマイナーメタルバンドの曲のようにも聴こえます。3
M6-Isle of Avalon(Smith/Harris)
9分台。ベースが引っ張る凝った展開の曲。曲自体は悪くないと思うんですが、展開で聴かせるタイプの曲なのにサウンドのキレが今ひとつで、緊張感が持続しません。正直中弛みしてしまいました。2
M7-Starblind(Smith/Harris/Dickinson)
7分台。静かなイントロ~歌~ハードな展開というプログレメタル路線。4/4拍子、3/4拍子を行き来するリズムが面白いです。結構展開が仰々しく名曲になりそうな雰囲気を漂わせているのに、どうもピリッとしない。サウンドプロダクションと演奏力がやりたいことと合ってない気がします。3
M8-The Talisman(Gers/Harris)
9分台。叙情的な雰囲気で静かに始まり、ギャロップのリズムでドライブしながら大仰な展開で盛り上がるメイデンメタルらしいドラマティックな曲。緩急をつけて盛り上がるブルースの歌唱はさすがの一言。定番の展開ながらも、ブリッジ~サビのメロディが胸に迫る。5
M9-The Man Who Would Be King (Murray/Harris)
8分台。リフはオーソドックスなメタル調ながら、中盤の展開はかなり今風のプログレメタル的。リズムチェンジ後に登場する開放感あるキャッチーなギターの展開が絶品。Dream Theaterを意識している感じもしますね。新たなメイデンの可能性を期待させてくれる曲です。4
M10-When the Wild Wind Blows (Harris)
10分台のアルバム最長曲。ベースとギターによる静かなイントロからブルースがドラマティックに歌い出すメイデン定番の展開でスタート。ヘヴィな展開に移行してからも基本メロディは一緒。Voを前面に押し出したミドルテンポの勇壮な曲でブルースの歌唱が冴え渡っています。緩い感じのアルバムを最後にビシッと締めてくれました。4



The Book of Souls(2015)

 驚愕の全11曲2枚組。でも実は13分と18分台の2曲(しかも共に充実曲)が全体の長さを引っ張てるだけなので、そこまで超大作を聴かされてる感じはしません。スタジオに籠り作曲しながら録音するスタイルでライヴ感を意識していたようですが、相変わらず籠ったサウンドプロダクションで平板に聴こえるのが残念です。もっとレンジの広いダイナミックな音像にした方が彼等のやりたいことと合ってる気がするのですが…。”A Matter of Life and Death”ほどの緊張感はないものの、ブルースのVoを活かしたメロディアスな楽曲が多く安心して聴けます。特にDisk1はかなり充実。長編曲以外はプログレメタルへの目配せがそこまで強くなく、ヘヴィメタルというか80年代から続く「メイデンメタル」の王道をついてきた感じがします。とにかくブルースの歌が充実していて、まあまあの曲も確実にかさ上げされて聴こえますね。

Disk1
M1- If Eternity Should Fail (Bruce)
8分台の大曲。イントロが必殺仕事人。リフ、メロディはメイデンの平均的楽曲という印象ですが、サビでのブルースの力強い歌唱が光りますね。また中間部のトライバルなビート~テンポチェンジからのドラマティックなギターソロの展開が絶品。起伏の激しいハリスのベースも流石。4
M2- Speed of Light (Smith/Dickinson)
5分台。”Hooks in You”とかを彷彿とさせるシンプルで軽快なハードロックソング。イントロのシャウトがイアン・ギランっぽい。アップテンポで良い曲っぽい雰囲気はあるけど、曲としては普通。これがファーストシングルってちょっと弱い気がしますが…。3
M3-The Great Unknown (Smith/Harris)
6分台。静かに始まってアグレッシブに展開する”Hallowed be Thy name”で確立した「メイデンメタル」の定番様式。Voが少し高音を張り過ぎのような感じもありますが、サビが印象的。目新しさとか驚きはありませんが、ドラマティックなメイデンメタル曲としては十分水準レベルに達していると思います。3
M4-The Red and the Black (Harris)
13分台の大曲。珍しいフラメンコなギターのイントロでスタート。重厚なリフで勇壮に突き進むところが”The Rime of the Ancient Mariner"的。Voとそこにシンクロするギターのメロディが躍動感があって素晴らしい。そこに”Heaven Can Wait"でお馴染みの「ウォー ウォー」シンガロングも加わり、もう最高としか言い様がありません。インストパートは確かに長いですが魅力的なギターフレーズが次々と繰り出される、これぞメイデンというべき垂涎の展開。ライヴでも盛り上がること必至の名曲。5
M5-When the River Runs Deep (Smith/Harris)
5分台の彼等にしてはコンパクトな曲。アップテンポで躍動感があります。サビでダウンテンポするメイデンとしては珍しい構成で、そこで賛否が分かれそう。この曲だけはブルースの歌より、エイドリアン・スミス作らしくギターのリフレインの方が印象に残ります。4
M6-The Book of Souls (Gers/Harris)
10分台。ヤニック作の曲ではお馴染みとなったアコギのイントロ。その後ミステリアスなギターフレーズでスタート。ミッドテンポの重厚かつエピカルな楽曲で、これもブルースのVoが光ります。サビがエモーショナルで実に良い。往年のメイデン節を随所に散りばめていて、中間部のテンポチェンジもツインリードのギターソロもまさに古き良きメイデンといった印象。4

Disk2
M7-Death or Glory (Smith/Dickinson)
5分台。彼等にしては攻撃的なリフ。メロディは比較的キャッチー。疾走感のあるオーセンティックなヘヴィメタルソングですね。ライヴ映えしそうな良曲。こういうアクセントになる曲を挟むと、アルバム全体に起伏が出来て良いですね。4
M8- Shadows of the Valley (Gers/Harris)
7分台。イントロがほぼ”Wasted Years”。あんなにキャッチーじゃないですが、テンポも良く気持ち良く聴ける曲ではあります。Voのパフォーマンスが良いですね。後半のコーラスが感動的。また1stギターソロも印象的。コーラス後の2ndギターソロはなくてもいいかなと思いました。全体的にもう少しコンパクトに作れたんじゃないかなという気がします。 3
M9-Tears of a Clown (Smith/Harris)
4分台。比較的コンパクトなプログレメタル的じゃない曲が続きます。ミッドテンポでこれもブルースのVo主軸の曲ですね。あまりメイデンらしさは感じないかも。中休み的な楽曲。地味であまり印象には残りませんでした。2
M10-The Man of Sorrows (Murray/Harris)
6分台。イントロでギターが泣きます。徐々にヘヴィになるので厳密にはバラードではないですが、アルバムの役割的にはバラードになりますね。まあまあのメロディ。曲単体では特に悪くはないのですが、地味目の曲が続き、ここで若干集中力が切れてしまいました。2
M11-Empire of the Clouds (Dickinson)
アルバム最長の18分台!ピアノとオーケストレーションのイントロが2分以上続く珍しい展開。プログレ熱がこの曲で一気に爆発。7分くらいまでは自らのピアノ伴奏によるブルースの歌。緊迫感ありますね。そこから明るめなマーチ風のギターフレーズへ。中間部はリフのオンパレードで”Phatom of the Opera”の世界観。テンポチェンジや複合拍子、変拍子(3/4→4/4や6/8拍子)をふんだんに使いプログレメタル感が全開。これやるならもうちょい演奏にキレとスピードがあれば。ラストはまたピアノと歌でバラード的に締め。確かに良い曲だと思いますが、さすがに長い。4


 以上、全曲レビューでした。5点をつけた曲が全52曲中以下の10曲。意外な発見が、ヤニック・ガーズが作曲に絡んでいるものがそのうち5曲もあったこと。正直自分の中でヤニックをソングライターとしてもギタリストとしても特に意識してこなかたこともあり、ちょっと彼への評価を見直さないといけないなと思いましたね。

Blood Brothers (Harris) 11th
Dream Of Mirrors (Gers/Harris) 11th
Out Of The Silent Planet (Gers/Dickinson/Harris) 11th
These Colours Don't Run (Smith/Harris/Dickinson)  13th
Brighter Than a Thousand Suns (Smith/Harris/Dickinson) 13th
The Pilgrim (Gers/Harris) 13th
For the Greater Good of God (Harris) 13th
The Legacy (Gers/Harris) 13th
The Talisman (Gers/Harris) 14th
The Red and the Black (Harris) 15th


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