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これを聴いてたら恥ずかしい!? ー”Guilty Pleasure Metal Songs”

 先日の音楽系YouTubeチャンネル「みのミュージック」では、恥ずかしいけどこっそり好きで聴いてる曲="Guilty Pleasure Songs"が話題に。

まあ笑い半分のお気楽企画ではありますが、欧米で作られたプレイリストを眺めると、ある一定の傾向があり、やたらきらびやかなアレンジやプロダクションが施されていたり、コテコテの甘いメロディの曲だったりと、どうやら「典型的な80年~90年前半の音」がダサい音扱いされているようで、ちなみにハードロック周辺音楽では、

・Journey - Don't Stop Believin'
・Yes - Rhythm of Love
・TOTO - Africa
・Boston - More than a Feeling
・Guns n' Roses - Sweet Child o' Mine
・Aerosmith - I Don't Want to Miss a Thing

あたりが選ばれています。このセレクションで何となく欧米の人たちの感覚は理解出来るかと思いますが、かつては最先端のイケてるアプローチとしてもてはやされながら、トレンドが一変すると一気に陳腐化してしまった大ヒットソングたち。ちょっと気恥ずかしいけど、曲のあまりキャッチーさに「ついつい隠れて口ずさんじゃう」みたいな感覚の曲といったところでしょうか。

 で、ここで思ったのが、元々聴いてることが十二分に気恥ずかしいメタルの中で、更に"Guilty Pleasure"を選んだらどうなるのかということ。B〜C級パワーメタルバンドやネオクラ系・メロスピ系を探ればそんなのゴロゴロしてる感じもしますが、それらの定番路線は敢えて避け、A級バンドの中での”Guilty Pleasure Songs”を探すというテーマのもと、いくつかのタイプに分けてその代表的な曲を選んでみました。ビール呑みながらの適当セレクションなので、酒のツマミ的にご覧いただければと思います。

▼Guilty Pleasure: タイプ①
 ゴージャス80s(シンセとリバーブ満載のドラム
)

 80sサウンドが突出してダサい音扱いされる要因の多くはこれ。YAMAHA DXシリーズやRoland Jupiter-8といったシンセサイザーと「ゲートリバーブ」と呼ばれるスネア音をやたら強調するドラムエフェクター類の登場により、皆が想像する装飾過多な80sサウンドが生まれました。前者の典型はVan Halen - ”Jump”やハウンドドッグ - ”ff(フォルティシモ)”、後者はBruce Springsteen - ”Born in the USA”とかE.L.O. - ”Twilight”とかですね。敢えてメタル限定で選ぶと以下の曲あたりが、少し気恥ずかしい名曲といったところでしょうか。

・Queensryche - Best I Can

 それまでは独特のヨーロッパテイスト溢れる知的で硬派なメタルサウンドが売りのQueensrycheでしたが、本作"Empire"では、プログレ的な要素は残しつつもアメリカンなテイストをそこはかとなく導入し大ヒット。で、このアルバムオープニング曲ですが、緊張感溢れる大仰なイントロダクションから一転し、明るい軽快なリフと例の80sシンセ音がチャーン、チャーンと響き渡り「ああ、Queensrycheも取っ付きやすくなったなあ」と当時は思ったもんですけど、今の耳で聴くと絶滅に近いアレンジ手法なだけに、何か少し安っぽい感じに聴こえなくもないですね。曲はとてもいいんですが…。

・Def Leppard - Women

 1,000万枚以上売ったモンスターアルバムのオープニング曲。全体のサウンドプロダクションが、バンドらしい生っぽさを一切無くした人工甘味料満載なサウンドになっていて、ドラムサウンドもリバーブをがっつりと効かせためちゃくちゃゴージャスな音に仕上がってます。近年あまり聴かれないサウンドではありますが、全体の質感をライヴ感ゼロの極端に人工的な音像に統一してるせいか、これはこれで一周回ってカッコ良いという解釈も出来そうな気がします。

▼Guilty Pleasure: タイプ②
 絶滅危惧種ファンクメタル

 Living Colour、Red Hot Chili Peppers、Faith No Moreのブレイク以降にハードロック/メタルシーンで流行したのがファンクの導入。80年代後半~90年代頭までの期間限定ながら、ファンクメタルの名のもと、様々なバンドがスラップベース、カッティングギターによるファンキーなシンコペーションのリズムを導入し試行錯誤していました。が、ファンクメタルの比較的能天気かつテクニカルな方向性は、グランジのラフでロウで陰鬱なサウンドの台頭と共に一気に消え去り、その後もメタルに音楽的な幅をもたらすアプローチとしてファンクに注目が集まることもなく、完全に絶滅危惧種的なサブジャンルとなってしまいました。今でも面白い方向性だとは思うのですが、久々に聴くとその雰囲気の「耳慣れなさ」から少し気恥ずかしさを感じる人も少なくないだろうなあと思ってしまいました。当時は最先端のイケてる音だったんですがね…。

・Scatterbrain - “That’s That”

 当時BURRN!誌でも高評価だったので聴いてた人も多いのではないかと思うミクスチャーロックバンド。コミカルさを強調した歌詞やアレンジ、実はめちゃくちゃテクニカルな演奏、ジェットコースター的な展開(スラッシュ的なリフ、キャッチーなコーラス、ファンクなアレンジなどが矢継ぎ早に飛び出してくる)、喋るような歌い方(ラップを意識?)と、この時代のファンクメタルを感じさせる要素が満載。今のメタルシーンに近い音は全く存在していないだけに歴史的価値は高いと思います。全体を貫くこの軽薄なノリがダメって人はいるかもしれませんが…。

・Mr Bungle - Squeeze me Macaroni

 Mr Bungleの1st。誤解のないように言っておきますが、本作はアヴァンギャルドでプログレッシヴな辺境メタルの名盤です。決してファンクメタル全開という訳ではなく驚くほど雑多な要素が散りばめられているのですが、ただその後の作品と異なり本作の音楽的下敷きとなっているのはファンクメタル。で、この曲は最もファンクメタルな色合いが濃く、冒頭から徹底して能天気にチャカチャカとかき鳴らすカッティングとスラップ。そこにまだ声質的にファニーさを醸し出していた当時のマイク・パットンが、これまたおちゃらけラップ風味の歌を聴かせるもんだから、気分はすっかり80sミクスチャーロック。いきなりスラッシュギターが出てきたり、リズム自体はスカコアっぽかったりと曲自体は面白いのですが、全体の雰囲気自体はなかなか時代を感じ郷愁を誘います。ちなみにオリジネーターであるレッチリもFNMも早々にこのアプローチを捨て去ってしまいました。

▼Guilty Pleasure: タイプ③
 クサ過ぎてThe Alfee
とシンクロ

 これまではメタルシーンのトレンドが陳腐化した例でしたが、このタイプは単にメロディアスな音を徹底的に追求したら、結果として高品質な日本の歌謡曲と隣接する音になってしまったケースを取り上げます。しかも似ている対象はあのThe Alfeeと気恥ずかしさのランクも一気に上がります。ちなみにThe Alfeeは、ラジオや歌番組に出てた曲の記憶くらいしかなく(と言っても20曲くらいは知ってる)、あくまでも「流麗なコーラス+非洋楽な歌謡曲的メロディ展開+ハードロック的演奏」という日本で独自の発展を遂げた「歌謡ロック」の象徴的存在として取り上げてます。

・Fair Warning - Angels of Heaven

 今じゃ信じられないですが、当時日本で10万枚以上を売り上げた3rdアルバムからのシングル。「天国の天使たち」、この現実離れした曲名からしてアルフィー臭がプンプン。JourneyやSurvivorなどのメロハー大御所とはまた違ったアプローチで愚直に流麗なコーラスの入りの哀愁サウンドを突き詰めた結果、ハードロックを突き抜け、見事にアルフィー的な仕上がりの音になってしまいました。目を閉じるとイントロの激クサのギターから高見沢俊彦のエンジェルギターが目に浮かびます。最早ロック的興奮はここにはなく、高音Voによる哀愁のメロディが洪水のように押し寄せてきます。歌謡ロックとしては完璧。なだけにメタラー耳にはどうしてもこそばゆい感も…。

・Loudness - 愛と夢だけを…

 結成以来独自のメタル道を追求しているイメージの Loudnessですが、日本限定発売のEP"Jealousy"だけは明らかにシングルヒットを狙ったかのような歌謡ロック的雰囲気に溢れています。特にこのラブバラードに至っては、メタル要素は高崎晃の高速タッピングソロのみで、イントロ~ヴァース~コーラスと全てが歌謡曲印。特に「愛と夢だ~けを~ い~つまでも し~んじ~て」のビッグコーラスは、歌詞のこっ恥ずかしさも含めてかなりアルフィー的世界観に肉薄しています。The Alfeeで言えば"Love Never Dies"のような壮大なコーラスが堪能出来ますが正直全くLoudnessらしくはないです。ポップで良い曲ですが。

▼Guilty Pleasure: タイプ④
 流行に色目使っちゃった系

 このタイプは、メジャーシーンで流行っているトレンドのスタイルをそれこそ自分達の音楽的骨格が揺らぐくらい大胆に採り入れた例になります。大抵賛否両論というか、圧倒的な否の意見が寄せられアルバム一枚だけの試みで終わってしまうケースが多々ですが、客観的に見ると音楽的には意外と面白い試みをしてたりして侮れません。ただ、トレンドへの迎合意識が強過ぎて「らしい特徴」を大胆に拝借しちゃうもんだから、時を経てトレンドが移り変わった際にどうしても軽兆浮薄な印象を与えてしまうことは否めませんね。

・Scorpions - To be No.1

 99年に発表された"Eye II Eye"からのリーダートラック。MVを観てもらえれば明らかなように、見た目も脱メタルも図り、音も電子音全開。軽快にチャカポコしてます。当時はクラブ・ミュージックを採り入れた音楽がシーンを席捲してましたし、あと大御所U2が"Pop"で見せたクラブミュージックへの傾倒も意識していますね。Scorpionsと言われなければ、サビのクラウス・マイネの熱唱が出てくるまでは彼等の曲だと分からないレベルの変わりようです。ただ曲自体はさすがに時代は感じさせるものの、ポップで非常に完成度が高いので、皆さん浮つきたい気分の時にこっそり楽しみましょう。

・Korn - Get Up!

 Kornがダブステップを導入ということで結構賛否のあったアルバム”The Path of Totality"ですが、ジョナサン・デイヴィスの歌自体はKorn印満載なので、そこまで劇的な変化というわけでもありません。超重低音+爆音という点でダブステップとニューメタルには共通点もあり、サウンド自体は意外なほどよくマッチしてはいます。ただし、ダブステップ自体が機能性(フロア)優先の、そこまで引き出しの多い音楽アプローチでもないだけに、一聴した際の耳障りの良さや時代性を捕捉していること以上の魅力(2つが融合した価値)があまり見い出せないという弱点もあります。発売から10年経ち、ダブステップが最先端でもない昨今、この音が今のリスナーにとってどう価値を持つのかというところが気になりますね。個人的にはダブステ云々よりもジョナサンの歌の魅力があるからこそ聴き続けられるな、という印象です。

 以上「これを聴いてたら恥ずかしい!?」のハードロック/メタル編でした。改めて思ったのが、どんなに古いアプローチ(人によってはダサいと思うこと)をしていても、楽曲の根本がしっかり作られていれば、ずっと音楽としての私的賞味期限は持続するんだなあということ。

最後にご参考までに海外で作られてたSpotifyの”Guilty Pleasures”のリストを貼っておきます。


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