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私の好きな映画のシーン(58)『シンドラーのリスト』

 この映画の好きなシーンを語り始めると、どれだけの言葉が必要なのか、途方に暮れます。この作品を見た多くの方は、オープニング直後からずっとモノクロなのに、突然、モノクロ映像のなのに赤い服の女の子が登場するシーンを語りたいと思います。
 もちろん、この赤い服の女の子が象徴するシンドラーの決意は素晴らしいシーンですが、私は冒頭直後、シンドラーがナチスドイツの幹部たちが集うパーティのシーンが好きです。シンドラーのあの横顔、そしてその瞳は、この映画の心棒を形作ったと思いました。そして、流れているタンゴの曲。「Por Una Cabeza(ポル・ウナ・カベサ)」。この曲は『セント・オブ・ウーマン』でアル・パチーノが踊ったタンゴであり、『トゥルー・ライズ』でアーノルド・シュワルツェネッガーが踊ったタンゴと同じ曲です。
 ユダヤ人虐殺があり、自分の意思でナチスドイツに対抗したオスカー・シンドラー。歴史的に重みのあるこのテーマにしっかり向き合い、この映画を撮りあげたスティーヴン・スピルバーグ監督のリテラシーの深みには脱帽しました。
 さて、この映画を撮影した当時の彼は47歳でした。既に著名だったからこの作品が撮れたわけではなく、著名であること以前に、このテーマにしっかりと向き合い映像化できるほどのリテラシーを彼はコツコツと積み上げてきたのがまずありきなのだと思います。
 冒頭の私の好きなシーンでは、シンドラーはほとんど言葉を発しませんが、椅子に据えた身の置き方、そしてその瞳の演技は、スピルバーグ監督がコツコツと積み上げてきたリテラシーに基づく、その時代そして現代への挑戦でもあるかと思います。
 時間は経てども、今も、無慈悲な戦争があり、無慈悲な暴力的な言動をあからさまに弄する国家がありますが、スピルバーグ監督がコツコツと積み上げてきたようなリテラシーなどない40歳代の監督たちが数多くいます。
 いつの日か、セリフなどほとんどないけれど、ナチスドイツに一人で立ち向かおうとする主人公の心情を描ける監督が出てくればと願うばかりです。
 もちろん、「Por Una Cabeza(ポル・ウナ・カベサ)」を使える感覚を持って欲しいものです。中嶋雷太

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