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私の美(49)「古民家の梁(はり)」

 旅先で、見学可能な古民家などがあると必ず覗くことにしています。
 必ず見るのは台所と浴室と便所なのですが浴室や便所は見学コースから必ず外されています。明治以前の建物だと浴室はなかったのも分かりますが、雪隠はあったはずなのに雪隠を何故隠さなければならないのだろうと、頭を傾げます。
 そして天井の梁(はり)です。
 梁も必ず見学します。
 特に大きな木造建築物には太い梁が欠かせないので見応えがあります。屋根を支えるだけでなく、その建物全体を支えるのが梁だから大切です。もちろん柱も大切ですが柱は梁を支える為に存在するようにも見えてきます。
 ここで気をつけねばならないのは、「昔の木造建築物は梁がしっかりしていた」というイメージでよく語られますが、「梁がしっかりしていた木造建築物は現在まで残っている」と考えた方が良いと思います。さらに、この特別な古民家をして「日本の建築物は…素晴らしい」と間違った帰納法を使った表現は困りものです。テレビの紀行番組などでよく使われる、この間違ったレトリックには組みしたくないものですね。掘立て小屋もあっただろうし、建築設計科学としてはいただけない建築物も多々あったと思います。さらに、お城などを見学すると、どれもこれも素晴らしい点ばかりを謳っていますが、ダメダメなところも合わせて教えてもらいたいところです。そのダメダメなところもまた建築史好きとして楽しみなのですから。
 この、しっかりした梁ですが、機能美の最たるものだと思います。しかも、近代建築ではなく、千年以上もの昔から蓄えられた木造建築の叡智が生み出した機能美ですから、魅せられて当然なのかもしれません。さらに、炉端から立ち昇る煙で燻された梁は、防虫作用が働き、木目の強度をさらに高めてきたのだろうと、想像逞しくなります。今年も半年が経とうとしていますが、良い梁にはまだ会えていません。これからどんな梁に出会えるのか、2023年の後半が楽しみです。中嶋雷太

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