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Mode d'automne〜秋のおしゃれ〜

一人旅が好きな西巻 彩乃(にしまきあやの)は、会社の昼休みに紅葉を見に行こうと行きたい場所を調べていた。

「どこ行こうかなぁ。ご飯が美味しくて紅葉が綺麗な所に行きたい。」
「西巻さん旅行良いねぇ!こことかどう?ワインも美味しいし良いよ。」
独り言を呟いていると、同じ部署の先輩である丸川 花美(まるかわ はなみ)さんが話しかけてきてくれた。
丸川さんはグルメで酒好きなので度々教えてくれる趣味友のような存在だ。
「良いですね。」
「ボジョレーヌーボーも解禁するし、美味しいものもあるからさ!」
丸川さんは嬉しそうに話していた。
そんなに魅力的な場所なのかと気になりだしたので、仕事が終わったらリサーチしよう。
「丸川さん、もう予約しました。」
私は丸川さんのおすすめの通りに行ってみることに決め、今回はバスツアーを予約した。
「早い!行動力あるね。」
「善は急げと言いますからね。」
2人で笑っていると、隣の席の5歳下の後輩、門松悠大(かどまつ ゆうだい)くんが声をかけて来た。
「俺も一緒に行っても良いですか?」
私と丸川さんは目を丸くして顔を見合わせた。
「え?彼女と行きなさいな。門松くんどうなすった?」
丸川さんは驚いて不思議な喋り方になっている。
門松くんはクールで人に興味が無さそうなタイプなので、かなり意外だったようだ。
「丸川さん、セクハラになりますよ。私は構わないけど、退屈かもしれないよ。」
一人旅ばかり行っていて、人と旅するのはかなり久しぶりだった。
「彼女居ないんで大丈夫です。西巻さんに興味があるんです。旅を通じて知れたらなと思います。」
真っ直ぐな目で興味があると言われるのは嬉しいが驚きだ。
未確認生物を研究したい学者のような心理だろうと推測する。
「よし、決まり。じゃあバスツアーのURL送っとくね。」
チームのLINEがあるので門松くんへ個人メッセージを送った。
「ありがとうございます!じゃあ、これから打ち合わせなので。では。」

門松くんが居なくなると、丸川さんがはしゃいでいる子犬のように駆け寄ってきた。
「ちょっとちょっと!門松くんに好かれてるじゃん!恋の予感じゃん!」
「いやー、そんな感じでは無いですよ。ただの若者の気まぐれじゃないですか?」
思い出せないほど昔に恋人という存在が居たぐらいなので恋愛に疎いから、まさかそんな事有り得ないだろう。
「嫌いな人とは旅行に行かないから!オシャレして行きなね!」
「さっきからリアクションがお節介おばさんですよ。いつも通りで行きます。」
丸川さんのお節介は有難いが正直、鬱陶しいシーンもある。完璧な人間は居ないので仕方がないと思っている。
昼休みが終わったので自席に着いて仕事を再開した。

仕事が終わると、帰り支度をして早足で帰る。
今日はバスツアーで巡る場所をリサーチしたいからだ。
スマホで検索して名所を調べ、スクショを撮っていると突然電話がかかってきた。
相手は門松くんだった。
「お疲れ様。どうした?」
私は急な電話に驚いた。
「お疲れ様です。席なんですが、隣にしてもらいました。ツアーのメール届いてますよね。」
「メール見落としてた。A3だって書かれてる。」
「俺はA2です。バスツアー初めてなので心強いです。」
「楽しみ。今ね、ツアーで巡る場所について調べてたところ。」
「ぶどう狩りと葡萄畑を見学してワインやランチを食べてから神社巡りですよね。」
「そうそう。秋といえばワイン!ボジョレーヌーボ!」
「この季節が来ましたね。早く飲みたいですね。」
以前から一緒に旅行しているかのような会話。こんなに違和感なく一緒に出掛けられるのは嬉しい。
「神社の周りを散策したくて。紅葉狩り出来るかな。」
「時期的に紅葉が始まってます。見られますよ。」
集合場所や時間を確認して、電話を切った。
美味しいグルメや景色を楽しむ。季節を楽しむ旅は最高だ。その上お酒が飲めるなんて幸せの極み。
バスツアーの妄想をしながら眠りについた。

朝起きると門松くんから沢山のLINEが来ていた。
内容は行きたいカフェやお店のリストだ。
門松くんも楽しみにしてくれているのが伝わってきて、とても嬉しい。
いつもは会社に行く前の朝の憂鬱な時間が楽しい時間へと変わっていく。
身支度を整えて、今日はバスツアーに行く日に着る洋服を買いに行く予定。
スキップをしながら駅へと向かい、電車に乗り込んだ。おしゃれな秋コーデと検索をかけて、普段着ないような流行のワンピースをリサーチした。

会社に着くとコーヒーを飲みながら、仕事に没頭する。
ふとバスツアーの妄想が頭に浮かんできては、ふわふわした気持ちになる。
「西巻さん、大丈夫?もうお昼だけどすごい没頭してたね。」
「もう午前中終わりですか、早かったです。」
「やっぱりデートの予定がある女は違うね。仕事もバリバリ出来ちゃうね。」
「デートではないですよ。」
丸川さんは羨ましそうに言う。
私は丸川さんの冷やかしをスルーし、サンドイッチを食べながら仕事を黙々と進めた。

仕事が終わると急いで洋服を買いに行く。
会社の出口で門松くんと会った。
「お疲れ様です。どこか行かれるんですか?」
「明日の準備のために買い物へ行ってくる。」
「良いですね。気をつけて行ってきてください。明日、待ち合わせ場所で待ってます!」
「ありがとう。行ってきます!」
門松くんに手を振ると、走って駅まで向かった。
駅ビルの中にある洋服屋さんを見て回る。
ワンピースが良いなと思いながらウロウロしていると店員さんから秋の新作を勧められた。
「オレンジとブラウンがあります。合わせてみませんか?」
店員さんに勧められた通りに鏡で合わせてみる。
ブラウンが好みだったので、ブラウンのワンピースを買うことにした。
近くに売っていたベージュの光沢感のあるシュシュも購入した。
店員さんからベレー帽を勧められ、秋っぽいし良いかもと思い、ブラウンのベレー帽を購入した。
満足した気持ちで駅へと戻って夕飯の弁当を購入して帰った。
家に帰ってご飯を食べ、明日の準備を整え布団に入った。
明日が楽しみな気持ちと疲労感で、すぐに眠りについた。

朝起きると身支度を整えて、昨日買ったばかりの洋服たちに袖を通す。
靴を履いて予定よりもかなり早くに出かける。
電車に乗り、待ち合わせ場所へ駆け足で向かった。
待ち合わせの時間よりも30分ほど早く着いたのに気が付き、コンビニへ向かう。
温かいお茶を買ったりバスで食べるおにぎりを買った。
それでもまだ5分ぐらいしか経過していないのでお手洗いに行き、メイクが落ちていないかを入念にチェックしてから向かう。

もう既に門松くんはベンチに座って待っていた。
驚いた顔をしながら、門松くんに声をかけた。
「おはよう!お待たせしましたー!」
「おはようございます。西巻さんも早いですね。」
「張り切って来たら30分前に着いたので、食べ物を買って来たの。」
「いいですね。僕も買ってきて1時間前だったんで張り切り過ぎました。」
あはははは、と2人で笑い合うと、緊張がほぐれていく。

門松くんは紺色にグリーンのチェックのシャツを着ていて、黒いコーデュロイのズボンを履いていて秋っぽくて素敵だった。
「西巻さん、秋コーデで素敵ですね。ベレー帽似合ってますよ。」
「本当?ありがとう…ジャイ子みたいじゃないかとヒヤヒヤしながら挑戦してみた。」
「ジャイ子ってジャイアンの妹ですか?西巻さんは美人だから全然似てないです。」
「ええ?!び、え?ありがとう?!」
不意打ちをくらって、かなりきょどってしまった。
「…門松くんもかなりオシャレさんで似合ってるよー!」
「西巻さんとのデートだと思って来たので。張り切ってます。」
まっすぐ向いた瞳は澄んでいて綺麗で、真剣な気持ちが伝わる。
いつもよりキラキラ輝いていてカッコよく見える。
「そんな風に言ってくれてありがとう。私も頑張ってお洒落してきた…よ!」
緊張し過ぎて声は上擦るし、震える。
これって告白じゃないのかと思うけど、焦らない事が大人の恋愛だと思うことにする。

「あらー、おはようございます!若い子も参加するのね!よろしくね!」
マダム達の集団が私たちに挨拶をしてきた。
かなり空気を読まずに大声でゲラゲラと笑いながら騒いでいる。
私と門松くんはなんだか気まずい空気になりながらも、あまりにも騒がしいので、2人で苦笑いをした。
バスツアーは、マダムばかりが参加しているようだ。
同年代の方っぽい夫婦で参加している方ぐらいだった。
添乗員とバスが来て、バスに乗り込む。先頭の席に私と門松くんと一緒に座った。
朝ご飯のおにぎりを食べながら外の景色を眺める。

葡萄畑に到着し、葡萄狩りを開始した。
どの葡萄がいいか迷っている。
門松くんは特に選ばず、ビニール袋に入れた。
「迷いがないね。すごいよ。」
「どの葡萄もきっと美味しいに違いないと思って。」
農家さんや土地に敬意を払っているようで、とても素敵だと思った。
私も門松くんを見習って、吟味せずにすぐに袋へとしまった。
手に入れた葡萄はビニール袋に入れた。

次はワイン作りの見学。工場見学って楽しいからワクワクする。
手で摘んだ葡萄をタンクに入れて、丸ごと醸造し、葡萄がいっぱいになったら蓋を密閉するそうだ。
タンクの中の葡萄たちの重みで潰れて、果汁を自然に出していき、発酵してボジョレーヌーボが出来上がる。
詳しいことはよく分からなかったけど、とにかくフレッシュな葡萄で美味しいワインが出来ることはよく分かった。

そしてボジョレーヌーボと肉料理をお昼ご飯に堪能する。
ボジョレーヌーボにはチキンステーキが合うそうで、チキンと温野菜、パンプキンパイを堪能した。
食事で秋を感じるのって最高。
その後は自由行動で、神社を巡ったり足湯に入ったりした。
足湯から見える山々が綺麗で、のんびりとした時間を過ごした。
そして、前々から調べていたお土産屋さんでお土産を購入した。
カフェに入り、温かいミルクティーを飲んだ。門松くんはカフェオレを飲んで熱そうだ。
2人で景色を楽しみながら飲むのが、格別に美味しかった。

「バスツアーはもう終わりますね。あっという間でした。」
「そうだね。楽しかったな。」
「紅葉、綺麗でしたね。」
「綺麗だった。ありがとうね、来てくれて。」
「こちらこそです。これからまた、沢山旅に行きましょう。」
「ん?これから?」
「仕事を一生懸命している西巻さんの姿を見て素敵だなと思いました。プライベートの姿を見たくなって、今回一緒に来たんです。」
「うんうん。」
「今日も素敵だと思って、一緒にこれから過ごしたいと思いました。俺と付き合ってくださいますか?」
「…はい。喜んで!」
そう言うと、門松くんが手を繋いでくれた。
2人で手を繋いで、帰りのバスでも楽しく話をしながら帰った。

楽しかった昨日のことを思い出しながら、今日は仕事をこなしている。
隣では門松くんが座っていて、たまに目が合うと微笑んでくれる。
これからは門松くんと色んなところへ旅したいと思う。

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