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ラタルネの光 -Café yorumachi-

初めまして、ラウラと申します。
私はドイツ人で、日本の文化を学ぶため、日本に住み、Café  yorumachiの女店長として働いています。日本には20歳から住んでいて、もう15年が経過しました。
このお店はドイツをコンセプトにしており、食べ物や飲み物もドイツ料理を提供しています。

「コーヒーを1杯ください。」
このダンディな白髪交じりのおじ様は常連のお客様の田辺さんです。
とても上品でお洒落な雰囲気で、様々なお話をしてくださいます。

「かしこまりました!少々お待ちください!」
しずくが準備に取り掛かりました。
スタッフのしずくはアラサー女子で、人が喜ぶことが大好きで、いつも一生懸命頑張ってくれています。

「お待たせしました、コーヒーです。ごゆっくりお過ごしください。」
しずくが優しくコップを置いてくれました。

「すみません、このポスターのイベントって何ですか?」
「こちらは、ドイツのイベントで『ラタルネ』という子どもたちが提灯を持って各家庭に歌を歌いに行き、お菓子を貰うというイベントをここで行ないます。
今回はカフェで提灯を作り、歌を歌って、パンやお菓子を一緒に食べる予定です!」
田辺さんが壁に貼られているポスターを指差して聞いてきたので、イベントについて説明しました。

「初めて聞いたイベントです。とても素敵ですね。大人でも参加していいですか?」
「はい、もちろんです。夜に開催するので暖かい格好でいらしてくださいね。」
「お気遣いありがとうございます。楽しみにしてますね。」
「はい、是非!私も楽しみです。」
田辺さんは少しテンションが上がった様子で聞いてくれたので、私も笑顔で伝えました。

「私も参加したい!女子高生でも平気かな?」
田辺さんとの会話が一段落すると、近くに座っていたサラちゃんが、目を輝かせながら大きな声で話しかけてくれました。
サラちゃんもカフェの常連さんで、近くの高校に通う女子高生です。
明るくて元気いっぱいなフレンドリーな子です。

「サラちゃんはいつも来てるんだから、イベント関係ないでしょ!」
田辺さんにコーヒーを出した後も近くで待機していたしずくがツッコミを入れました。

「それはそうだけどさ!一応良いよって言われてから参加したいじゃん?」
サラちゃんは頬を膨らませて、少しむくれながらしずくに言いました。

2人は仲が良くて、たびたび冗談を言い合っています。
いつも明るく元気な二人は、周りの空気を和やかにしてくれています。

「参加するのに年齢は関係ないからOK!いつも来てくれてありがとうね、サラちゃん。
提灯を作るのは初めてだよね?」
私はサラちゃんに質問しました。

「うん、初めてだよ。事前になにか用意する物はある?」
「必要な材料や道具はこっちで用意するから大丈夫!どんなデザインを作りたいかを考えて来て貰えるかな?」とサラちゃんに伝えました。

ラタルネでは画用紙とカラーセロファンを使用して色とりどりの提灯を作ります。
四角い形が基本ですが、動物や果物などを模した形の提灯を作る人もいます。
提灯の側面を思い思いのデザインで切りぬいて、カラーセロハンで色を付けていきます。

「分かった!とっても楽しみ!」
サラちゃんははしゃぎながらしずくの手を取って笑いました。
しずくも笑顔でサラちゃんの方を向いて、楽しそうにしています。

「私も昔、ラタルネに参加したの。小学校の授業で提灯を作って、スーパーや近所の人の家に行って歌を歌ったんだ。
お菓子を袋に沢山詰め込んでくれて、貰ったお菓子をどれから食べるか、悩むんだよー!」
と懐かしんで話し出しました。

「あれ、しずくはドイツに居たことがあるの?」
「小学校の時にお父さんの仕事の関係でドイツに住んでたの!
 だから今回は久しぶりのラタルネなんだ。」
「そうなんだ!2人にとって大切なイベントなんだね。ラウラさんのラタルネの思い出も教えて!」
サラちゃんが私のほうを向いて聞いてきました。

「私はドイツで生まれて育ったから、毎年参加してたの。
高校を卒業してからは、近所の子ども達にお菓子を配ったよ。
子どもにお菓子をあげた時、大人になったんだなと実感したんだ。」
ドイツに住んでいた時の思い出を話すと、田辺さんも話を始めました。

「イベントを主催する側になると大人になった事を実感しますよね。」
と言い、昔を懐かしむように頷きました。

「とっても素敵ですね!子どもも大人も楽しめるイベントにしましょうね!」
しずくが興奮気味に言い、思い出話を聞いてテンションが上がっているサラちゃんとハイタッチをしました。

みんながラタルネというイベントを心から楽しみにしている様子を見て、とても幸せな気持ちになりました。

そして数日が経ち、ラタルネ当日を迎えました。

カフェヨルマチはいつにも増して活気があり、イベントの開始を楽しみに待つ子ども達が集まっています。
私はマイクを手に取り、参加者から見やすい位置に移動しました。
「皆さん、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。
スタッフ一同、本日を楽しみにしていました。
このようなイベントを開催出来てとても嬉しいです。少しでもドイツに興味を持つきっかけになったら、幸いです。」

子ども達が目を輝かせて、私の話を聞いてくれています。
サラちゃんとしずくも子ども達に混ざって、嬉しそうにこちらを見て話を聞いています。

「早速、プログラム通り、ラタルネで使用する提灯を作成していきたいと思います。
手元に準備された、黒い画用紙に思い思いの絵を描いてみてください。
では、作業を開始してください!」

先ほどのざわめきが一気に静まり返り、鉛筆の音だけが店内に響きました。

私は各テーブルを回り始めました。

子ども達のテーブルを複数見回って、ひとしきりアドバイスをした後にサラちゃんと田辺さんのテーブルへと向かいました。

「うーん、これでいいかなぁ?」
「サラさん、素敵なお花ですね。テーマは四季のお花ですか?」
「そうなの!でも花びらの形が難しくて苦戦してるんだ。田辺さんは四季のイベントについて描いているの?」
「僕はクリスマスが好きだから、冬のイメージはかなり力を入れて描いたのだけど、夏のイメージが思い浮かばないんです。
夏といえばどんなイメージを思い浮かべますか?」
「夏といえば海やアイスを思い浮かべるかな!クリスマスのようなイベントはないけど、海を描くのはどう?」
「海や太陽を入れると夏らしい景色になりそうですね。」
田辺さんはサラちゃんのアイディアを元に、海を描き始めました。
すると、近くの席に座っていた子ども達が田辺さんの悩んでいる様子を見て、アドバイスをしに来ました。

「海と言えば海の家でしょ?焼きそばやラーメンも描いてよ!」
「食べ物じゃなくて景色を描いてるんだよ?食いしん坊だなぁ。」
「ショートケーキにビスケット、スパゲティ…全部食べ物の絵だ!」

周りの子ども達はその話を聞いて、笑いだしました。
鉛筆で描く音、笑い声、楽しそうな話し声が店内に響いています。

「はい、じゃあ絵を描けた方はカッターで切り抜いてください!
その後に絵に合わせて、カラーセロハンをのりで貼ってくださいね。」

「「「はーい!」」」

参加者のみんなは、描いた絵をカッターで切りながら、各々のペースでセロハンを貼り始めました。
しばらくすると、完成した提灯を手に持ちながら、田辺さんが満足げに私に近寄って言いました。
「ラウラさん、ようやく完成しました。
ここしばらくは、人と何かを作る事がなかったので、とても楽しかったです。
こんな素晴らしい機会を下さり、本当にありがとうございます!」

田辺さんの言葉に感動し、私は思わず田辺さんの手を取り握手をしてしまいました。
田辺さんは少し驚きながらも嬉しそうに握手を返してくれました。 

キッチンから戻ってきたしずくがみんなに声をかけています。
「はーい!みんな中央のテーブルに集まって下さい!パンを配りますよー!」
参加者は一気にしずくの方に視線を向け、中央のテーブルへと集まりました。

「ベックマンというラタルネで出てくる伝統のパンです!
人の形をしたパンで陶器のパイプを持っているんです。パイプは食べられないから、注意してくださいね!」と説明しました。

「甘くて美味しい!」
「パイプも食べられたらいいなぁ。」
「毎日食べたいくらい好きかも!」
みんな、ベックマンの事を気に入った様子です。

みんなが食べ終わると、提灯をぶら下げるライト付きの特製の棒を配ります。

「この棒の先に提灯を引っ掛けて下さい。
手元にあるスイッチを押すと電気がつきます。
準備をお願いします!」
みんなに実際に見せながら説明をします。

それぞれが作った提灯には紙で持ち手を作っていて、そこにライトを引っ掛けられるようになっています。

準備が整うとスイッチを入れ、店内はカラフルな光で満ちはじめました。

薄暗くなった店内で提灯の光が色鮮やかに輝いています。まるで星空のようです。

「魔法みたいに輝いてる。」
「綺麗だね〜!」

みんな笑いながら他の人の提灯を眺めたり、天井に映る光を追いかけたりと、様々な楽しみ方でラタルネを楽しんでいます。

しずくが事前に印刷してくれたプリントをみんなに配りました。

私はみんなの手元にプリントが届いたのを確認し、再度マイクを手に取って説明を始めました。
「皆さん、プリントを見てもらえますか?
このプリントにはラタルネで歌う楽譜が載っています。」
私はみんなが静かになったタイミングで、ラタルネの歌を歌い始めました。

「提灯、太陽、月そして星。
私の火よ高く燃え上がれ、
でも私の提灯は燃えないで。」

「このような意味の歌なんです。
みんなで一緒に歌ってみませんか?」

「はい!」

みんなが声を揃えて返事をしてくれました。
見慣れないドイツ語の歌詞を真剣に読み始めてくれています。

10分ほど経過したので、私は手を叩きました。

「ではみんなで歌を歌ってみましょう!」
私はみんなに伝え、事前に用意していた伴奏をスマホで流し始めました。

「ラタルネ ラタルネ
ゾンネン ムント  ウント シュタールネ

ブレンネ アウフ マイン リヒット
ブレンネ アウフ マイン リヒット
アーバー ヌア マイネ リーベ ラタルネ ニヒト」

私の真似をしながらみんなが歌いました。店内には美しい歌声が響きました。

歌い終わると、歓声と拍手の音で包まれました。

「はーい!歌を歌った皆さんにはお菓子をプレゼントします。一列に並んで!」

しずくがキッチンから人数分の布の袋を持ってきてくれました。
袋の中にはチョコやグミ、飴やクッキーが沢山入っています。

「このお菓子を楽しみに参加したの!
でもみんなと交流出来たのが1番嬉しかった!」
「私も!また来年も参加したい!」
照れくさそうに子ども達が言いました。
みんな嬉しそうに微笑んでいます。

テーブルに好きなお菓子を並べて、ココアやコーヒーなどの好きな飲み物を飲みながら楽しくお話をしています。

Café  yorumachi ☾⋆の光は提灯の灯りと共に、これからも輝き続けます。

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