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オーストラ・マコンドー『孤独』の感想メモ

2021年7月31日昼にすみだパークシアター倉で観た、オーストラ・マコンドー『孤独』の感想。

この公演は現在上演中であり、感想の内容には多くのネタばれが含まれています。ご観劇の予定がある方は舞台をご覧になった後にお読みいただければと存じます。

馴染みの場所の新しい劇場での公演。これまでも時々足を運んだすみだスタジオパーク倉も広い舞台面を持った劇場だったが、そこはもうあとかたもなくなり、奥側に新たにすみだパークシアター倉として建てかわっていた。従前ほどではないにせよ幅があり高さも担保され、その上でしっかりと空間に密度を感じる。座席は赤と黒がまだらになった旧来のものが使われていて、これまでにその場所で編まれた演劇の歴史を受け継ぐ志にも思え、一方でその先での新しく紡がれるであろう舞台を支えていく心意気を感じたりも。キャパは150前後だろうか、以前の劇場でもそうだったように十分な勾配が客席に設えられていて、どの位置からでも視野が担保されているのも観客には嬉しい。ベタな言い方だけれど、とても観やすい劇場だと思う。

マコンドー孤独2UP

場内へと入ると、まず目につくのが舞台中央を縦に割る水路。その両側の舞台面には土が敷きつめられている。開演、上手から疲れ果てた表情の人物たちが現れ舞台に上がる。
あとで物語の筋立てがCorichなどのWeb上に記載されていることを知ったが、舞台上ではその詳細までが語られるわけではない。それでもそのことでの不足や難解さは感じられない。
追われ逃げ続ける人々。彼らは追っ手たちの非が全てが書いてあるという書状を携え、どこかに訴え出て救いを求めようとしているらしい。戦国時代や江戸時代の逃散のようにもみえるが、服装は今様で、でも現代劇というにはスーツ姿で刀を差している男がいたり、カジュアルな装いで仏僧のような役割の男がいたりと違和感があるが、やがてそれぞれの素性も、それが父と義理の娘であったり、差別を受ける者であったりということも知れ、ひとりずつの姿が観る側にも馴染む。
その中でひとりの男が私欲にかられ書状を奪うために書状を携えている父親を刺す。そこから、人物達の逡巡や戸惑いや想いやそれを超えた情念や怒りが死のありようともなり舞台を満たし、中央の水路は三途の川となり、神仏の存在とその祈りが差し入れられつつ、その存在がなにも止めることは無く、修羅場は紡がれ語られていく。

無慈悲に刺された父親の生への執着のありようは作品のみせどころで、台詞となりえないような数十分にもおよぶ俳優の身体での表現に引き入れられ、固唾を呑み、視線を縛られ、圧倒される。地面に横たわるところから、苦しみにあえぎ、うめき、這い、力尽きたように停まり、執念を迸らせつつ更に進む。それは生々しく、死に至る時間の具象とも現代舞踊で描かれるごときの生死の境の心風景のありようともなり、やがて川の水に辿り着き口をつけ這い戻り布が掛けられるまでを観る方も息をつめ唯々見つめる。
刺す側の俳優が編む筋肉質の邪悪には、舞台を支配するような理を超えた非常さや強さがあり、嫁の連れ子だというその娘にも他の人物達にも俳優が紡ぐ想いのその揺蕩いや業や諦観を凌駕する憎しみが滲み、満ち、溢れる。
父娘のそれぞれを背負う姿の俳優達の身体をとおして伝わる重みや、汚れや、一途さや、言葉にできない無垢さにも行き場無く深く心を捉えられる。
鉛のような重さが支配する舞台ではない。バンドが奏でる生音も入り、俳優達の動きや出捌けにもしなやかな流れがあり、静寂なときも激しさの中にも空間は鼓動を持ち、沈んだり滞ることもなく、三途の川に浮かぶことの静謐さも無常や生きることと死が導くやり場のない感慨も、空間の風景と息遣いのなかに残る。そのありようがどうにも生々しく、禍々しく、清廉で圧巻だった。

終演時、俳優達が上手奥の扉を開けて外の光に出て行くとき、観る側にも再び日常が解き戻されるような感覚があって、どれだけ深く舞台上の世界に閉じ込められていたかに気がつく。正直たっぷりに消耗していたが、劇場を出るときの外の光の強さに救われたようにも感じた。

マコンドー孤独3UP

駅までの長めの帰り道、作り手のこれまでの作品を振り返り、作品たちに切り取られた生きる感覚の様々な深浅を思い出す。その多くは、時に日常の中で変化していくものの肌触りであり、あるいは刹那であり、歩んだ道のりの俯瞰でもあったが、今回描かれたのは、疫病に世界が歪んでしまった今にも変わることのない人が生きることと滅失することの深淵だったようにも思う。
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オーストラ・マコンドー『孤独』
2021年7月31日~8月8日@すみだパークシアター 倉
脚本・演出 : 倉本朋幸(オーストラ・マコンドー)
出演 : カトウシンスケ 後藤剛範 梅舟惟永(ろりえ)
     坂元 新 松永大輔 清水みさと
     小林 光 西中村豪起 
Band : the hollows
       vo.gt.:西中村豪起
       Bass::川崎テツシ
       Dr:岡山健二


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