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街コン潜入大作戦③

~つづき~

全く幸先の良くないスタートとなった初街コンであるが、司会者の声は男子達を次の女性の部屋へと急かしている。一人の女性と話せる時間はたったの3分。目まぐるしく変わる話し相手に対しても臨機応変に対応していくのが街コン攻略の鍵だ。

―1人目では対応力ゼロの醜態を晒してしまったが、勝負はこれから。意気揚々と2人目の女性が待つ部屋へと向かった。
幸いプロフィールカードにはしっかりとした情報が記されており、話題に事欠くことは無かった。向こうから質問が飛ぶこともあり、私の緊張もいくらか和らいだ。
さて、3分間のトークタイムが終わると「記録タイム」なるものに突入する。記録タイムでは相手の印象だったり、また話したいかどうか等、何番の女性がどんな人だったかをメモする時間がある。まあ簡単に言うとその女性のランク付けをする時間である。(ここでフェミニストの鉄拳が私の顔面にめり込む)
しかし、プロフィールカードに「A,、B、C」とか「1、2、3」といった露骨なランク付けを書いているのを見られると非常に気まずい。私は考えた。万が一見られても大丈夫な書き方は無いものか...
無い頭をひねり出して思いついたのが「x、y、z」というランク付けだ。

x・・・すごく気に入った。もう一度話したい。
y・・・まあアリっちゃアリ。
z・・・大変申し訳ないが無し。

といった3段階評価だ。これなら万が一見られても大丈夫だろう。私はとりあえず2人目の記録欄に
「13番、y、未婚」
とだけ書いておいた。記録タイムは30秒しかないのでこれぐらいしか書けないのだ。一応三段階評価にプラスワン情報も付け加えるようにした。1人目のような事故はこれ以降起こらなかったので、ここからはダイジェストでお送りする。家にまだ置いてあったメモにはこのように書かれていた。(これを投稿したらすぐ家のメモは破り捨てよう。)

―1番「z、35sai」
―2番「y、パツキン」
―3番「x、話◎」
―4番「y、31sai」
―5番「z、タメ口」
―6番「y、●●(自主規制)」
―7番「z、●●(自主規制)」
―8番「z、●●(自主規制)」
―9番「x、28sai」
―10番「y、●●(自主規制)」

といった具合である。いかに私のメモがテキトーかつ要点に乏しいものかを想像していただきたい。後半怒涛のようにモザイクが入っているが、とてもここに書くことはできない内容だった。

流れ作業的な感じで12人の女性との会話を終え、次なるステージである告白タイムへと移った。ここでは告白カードなるものを配られ、そこに気に入った女性の番号を書いていく。私は三段階評価でxを付けた9番と3番の女性を第一、第二希望として提出した。ちなみに告白カードには第五希望まで書けたので、減るもんじゃないと思って残り三人もテキトーに書いた。

司会者が全員のカードを集め、集計に入った。この間にマッチングしている男女がいるのかーというよく分からない感慨に浸っていると、数分してから突然

「それでは本日の成立カップルを発表します!!」

という司会者の声が会場に響いた。いよいよ発表の時である。参加者の生唾を飲む音が聞こえた気がした。
「男性と女性をそれぞれ番号でお呼びしますので、自分と相手の番号を覚えておいてください。」
なるほど、そういうシステムか。私の番号は11番である。9番か3番カモン!
「それではまず男性の方は、…11番の方です!!!!」

いきなり呼ばれた!!!!

これには驚いた。あまりにもいきなり呼ばれたからだ。いきなりステーキだってこんなにいきなりではない。しかし良い兆しであることには間違いない。一人目の女性にあんな失礼をぶっこいた私にこんなチャンスが巡ってきたのだ。神は私を見捨ててはいなかった。9番と3番が私のお気に入りの女性だ。どっちだ?どっちの女性とマッチングしたんだい!!!????

「そして女性は、…13番の方です!!!おめでとうございます!!!」
「....................誰だ???????」

私は混乱に陥った。13番って、誰やっけ…?

「カップル成立です!おめでとうございます!!!」

司会者の全力の祝福とは裏腹に、会場には湿った拍手が響いていた。多分他人のカップル成立なんかに微塵も興味は無いのだろう。当然だ。
その後も4組のカップル成立が発表されていたが、もはや私の耳には届いておらず、13番の女性がどんな人だったか思い出す作業に没頭していた。どうやらテキトーに書いた第三~第五希望に13番の女性が書かれており、それがマッチングしてしまったらしい。減るもんじゃないなどという卑しい考えで欲張った自分を呪った。

「…本日の成立カップルは以上です!男性のみなさんは先にご退場いただき、後から退場いただく女性を出口でエスコートしてください!!本日はお越しいただきありがとうございました!!!」

司会者の声が響いた。え?これってもう出ろってこと??私は13番の人がどんな人だったかを確認しに行きたかったが、司会者は交通渋滞を華麗に捌いていく警官のごとく素早く男性陣を外に追い出した。
「すみません、女性陣の顔をもう一回見たいんですけど…」
なんてとても言い出せる雰囲気ではなかった。

仕方なく会場を出、カップル成立となった男5人で女性陣が来るのを待った。男たちの間に一切会話は生まれず、何とも微妙な空気が立ち込めていた。残念ながらカップル不成立となって一目散に帰っていった男たちとは違って私たちは勝ち組のはずなのに、なんでこんなに空気が重いのだ?誰かなんか喋れよ…
そう思った矢先、女性陣がぞろぞろと出てきた。
その瞬間、男5人が一斉にキョロキョロ女性陣を選別するように見始めた。私は悟った。カップル成立した相手どんな人やったっけ?と思っていたのが私だけではなかったことに。一切会話を交わさなかったのに妙なシンパシーを感じた。みんな第五希望までテキトーに書いたんだろうなあ。
私はほんの十数分前のかすかな記憶を頼りに13番の女性を見定め、「もしやあの人か?」という女性に
「13番の方ですか…?」
と決死の思いで声をかけた。幸い私の選球眼は間違っておらず、見事13番の女性を引き当てた。
マスク越しで全貌は分からなかったが、小柄で可愛らしい感じの女性だった。私は勢いに任せて
「この後カフェでも行ってもう少しお話しませんか?」
と誘ってみた。我ながらナイスな押しの強さである。さあこい!!
するとその13番の女性がこう言った。
「すみません…このあと用事あるので帰ります。」

クソが!!!!!!

もちろんこれは心の声だ。外面はニッコニコキープである。しかし、この瞬間私の中で何かが弾け、もうどうでもいいやという心境になった。
街コンの後に用事入れんなよ13番!!ゴルゴ13やんけもう!!という意味不明な罵詈雑言が心に渦巻くほど心の糸がプツリと切れた。
そうですか残念ですね(^▽^)といった雰囲気を保ったままその場を立ち去り、天を仰いだ。

多分向こうも私は第五希望ぐらいのテキトーに書いた男だったのだ。私が彼女をゴルゴ13と呼んでいたように、彼女も11番の私の事をイナズマイレブンとでも呼んでいたのかもしれない。

男女の出会いは縁である。今回は縁が無かったという非常にありきたりな結論で自分自身を納得させた。もちろん数をこなせば良縁に恵まれる確率は高くなるが、しばらく街コンはいいや…
という気持ちを抱えたまま現在に至る。

かくして街コン潜入大作戦第一部は幕を閉じた。第二部の立案予定は、今のところ無い。

~おわり~

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