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ワクチン0回目の副反応レポート

こないだの土曜日ね、ワクチンの予約入れてたんですよ。名前は出しませんけど、あの巷にはびこる謎の伝染病のワクチンですよ。友達が看護師やってるクリニックが近所にあったんで、そこで打つ運びになったんです。

いや僕ね、正直めちゃくちゃビビってたんですよ。怖かったんですよ。ただただ怖かったんです。貴方の優しさが。いや副反応が。僕マジであらゆるステータス異常に過剰なまでに敏感なんで、人差し指にささくれ一個できただけでもう大騒ぎしちゃうんですよ。それはもう大騒ぎなんですよ。


『指先を刺す この尖った痛み きっと 忘れない 嗚呼 痛い 嗚呼 痛い 嗚呼痛い  ——逢いたい。』


みたいなね、昔の椎名林檎のファン風ポエムをツイートしかねないぐらいの大変な騒ぎですよ。『病は気から』という言葉は僕のためにあると言っても過言ではないですから。本当にちょっとしたことで体調を壮絶に崩して寝込むことでお馴染みのデリケート男子なんで、それを知っている友人たちは今回僕がワクチンを打つという話をすると、みんな口を揃えて『お前はプラシーボで具合悪くなるタイプだよ』と言いました。そして僕サイドとしても、それに対する反論は一切ありませんでした。

デネ。何がデネだ。いろいろトゥイッターとかインスタとかあめぞう掲示板で“副反応”とか検索したりして、『やっぱり熱とか出るのかな、身体のふしぶしが痛くなったりするのかな』とひとり戦々恐々としておりました。


ほいでさ、もう土日はしっかりバイトの休み取ってね、金曜日もちょっち早めに寝ますかねっつって、夜中の0時に布団に潜り込んだんですよ。もちろんジェラピケにナイトキャップですよ。天使の寝顔ですよ。それからどのぐらいの時が経ったでしょうかねえ、5〜6分ぐらいですかねえ、急に、めちゃくちゃ暑くなってきたんですよ。

もうフィリピンの熱帯夜みたいなうだるような猛烈な暑さですよ。

フィリピン行ったことねーけど。

もうとにかく、あんまりにも暑いんで、『アララッ? 今日ってこんなに暑かったかしら?(顎に人差し指を当てて首をかしげながら)』と思ってスマホで気温を見たんですね。

23℃。

秋真っ盛りですよ。TUBEのかき入れどきはもう完全に終了してるんですよ。どう考えても暑いわけないんですよ。にも関わらず全身を覆う猛烈な暑さ。これは一体何事かと思っていると、今度は身体の内側で猛烈な悪寒が沸き起こりました。

外は酷暑、内は悪寒、これな〜んだ? 

答え、高熱!

『ヤバい、これ絶対熱ある!!』という凄まじい恐怖におそわれながらも、僕は寝返り打ち打ち、添い寝ASMRや呼吸法を駆使して、なんとかごまかしごまかし寝たんですよ。


で、翌朝。

僕はこう見えても毎朝JAZZを聴きながら熱いブラック・コーヒーと紙巻煙草を嗜むという、令和にあるまじきダンディズム精神の持ち主なんですけど、もうね、体調が悪すぎて音楽もコーヒーも煙草もいらないんですよ。

何一ついらない。

とにかく何もしたくない。

たとえ乳首を★シールで隠したブロンド美女が意味ありげな微笑を浮かべながらこちらを見つめていたとしても、背を向けたまま『帰って』って言えるぐらいにはマジで無気力な状態。

空前絶後の倦怠感。

味覚とか嗅覚はいたって正常でしたし、鼻水や喉の痛みってのもなかったんですけど、とにかくダルいし、身体のふしぶしが痛い。もうだめぽ…と思った僕は、ワクチン接種を予約していたクリニックに勤めている友達に連絡しました。


りきまる 昨日夜中になんでかめちゃくちゃ熱でて、どこ痛いとかはないんだけどめちゃくちゃ熱くなって
りきまる いまも熱たぶんありそーだから今回キャンセルってできるかな?
りきまる もうしわけなさすぎる…

友達 何度?😨

りきまる はかってない
りきまる 体温計ないから
りきまる まあでも平熱ではなさそう
りきまる 朝から申し訳ないね

友達 マジ?
友達 体温計ないならとりあえず測るだけ測ったら?
友達 ついでに薬も出してくれるかもだし

(LINE原文ママ)



友達のその言葉に背中を押される格好でね、よし、それならば行こう。私を待ってくれている人がいる。と思ってね、シルクハットにマントに着替えて、カイゼル髭を風にたなびかせながら愛馬にまたがりクリニックに向かったんですよ。いや嘘ですけど。普通に寝癖全開上下ジャージで重たい体を引きずって徒歩で向かったんですよ。ちなみにそのクリニックはね、ウチから歩いて7〜8分のとこにあるんですけども、そうね、体感的には天竺ぐらい遠かったね。本当に遠かった。もはや旅だった。なんか雨もめちゃくちゃ降ってたし。

で、ロードオブザリング顔負けの旅路の果てに命からがらクリニックにたどり着き、『すいません…遅くなりました…』って若干ヒーロー気取りで言ったらね、看護師の友達がもう喜怒哀楽のどれともつかぬ奇ッ怪な表情をしてるんですよ。

これは一体どうしたことだろうと僕が立ちすくんでいると、友達がツカツカと歩み寄って僕に言いました。

『ズボン、ずり落ちてるよ』

なんと僕は、2000年代のB-BOYばりの腰パンを決めこんでおり、パンツ丸見えというか、もうなんなら半ケツ状態になっていたのです。世が世なら縛り首ですよ。ていうか普通に不審者。どう考えても事案でしかない。降りしきる雨の中、半ケツのオッサンがズルズル歩いてるのとかあまりにも怖すぎる。マジでホラーすぎ。いま思い返すとすれ違う人全員引いてた気するもん。

『とりあえず、まず熱測ろっか』

友達は僕のズボンを上げてくれると、体温計を渡してくれました。このぐらいのダルさだったらまぁヘタしたら38度はあるかもしんねえな〜とか思ってたんですけど、測ってみたらビックリしたね。

40.1度。

そんな数字、小四のインフルエンザのとき以来出したことないですよ。なんなら自己ベストですよ。この脅威のレコードに、もう友達含む看護師の方々も大わらわになりました。

で、『ここでは検査ができないから申し訳ないけれど別なクリニックへ』ということで、友達が急遽、別なクリニックを予約してくれたんですよ。

それどころか、一旦自宅に帰るためのタクシーまで手配してくれたうえに、僕に千円くれたんですよ。

ジャージのズボンを上げてくれて、病院の予約を入れてくれて、タクシーまでつかまえてくれたうえに、千円くれたんですよ。

なにその優しさ? 誇らしくないの?

僕はこのとき、間違いなく友達はマザーテレサかキュリー夫人の生まれ変わりだと確信しました。そんな天文学的な優しさを目の当たりにした僕は、ただただ頭を垂れることしかできませんでした。まぁ単純に具合悪すぎてグッタリしてただけなんですけどね。

で、友達に感謝の意を告げ、いったん家へと引き返し、僕はすぐさまベッドへと倒れ込みました。まだ予約時刻まではけっこう時間があったので、少しでも身体を休めようと思ったんですけどね、休められなかったですね。

これ振り返るに自分でもちょっと驚くんですけど、40度の熱でもう息も絶え絶えだというのに、スマホでアイドルマスターとウマ娘の二次創作を延々と見ていました。休めよ。

朦朧とした意識の中で『小梅ちゃんはこんなこと言わない』とか『やっぱりタキモルは最高だな』とか思いつつ、pixivやトゥイッターを見ていました。いや休めって。

あとなぜかキューバ革命についてもやたらと調べていました。おかげでカストロ議長についてやたら詳しくなっちゃったもん。カストロって生涯で638回暗殺計画のターゲットになったらしいよ。人に命狙われるとか一回でも相当しんどいのに638回ですよ。僕だったら絶対マジ凹む。かなり萎える。超落ち込むと思う。

で、アグネスタキオンの袖口を食い入るように見たり、カストロ議長に詳しくなったりしてるうちに時は過ぎて、そろそろ支度をせねば間に合わんという頃合いになりました。しかし身体はもはや言うことを聞いてはくれません。まるで全身が鉛のように重たく、体感で8Gぐらいありました。

友達が予約してくれたクリニックは電車で一駅のところにある、これまた超近いところだったのですが、もはやそこまで歩く気力は僕にはありませんでした。

すげえ分かりやすくたとえると、幻海師範から霊光玉を受け取ったときの浦飯幽助ですよ。

もしくは超神水飲んだときの悟空ですよ。

HP2。

もう到底まともに歩ける身体ではなくなっていたんで、僕は覚悟を決めて、アプリでタクシーを呼ぶことにしました。とはいっても、僕はこれまでの人生で一度もアプリでタクシーを呼んだことはありません。友達が飲み会帰りなんかにアプリを駆使してタクシーを呼び、颯爽と乗り込む後ろ姿を見て『オトナっぽいなー』とかいってハナを垂らしているばかりでした。

しかしオトナの階段とは登るものではなく登らされるもの、僕はアプリをダウンロードし、朦朧とする意識の中、どうにかアカウントを作って、タクシーを召喚することに成功したんですね。これは大変な偉業ですよ。40度の熱があるときにアプリを新規にダウンロードして使用するというのが、どれだけハードルが高いことか。レベル高すぎですよ。レベル高杉晋作ですよ(言いたいだけ)。

で、タクシー待ってたらね、看護師の友達から連絡がありました。



友達 ごめん、冷えピタ売り切れてたから氷買ってこうとしたのに買い忘れてた
友達 とりあえず食べ物と飲み物しか買えなかったけど栄養ちゃんと摂ってね😭😭😭😭

(LINE原文ママ)



なんとこの友達、ご飯を食べる暇さえなかったというのに、わずかな隙間を縫ってスーパーへと買い出しをしてくれて、僕に差し入れをしてくれたのです。

ジャージのズボンを上げてくれて、病院の予約を入れてくれて、タクシーまでつかまえてくれて、千円くれたうえに、差し入れをしてくれたんです。

控えめに言っても神です。慈愛精神が服を着て歩いているようなものです。

なにその優しさ? 誇らしくないの?

まぁ、その差し入れが置いてあったの、隣の家のまえだったんですけど。

『いや、ウチ何回も来たことあんじゃん!』とは思いましたけど。

そーゆーこと言うなよ!

人にそんだけ優しくしてもらっといてそーゆーこと言うなって!

そんぐらい忙しかったってことじゃん!

わかれよそのぐらい!


で、そうこうしてるうちにタクシーが来たんで乗り込んだんですけれども、またこのタクシーの運転手の方がめちゃくちゃ気さくな方でね、すごい話しかけてくるワケ。僕としては自分がいかな未知の病原菌を抱えているかわかったモンじゃないですから、なるべく静かにしておきたいんですけれども、かといって無視するワケにもいかないので、応対することにしました。HP2でも。


『いや〜、すぐ近くにいたからお客さん拾えたんで、ラッキーですよお』

『……ああ……はあ……』

『いや私ね、きょう乗せたお客さん全員にね、感謝の気持ちを伝えてるんですよ』

『なんでですか…?』

『あのね、私ね、今日でこの仕事辞めるんですよ』

『それは、お疲れ様でした…』

『もう○○○(謎の伝染病)のせいでね、すっかりお客さんも減っちゃって。全然稼げなくなっちゃったから』

『そう、ですか…』

『ウチはねえ、完全歩合制なんでねえ。前はねえ、飲みのお客さんもたくさんいて、結構よかったんですけどねえ。もうこんな風になっちゃうとね。あとね、この仕事ねえ、太るんですよ。私ね、十年やりましたけど十キロ太っちゃいましたよ。次の仕事はね、もうそういうのはないからね、それは安心なんですけどね』

『…つぎは、どんなお仕事なんですか?』

『ゴミ収集です。人は生きてる限り絶対ゴミを出しますからね、わははは』

『…そうですね…あ…そこの角のところで停めてもらって大丈夫です…』

『あー。すいませんね、なんか一人でずっとしゃべくっちゃって』

『いえ……あと、あの……運転手さん』

『はい』

『その……次のお仕事も、がんばってくださいね。僕も、がんばります』

『わははは。そうですね。おたがいがんばりましょう』


そんな風にして僕はタクシーを降りました。そのタクシーはすぐに別なお客さんを捕まえて去っていきました。小さくなる車影を遠く見つめながら、僕はボンヤリと、こう思っておりました。

——さて、オレははたして一体何をがんばればいーのだろーか。

答えなど出るワケもありません。がんばりたい何かを見つけ出して、自分が納得いくまでがんばり続けるためには、まずなんといっても生きないことにははじまりません。よし決めた。まずは生きよう。そして僕はコンビニで栄養ドリンクを買ってそれを飲み干すと、事前に友達から指示された通りに電話を一本入れて、予約時刻きっかりにクリニックへと入りました。


んで、いくつかの問診ののち、抗原検査とPCR検査をやりました。検査方法はあの長い綿棒をギューっと鼻の奥に差し込んでグリグリーッてやるやつです。僕の人生で嫌なことランキング第8位ぐらいに入るやつです。

ちなみに7位が『罰ゲームでウソ告白される』で、9位が『野犬に追いかけられる』ですから、僕がどんぐらいイヤかっていうのがすごくよくお解り頂けるかと思うんですけど。野犬以上・ウソ告白未満のイヤさ。

そして検査結果が出るまでのあいだ、もうこれは何があってもおかしくないなと僕は思っていました。今後起こりうるであろう色々なことと、それへの処遇について考えると思考回路はショート寸前、アタマがフットーしそうでした。


十五分ほど経ったでしょうか。審判のときはやって来ました。スラリとした長身の先生が、検査結果とおぼしきシートを持ってあらわれました。


『山塚さん、結果が出ましたのであちらの方でお話しさせていただきます』

『はい……』

 僕は廊下の椅子に座り、先生の一言を待ちました。先生は検査結果が書き込まれたシートを取り出すと、小さく咳払いをして、静かな口調でこういいました。

『陰性でした』

『えっ』

『おそらく風邪だと思います。風邪としか言えない

 僕はさっきまでのアンニュイ口調がウソだったかのように、声高でまくし立てました。

『え、あ、いや、でも、あのう、素人意見で恐縮なんですけど、僕、風邪でこのテンションの体調不良ってあんま経験したことないんですよ。僕が40度台を叩き出したのってマジで小四のときのインフルエンザぐらいで』

『インフルエンザはいまけっこう珍しくなってますから、可能性は低いかと思いますが、念のためにインフルエンザの検査もしましょうか?』

『お願いします。そればっかりは、マジでお願いします』

 そしてまた人生で嫌なことランキング第8位ぐらいに入るやつをされたのち、十分ほど待っているとふたたび先生がやってまいりました。

『山塚さん。結果が出ました』

『はい。張り切ってどうぞ』

『陰性でした』

『えっ』

『おそらく風邪だと思います。風邪としか言えない

『そんな…僕は…僕は……風邪だった…?』

『とりあえずは安心していただいていいと思います』


それから僕は薬局へ行き、薬をもらって、タクシーに乗って帰宅しました。これほどの体調不良が風邪だということが信じられないまま、ジェラピケとナイトキャップに着替えて、お気に入りのぬいぐるみを抱いて眠りました。

で、一晩寝たら、熱は下がっていました。

すべて完全に治っていました。

はい、もうそれはそれはパーフェクトにキュアーしておりました。

仮にやれと言われたならば、今すぐ庭へ飛び出して上裸で三節棍の練習をできるぐらいには花丸元気な気をつけ乳首さんでした(は?)。

アレですよ、『BECK』でコユキがめっちゃ高熱出した夜にジョン・レノンとかシド・ヴィシャスがゴミ拾いしてる夢見て目覚めたら熱が完全に下がってたじゃん、アレと同じ。その夜に僕が見た夢は、スシローに行ったらレーンの回転スピードがマジでめちゃくちゃ早くて全く寿司が取れないっていう内容の夢でしたけど。


まあまあまあまあ、というワケでね(どーゆーワケだ)、今回の出来事を一言で総括するなら先出しプラシーボですよ。

先生の『風邪としか言えない』っていう言葉の重みたるや凄いですよ。『風邪としか言えない』ってことは風邪じゃないってことだもん、暗に。

まぁプラシーボっつうのは有効成分が含まれていない偽薬を本物の薬として服用させたら効くっていう、“思い込み”が身体にプラスの影響を及ぼすことを指す言葉で、その逆、思い込みが身体にマイナスの影響を及ぼすのは“ノーシーボ効果”っつうんでね、正しくは先出しノーシーボですけど。

先出しノーシーボ。

かっちょいー。

ミニ四駆の改造テクとかでありそうですね、先出しノーシーボ。

それか突然段ボールの新曲ね。

ワクチン打つまえに副反応を起こしてるんですから、これはもうまごうかたなき先出しノーシーボですよ。

症状もね、よくよく考えたら『高熱』×『身体の節々の痛み』っていう、“ぼくがかんがえたふくはんのう”だもん完全に。

いわば副反応の自主制作ですよ。インディーズですよ。ラフィンノーズですよ。ゲッ、ゲッ、ゲッザグローリーですよ。5年前にラフィンノーズのライヴ観たときチャーミーさんマジで楳図かずおソックリだったなぁ。

まぁとにかくね、ワクチンを接種するまえに副反応が出るというのは、もうほとんど想像妊娠の領域ですよ。しかもワクチン接種当日になるや否や熱出して、次の日になった瞬間にもう完治してるんだもん。僕マジで風邪の治り遅いんで、一回38〜9度とか出ちゃうとね、平熱に戻るまで三日とか四日かかるんですよ。それがもう24時間の間に完治しているというね。

まぁなんつったらいいんですかね、思いの力ですよね。

看護師の友達にも『たぶん心因性の発熱だと思う』って言われましたからね。『ちっちゃい子とかはワクチン打つまえに怖すぎて熱出しちゃうことあるから』って言ってました。ちっちゃい子じゃなくて中ぐらいのオッサンなんですけどね。しかも微熱じゃなくて40度出したし。

あのね、ノーシーボ効果の解説でね、よく持ち出される『ブアメード実験』っていうエピソードがありまして。

1883年のオランダで、ブアメードという犯罪者に、ある実験が行なわれました。ブアメードをベッドの上にしばりつけて目隠ししておいて、その周りで医師団が話し合いをして、“人間は三分の一の血液を失ったら死ぬ”っていう結論を、ブアメードに聞かせたんです。

それから医師団は、ブアメードの足の親指にメスを入れました。

用意してあった容器に、血液がポタポタとしたたり落ちはじめます。

そして数時間。

医師団が“出血量はどれぐらいになりましたか?”、“まもなく三分の一になります”という会話をしたところ、ブアメードは静かに息を引きとりました。

ですが、実は、ブアメードの身体からは一滴たりとも血など出ていなかったのです。

ブアメードの足の親指にはメスなんか入っていなかったのです。

あたかも切られたように錯覚させる痛みだけを与えておいて、あとはずっと水滴を垂らして、血が流れ続けていると思い込ませていたんです。つまりブアメードは自らの“思い込み”によって亡くなったのです。

……と、まぁいかにもありそうに書きましたけど、これは有名な都市伝説です。完全なガセネタであると立証されております。たしかに立証されてはおりますが、僕はこの実験をやられたら確実に死ぬ自信がありますね。マジで超ありまくる。

なんなら前日に謎の変死体として発見される自信がある。

『どんな刑を受けるんだろう…』とか勝手に想像してその思い込みで具合悪くなって死ぬとか全然普通にありえる。OK、余裕。いや全然余裕ではない。どう考えてもマンボーより生存競争に適していない。


まあまあまあまあ、あとなんすかね、これだけ話すとなんか僕が一人で大騒ぎしただけの、超インドア系ダウナー型のミスタービーンみたいな感じに見えちゃうかもしれないんでね、最終的にうまくまとめるために少々取りつくろわさせていただきますとですね、思いの力っていうのは決してバカにできないんですよ。

えっとね、水も空気も植物も動物も惑星も、この宇宙のすべては原子の集合体でできていますよね。

で、原子というのは電子の集合体です。

この電子は「粒」であると同時に「波」の性質を持ちます。

これがどういうことかっつーと、同じ1つの電子はX地点にもY地点にもZ地点にも同時に存在するってことです。大きな池に石を投げ込むと波紋が広がるでしょう。この波紋の右端も左端も真ん中も、すべては同じひとつの波ですよね。それと同じことです。

つまり、この文章を読んでいるあなたも、電車に乗っているあなたも、音楽を聴いているあなたも、眠っているあなたも、恋人とデートしているあなたも、恋人と別れたあなたも同時に存在しているんです。

これを遍在といいます。

もしくはユビキタスともいいまして、ロイ・エアーズ・ユビキティってグループがいるでしょう、あれはそっから来た名前です。

つまりね、いま現在、自分がいる位置なんて定まってないし、いま現在している行為も決まってないんですよ。すべては混沌の世界をランダムに揺らいでるの。

たとえばあなたがいま、部屋のベッドに寝っ転がりながらこの文章を読んでるとするなら、それはただあなたが、“自分はいま部屋のベッドに寝っ転がりながらこの文章を読んでる”と思い込んでるからそうなっているだけのことです。

だから、もし、仮に、100パーセント、自我の底からそう思い込むことができるならば、僕らはいますぐにアルゼンチンでも金星でも冥王星でも行けるし、未来都市メトロポリスにも無敵要塞ザイガスにも行ける。

思いの力っていうのはそのぐらい偉大なわけです。

こういう話をするとね、『なにお前、スピってんの?』って思う方もいるかもしれないですけどね、僕はスピリチュアルではありません。ソウルフルです。

そしてこれはれっきとした科学、量子力学の話です。

まぁ最近はスピリチュアル界隈にこのへんが誤用/妄用されてるんで、仕方ないっちゃあないんですけどね。

『インターステラー』とか『メッセージ』とか、昨今のマーヴェル作品なんかがとりあげたことによって、量子力学はかなりポピュラリティを得た学問になりましたけど、その行き着いた先がスピリチュアル界隈での誤用っつうのはね、なんとも物悲しいものでありますなぁ。

ま、とにかくね、思いの力というのはすごいんですよ。

で、エネルギーっていうのは振り子みたいなもんですから、どちらかに大きく振れたならば、反対方向にも同じだけ大きく振れる。

今回、僕はこれだけマイナスの方向にまっすぐ思い込めたんですから、プラスの方向にまっすぐ思い込めれば、きっと、なんだってできるようになるはずなんです。

そしたらそのときは僕、死んだ友達と父親を生き返らせて、それからスーパーサイヤ人になって、地球を救うことにします。


長くなりましたが、これが僕の、ワクチン0回目の副反応レポートであります。

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