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山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第117回 フェンダー・ローズ特集


みなさん、『フェンダー・ローズ』という楽器をご存知ですかな?

エレクトリック・ピアノの元祖にして名器と呼ばれるブツでありまして、もともとは第二次世界大戦で空軍として従事していたハロルド・ローズさんが前線の兵士たちの傷ついた心を癒すために、つまり音楽療法の一環として制作したものです。

戦時下で資材も限られている中、持ち運びが簡易であるという条件をクリアするべく、ハロルド・ローズさんが航空機のパーツを使って(!)組み立てられたこのピアノは、戦後さらに改良を重ねられ、1959年にフェンダー社との提携によって『フェンダー・ローズ』として生産・販売がなされるようになりました。

で、独特の揺らぎと伸びと柔らかさを持ったこの楽器はさまざまなシーンで活用されることになります。

特に60年代から80年代前半にかけて、フェンダー・ローズが活躍した楽曲というのは枚挙に遑がなく、このあまく危険な香りを放つ楽器は音楽史をメロウにディープにセクシャルに彩りました。

というワケで山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第117回は“フェンダー・ローズ特集”と題して、不肖ワタクシが完全なる独断と偏見でチョイスした、フェンダー・ローズ大暴れの名曲を紹介していきたいと思います。



一曲めは、ロブ・フランケンで『アブソーベッド・ラヴ』。

えー、いきなりモロすぎるぐらいモロで恐縮なんですが、オランダ人ジャズ・ピアニスト、ロブ・フランケンさんの登場です。

このアルバムは、“フェンダー・ローズに愛された男”との異名を持つロブ・フランケンさんの、とりわけフェンダー・ローズをメタメタ弾きまくってる楽曲をコンパイルした編集盤でして、タイトルはズバリ『フェンダー・ローズ』

そのまんまじゃん! 

あまりにそのまんますぎて逆に思いつかねえ!!

とまれ、こと『フェンダー・ローズという楽器を聴く』ことにかけてコイツの右に出る盤はありません。

フェンダー・ローズてんこ盛り、

フェンダー・ローズ大暴れ、

フェンダー・ローズ大車輪、

フェンダー・ローズ矢継ぎ早、

『もうええて!』っていうぐらいフェンダー・ローズの音色が堪能できます。

フェンダー・ローズのファンは必聴です。




二曲めはローランド・ヘインズで『セカンド・ウェイヴ』。


ジャケくそかっけー。

とろけた黒人が真顔でピース・サインをキメていやがる。

ジャケの時点で既に満点ですな。

このご時世にあってそのキャリアはおろか、出生地や生年月日すら判らない謎のジャズ・ピアニスト、ローランド・ヘインズさんが1975年にリリースした唯一のアルバムです。

これはかなり変わったアルバムですね。

なんせ編成がベースとドラム、そしてフェンダー・ローズが二台っすからね。謎です。謎カルテットです。

ほいでこのアルバム、格好良いです。

とにかくやたら切れ味の良い超ファンキーなリズム隊に、スペーシーかつグルーヴィーなエレピが絡みまくる。

絡みまくりまくる。

マジスリリング。

めちゃめちゃイケてる。

ワナ・クール、ウィー・アー。

アルバムに収められた楽曲は全てローランド・ヘインズさんによるもので、キャッチーながらもスピリチュアル、それでいてブラジリアン・ジャズを思わせる涼やかさもあり、とても聴きやすいです。

これもフェンダー・ローズのファンはマストで聴くベシな一枚であります。



三曲めは、サン・ラーで『ランクイディッティー』。

サン・ラーであります。

まあ大変な奇人ですよね。

荒廃した地球文明を音楽の力で救うべく土星からやって来た(と本気で信じていた)というのは言うに及ばず、一時期大学の講師をしていて半分が座学で半分がライヴだったとか、爆笑問題の田中さんよろしく睾丸が一個しかなかったとか、ホワイト・ハウスを指差して『なんでブラック・ハウスが無いんだ?』って言ったとか、サン・ラーがシンセ弾いてる周りをジョン・ケージが自転車でグルグル回るだけの共演盤があるとか、もう掃いて捨てるほど面白いエピソードが満載の方なワケですが、そうした奇人の音楽家の作品と向き合うときに注意しなくてはならないのは、闇雲に評価したり、こじつけたりしないというコトです。

見た目とキャラクターがあんまりにも凄すぎるんで、『音楽史的にも音楽構造的にも非常に斬新かつ先鋭な唯一無二の存在』だとかつい言ってしまいがちなんですけれども、その実サン・ラーは斬新かつ先鋭なコトは別段やっていません(あくまで音楽において、ですが)。

そもそもサン・ラーはデューク・エリントンの熱狂的信者ですからね。

我々は、『単なる狂ったオヤジじゃない』と言いたいがために、サン・ラーのその功績を“盛る”ことは避けねばならない。

で、このアルバム、『ランクイディッティー』は、サン・ラーの数多の作品の中でもっともファンキーかつソウルフルな逸品として名高いブツでありまして、DJ人気も高い盤。

スピリチュアルでスペーシーでサイケデリックで、そして何より“普通に良い”このアルバムのタイトルは『やる気ない』、『ダラダラした』、『迫力に欠ける』的な意味です。

各種シンセやムーグと絡み合うフェンダー・ローズの音色が何ともアヤシイ名盤。



四曲めは、ティモシー・マクニーリーで『イージー・イージー・イージー』。

70年代に数枚のシングルを残したテキサス出身のミュージシャン、ティモシー・マクニーリーです。

まぁ大変なメロウネスですよね。

沁みるギター、煤けたベース、乾いたドラムに乗っかるフェンダー・ローズの甘く、優しく、切ない調べ。

きわめてオーソドックスな楽曲構成ですけれども、こういうソウル・バラッドが一番泣けるのよね。結局ね。

ちなみにティモシー・マクニーリーの超激レアなシングル群と未発表曲を収録した編集盤が2017年にリリースされており、当時、好事家の中で結構な話題になりました(奇しくもティモシー・マクニアリーが亡くなる僅か11日前にリリースされています)。

アル・グリーンのカヴァーあり、マーヴィン・ゲイのカヴァーあり、JBスタイルのファンク・ナンバーあり、泣ける歌ものメロウありと、非常に素晴らしい内容のレコードですので、是非こちらもチェックしてみてください。



ハイ、というワケでいかがでしたでしょうか、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第117回 フェンダー・ローズ特集、そろそろお別れのお時間となりました。

次回もよろしくお願いします。

お相手は山塚りきまるでした。


愛してるぜベイべーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!









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