もっぱらバレンシアファンである。

　バレンシアに到着して荷物を置くやいなや、すぐ近くにあるメスタージャスタジアムでバレンシア対レアル・マドリードの試合を観戦することになった。

　マドリーを2−1で下したバレンシアは、その次のラージョ戦を落としたもののその後も4連勝し、ELもベスト4まで進出している。

　僕が所属しているアカデミーが年間パスを持っているおかげで、ホームの試合は全試合観戦することができる。中盤のパレホと前線のロドリゴが秀逸で、いつも何か起きるのではないかと楽しませてくれるのだ。ついこないだの負けてしまったアーセナル戦だってそうだ。

　それ以外にも、こちらに来てからはとにかくサッカーを観る機会が増えた。CLはライブ放送で見られる時間にあるし、いつでもどこでもみんなサッカーを観ていて結果も気にしている。

　週末にはネットで必死に調べて、テルセーラ（4部）やセグンダ・B（3部）の試合にも足を運んでいる。やっぱりサッカーは今その場で起きているものであり、このライブ感に替えられるものはない。

　金曜日の夜の練習が終わって、食堂で夕食を取りながら試合の予定をチェックしていると、面白そうな試合を見つけたので近くに座っていた奴も誘おうと声をかける。

　「ルドラ」と何度声をかけてもこっちを向かないのでどうしたものかと思ったら、他の奴が笑いながら「そいつはアクラムだよ」って教えてくれた。アクラムもどうしたんだって笑いながら答えてくれた。

　初日の試合観戦の時にチケットを渡してくれたのはルドラだった。初めて挨拶したのがルドラで、彼は気のいい奴だった。それから1週間当初は、僕にとっては誰もがルドラだった（今ではルドラもアクラムもチョー仲良し!!）。

　アクラムは南アフリカの出身でこっちに来てからは半年ほど、だがスペイン語はペラペラだ。ルドラに関してはそれ以外にも5ヶ国語ほど話せると言っていた。

　みんな話せるなんて当たり前な顔している。もちろんスペイン人はそんなことも気にせず、英語もろくに話さないし、日本人の僕に向かってお構いなしにスペイン語をべらべらとまくしたててくる。

　しかし、サッカーになれば関係なし。

　ピッチの上では何言っててもいいからとりあえず声に出すし、結局はプレーで認めさせるしかない。

　足元に自信があってテクニックで負けることはないよなどと思っているハポネス（日本人）くんがいたら、スペインに来る前に教えておきたい。そんなものは何にもならない。僕たちはサッカーをしているからだ。

　このピッチの上で求められるものは、兎にも角にも戦える奴。そうじゃなければ、テクニックだって見てももらえない。もちろん、差を見せるのはそれからだ。日本人も得意だろ。

　球際は絶対に負けないし、ファウルでも止めるしかない。汚い言葉も吐くし、熱くなればファイトもする。それでもプレーだ。プレーで魅せるしかない。

　つい先日の練習の時に、僕と相手の2人がヒートアップした。僕も球際で負ける気はない。もちろん相手はファウルでも止めてきた。ボールを蹴り出した後は罵られ、胸ぐらを掴まれ、僕も目を逸らさない。チームメイトが止めに入って、練習が終われば笑い事になるが。

　他にも練習試合の時に中国人だの日本人だの、差別もたくさん受ける。こういったやり取りは日本に比べても断然多い気がする。これに関して、日本は甘いだの、いやいやフェアプレー精神は忘れちゃいけないだのといった議論は他に任せたい。

　とにかく僕はサッカーが好きだ。

　その心に綺麗なものはない。

　目の前の奴に嫌われ、厭われてもサッカーがしたい。

　朝には4時に起き、夜も明ける前からピッチに向かう。寒い冬も、眠い目をこすって、筋肉痛で強ばった身体を無理矢理に動かしてでもサッカーがしたい。そして、それがそう簡単でないことも知っている。

　たとえクラブや監督、もしくは誰かに認められることもなく、与えられる試合が自分の役に見合っていないと感じるような時でも、できることならサッカーをしたい。

　その日暮らしのお金を稼ぐことができなくてもサッカーのある毎日が欲しい。

　地に頭を垂れても。謝ってでも。

　親に迷惑だと言われ、心を許した友から見放されても。サッカーがしたい。

　サッカーを持ってして大それた夢を語るつもりはない。そこに大義があるとか、僕が誰かの役に立てるなどといった心得を説くこともない。

　まったく、澱んだ水に、住む魚も見当たらない。

　だが、真実である。

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