バレンシア・ノルド駅はバレンシアの北を意味する古く大きい駅で、今は街の中心に位置している。隣には闘牛場がある。闘牛は今も行われていると聞いて、いつかは見てみたいものだと思った。

　モダニズム建築の様式を取るノルド駅の建物は、歴史を感じさせるとともに、日本にいたときから建築に興味があった僕にはとてもそそられる装いだ。

　ここ2,3日のひどい雨（せっかくの週末の休みだというのにどこにも行けないじゃないか！）も一時止み、近郊からの客人を迎える。バルセロナから5時間かけてやって来たのは、僕がお世話になっている日本人のエージェントだ。

　駅からすぐの交差点にあるカフェに入り、この週末はこの天気でどこにも行けなかったといったことから報告を始める。それから、スペインのサッカーリーグの概要、スケジュールについても詳しく話を聞いた。

　皆さんご存知、ラ・リーガはバルサやマドリーなどのプリメーラと呼ばれる1部に20チーム、その下のセグンダ（2部）に22チームのクラブがいる。その更に下には、セグンダ・Bと呼ばれる3部があり、全国を4地域に分けたリーグにそれぞれ20チームの、計80チームのクラブが存在する。

　ここまでがプロと呼ばれる。多少の異論はあるが。そして、もちろん僕が目指しているのはここである。

　そして、その下のテルセーラ（4部）からは地域リーグになる（正式にはセグンダ・Bも地域のサッカー協会による統括）。スペインの自治州17とアンダルシアを2つに分けた全18のリーグにそれぞれ20チームが所属する。つまり、全部で360チームである。

　バレンシアの場合には、テルセーラの下にプリファレンテ（5部）と続き、他の地域にも同様に5,6部とアマチュアリーグは存在する。とにかく、この国を地図で見れば、その隅から隅まで、どの町もサッカークラブで埋め尽くされているわけだ。

　4月の第2週、semana santaに行われるイースター復活祭によって今週はどの地域もお休み。この休みが終わって、おそらく次の週から僕はバレンシアのテルセーラに所属するクラブに練習参加する予定だ。

　テルセーラはここに来た最初の週の日曜に試合を観に行ったことがあった。地域リーグの何でもない試合に300〜500人は観客が入っていただろうか。れっきとしたスタジアムにバルに、フットボールである。

　これが日本ではJ2レベルだとか言われるのはあまり意味がないと思った。全く違うゲームであるかのようにサッカーが行われていたし、ある部分での質を問えば日本のほうが上回っているとも思ったし、大局観や戦略などやはりこのままでは勝てないなと思うような場面も感じた。そして、何よりこんな週末があるのならプレーヤーもサポーターもみんな幸せな人生だよなと一緒になって笑ってしまった。

　ノルド駅のカフェに戻ってくると、話は今テルセーラのプレーオフ、つまりどうやったらテルセーラのクラブがセグンダ・Bに昇格できるかということについてだった。

　テルセーラからセグンダ・Bに昇格できるクラブは18。

　先程も言ったように、テルセーラには18のリーグがある。まず、プレーオフへの出場権を獲得するためには、1年間通して行われるリーグ戦で4位以内に入らないといけない。

　そして、まずは1位の18チームから抽選で組み合わせが発表され、ホーム&アウェイで勝利した9チームが昇格となる。その後に、敗者の9チームと残りの2,3,4位全てを合わせた63チームでプレーオフが行われる。

　プレーオフの組み合わせについては更に複雑になるのだが、プレーオフでもホーム&アウェイ方式で試合が行われ、最終的に9チームが昇格となる。

　しかも、これは全国である。

　5月末にリーグが終了した後に、6,7月にかけてこのプレーオフが行われる。もはや、彼らにとってはUCLのようなものである。それだけ、テルセーラとセグンダ・Bの壁は大きい。

　このプレーオフを経験している日本人は相当珍しく、昇格までとなるとおそらく現時点では誰1人として、いない。移動と試合のタイトなスケジュールの中で、切れない緊張感、休養にも念を怠らない、遠くのスタジアムにもきっと足を運んでくれるサポーター、それとも地元に帰ってくれば声をかけてくれるカフェのおじさん、月曜日には新聞のスポーツ欄にびっしりと試合結果の一覧が出る。カフェの窓から入ってくる夕時の風に背筋を伸ばす。

　バレンシアの日本人たちは、お互いにニヤリと顔に笑みを浮かべ、con lecheで摂りすぎたカフェインをトイレに流してから店を後にした。

　やるべきことがやるべきことになると、あとは時間もそれに係る苦労も関係ない。

　大事なのは、次に続くそのことを忘れずに淡々と事を進めるだけである。

　「1セントの節約は、1セントの得！」

No es seguro. :　多分ね。、確かじゃないけど。

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