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小説「キネマの神様」(原田マハ作)の感想

このお話は、大手再開発企業に課長として勤める主人公、丸山歩(まるやま あゆみ)が、40歳手前で会社を辞め、小さな映画雑誌の会社に転職し、新たな挑戦をするお話です。

原田マハさんの作風について

原田マハさんの作品はいくつか拝読していますが、新しいことへ挑戦する主人公がよく出てきます。そして、その主人公は、年齢、性別関係なく、いつも初々しく描かれており、初恋のような甘酸っぱい恋もそれとなく入れ込んでいるという流れがあります。

主人公の挑戦することは、どの作品でも高度な職種で、専門知識が必要なため、相当な切れ者でないとやっていけない事ばかりです。

私はいつも、「こんな仕事、私には到底無理だな」と感じてしまうのですが、その仕事を主人公は、初々しく、希望に胸躍らせて、嬉々としてやっていきます。

その姿を活字で追っていく内に、自分もあたかも難しい挑戦をしているような気分になり、「私今、人生を楽しんでいるのよ」という気分にさせられます。

こうして、原田マハさんの作風を文字に起こしてみると、まるで、朝ドラのヒロインのことを説明しているようだと感じました。
原田マハさん脚本の連続テレビ小説が始まったら、欠かさず観てしまいそうです。

映画好きな人々が続々登場

本作の話に戻りますが、本作は映画好きな人々の話となっています。主人公は、そもそも再開発企業で「開発地区に映画館を中心とした文化施設を作る」というたった一つのアイデアを貫いた結果、昇進したというほどの映画愛溢れる人物です。

そして主人公の父親、丸山郷直(まるやま さとなお)、通称ゴウちゃんは、そろそろ80歳のなろうとするご高齢ですが、無類の映画好きで、新作をシネコンで観に行ったり、過去の名作を馴染みの名画座で見に行ったりしては、人知れず熱の入った感想をノートに書き連ねるような人物です。

さらに、主人公が再開発企業に居た頃の部下、柳沢清音(やなぎさわ きよね)も、漏れなく映画好き。清音は仕事の一環で、試写会を度々観に行く機会があるのですが、清音が「これはかなりいいですよ」と言った作品は大抵面白く、公開後も当たるとのこと。

主人公は、父親と清音の両方が「面白い」と言う作品だけ観に行くようにしていたというほど、父親と清音の映画に対する感性は、主人公に厚い信頼を置かれています。

自分と重ねて見ると...

私はここまで熱狂的な映画好きではありませんが、人並みに映画は観ている方だと思います。そして、心に残る映画に関しては、ゴウちゃん同様、人知れず感想をノートパソコンに書いて、保存したり、気が向けばnoteへ投稿しています。

また、私も信頼を置いているとある映画ブロガーがいるので、主人公同様、そのブロガーが80点以上付けた映画は、確実に観る価値があると踏んで、満を持して観るようにしているのですが、身近に2人も信頼の置ける映画好きがいる主人公の環境にはなかなか出会えないので、羨ましく感じました。

ゴウちゃんともう一人の評論家

作中では、ゴウちゃんの純粋な映画に対する感想文が度々登場します。私もこっそり感想文を書いている身として、ゴウちゃんの文章には、おこがましくも、やっぱり敵わないなと思わせるような文章ばかりでした。

もちろん、原田マハさんの文章に敵うわけないのですが、少しライバル心をくすぐられるほど、ゴウちゃんの文章は親近感のある、面白い文章でした。

ひょんなことから、ゴウちゃんの感想文は、世の中に知られるようになるのですが、そこからさらに、ゴウちゃんに相対する映画評論をかましてくる人物が現れます。

その人物の評論は、とても知的で、少し斜め読みをする感じがまた面白く、ゴウちゃんの書く文章とのコントラストがハッキリとしていて、物語の中の人たち同様、私もこの2人のやり取りを楽しく見守る一人となっていました。

本作の書き方として、映画の評論を書く人物がいて、さらにその評論を読む第三者が作中にいて、さらにその第三者の気持ちも活字になったものを、作品の外の私たち読者が読むという、書き手、読み手が二重、三重にも重なった世界を読むのは面白く、少し不思議な気持ちになりました。

終わりに

この本には、沢山の実在の映画が出てきます。このため、映画の良さを改めて感じたことはもちろんなのですが、人々の胸を打つような感想文、評論を書くことの楽しさや、書いた人の人となりが文章に反映される面白さを知ることが出来て、「書くっていいな」という感情が素直に生まれました。

最後まで、全体を初々しさや爽快感が包む原田マハさんの作品。
映画好きな人、文章を書くことが好きな人、心機一転、新しい環境に身を置いた人や置きたい人には、とてもすんなり入る、楽しいお話ではないかと思いました。

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2000字弱の文章をnoteに初めて載せてみました。長文、乱文失礼しました。

最後まで読んでくださった方がいらっしゃいましたら、感謝感激です。
ありがとうございました。

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