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ジャンル分けの難しい7枚の音楽アルバム

レアで奇妙な魅力のアルバム

以前、音楽に関する記事を書くために、自分の所持しているCD盤(250枚以上)とLP盤(21枚)をすべて目で確認する作業をしました。すると、どの音楽ジャンルに入れるべきか定かでないアルバムがあることに気づきました。

不思議で奇妙な音楽、世間一般ではほとんど知られていない音楽、でも私にとっては、すっかり忘れていた埋蔵金を久しぶりに掘り出したような、そんなレアな魅力のアルバムだったのです。

1993年までに制作されたアルバムより、年度の古い順に挙げます;

ヴォーカリズム A・I 
武満徹 1956年

音楽の傾向:
谷川俊太郎
の最も短い詩「愛」、「a」と「i」の音を俳優に発声させた音素材を電気的に変形加工して磁気テープに重ねた音楽らしく、演奏時間はわずか4分弱です。制作年度は戦後わずか10年ほど、ミュージック・コンクレート(=具体音楽)と称されていた実験音楽の一種だったとのことです。


感想:戦後のサウンド・コラージュ第1号
1980年頃に初めて聞き、それまで聞いたことのなかった「実験音楽」に、鮮烈な驚きと感情の深い揺らぎを感じました;つまり、とんでもなく感動したのです!
これは、一種の「サウンド・コラージュ」のような手法なのでしょうが、1980年代に注目され始める「シンセサイザー・ミュージック」のアナログによる先駆けであり、高い完成度の作品と思います。音に対する武満氏独自の感性や、音を重ねて編集する才能は、初期の作品にすでに表れています。

余談1:
武満徹の音楽といえば、私にとっては、世界的に有名な現代音楽ではなく、担当した映画音楽のほうであり、このヴォーカリズムA・I なのです。もし、武満氏がシンセサイザーを駆使して作曲していたらどんなにすごいものを創るだろうかと思ったのですが、彼自身はシンセを使う気持ちにはならなかった、と何かの記事で知りました。

以下の youtube にてこの作品を聴くことができます;

https://www.youtube.com/watch?v=gJLqycC2tVE 約4分10秒


パーセル最後の曲集
高橋悠治 1974年

音楽の傾向:
バロック音楽家ヘンリー・パーセルの曲なのでしょうか、ピアノ、チェンバロなどの鍵盤楽器で基調旋律が断続的に演奏される中、ピアノの響板や弦を弾いたり叩いたり、何か電子音や打楽器音、自然音などが重ねられ、しかも英語の詩が女性によって読まれる、35分ほどの4部構成の音楽です。

感想:私の創作の源泉である音
高橋悠治氏は、日本の現代音楽という、あまり一般受けしないジャンルにて著名なピアニストであり作曲家です。70年~80年代にかけて、武満徹や小澤征爾と並んでクラシックや現代音楽好きの若い世代にはスター的存在だったようで、CDショップには彼のコーナーがちゃんとありました。

彼の2006年限定発売の紙製パッケージCDを4枚持っていますが、今でも時おり聴くのは、このアルバムだけです。今でも聴けば、いろんな想いが浮かんでは消え、私の創作の源泉のひとつになっているのです。

余談2:
初めて聴いたのは二十歳の頃、クラシック好きの旧友の実家でした。それまで聴いたことのないような音に思わず惹き込まれて最後まで聴き通しました。不思議な異空間に入り込んだような音の連なりと響き、最後に聞こえてくる波のせせらぎに人類の大きな時間の流れを感じました。

以下の、youtube でラストだけ聴くことができます;

https://www.youtube.com/watch?v=gwl51pqmS2U 約1分10秒



Death and the Flower
日本語盤「生と死の幻想」 1974年
キース・ジャレット Keith Jarrett

音楽の傾向と感想:ふと聞きたくなる刺激的な音
3部構成で40分ほどの演奏時間。ピアノ、ベース、パーカッション、その他の楽器等による即興演奏。ジャズ、フリーミュージック、民族音楽、現代音楽、クラシックなどさまざまな音楽傾向がきわめて自由に散りばめられて、才能ある演奏家たちが緊密にインタープレイを繰り広げていきます。

以下の youtube で試聴できます

第1部 Death and the Flower 約20分
https://www.youtube.com/watch?v=z-Cinq0fPM8


イレイザーヘッド
Eraserhead 1977年

音楽の傾向:
今では、「巨匠」扱いの映画監督デヴィッド・リンチ David Lynch 20代の長編デビュー作品。モノクロの暗く粗い映像の中、狂気と禁断の匂いが立ち込め、悪趣味で生理的な不愉快さも感じる異様な雰囲気の作品です。音楽は、その異様さを盛り上げる効果音として機能しており、旋律や音階などなく、風や鳴き声、機械音のようなノイズ中心です。ただラストの舞台シーンだけは別で、in heaven という救いに満ちた天上的な美しさの歌が流れます。音楽担当はデヴィッド・リンチ他3人での共作です。

感想:私の人生でもう一度聴くことはない音
ある時期から元祖「カルトムービー」扱いです。この作品のあと、デヴィッド・リンチ監督は世界的な話題となるメジャー映画を創り続けます。映画史として全く無視できない重要な監督の一人でしょうが、どれもこれも私には今一つ入り込めない世界観が描かれているように思われ、もう一度見たいと思った映画は一本もありません。

この「イレイザーヘッド」サントラ盤を挙げたのは、私の今後の人生で、もうこれ以上に異様なノイズを求めて聴くことはないと思ったからです・・。

以下の youtube で、ラストシーンを紹介

開始1分ほどして歌 in heaven を聴くことができます 44万回視聴 
600件コメント

https://www.youtube.com/watch?v=awVNCIjQq1A  約3分50秒 


New sense pf Hearing
鈴木昭男 1979年

音楽の傾向:
1980年代に、予備知識ゼロで興味本位に買ったLPで、ブログのために30年ぶりぐらいに棚から引っ張り出しました。今回初めて、この音楽家のことをネットで調べました。

鈴木昭男氏のHPより要約引用します;

1941年生まれ。1963年、名古屋駅でおこなった《階段に物を投げる》以来、自然界を相手に「なげかけ」と「たどり」を繰り返す「自修イベント」により、「聴く」ことを探求。1970年代にはエコー楽器《アナラポス》などの創作楽器を制作し、演奏活動を始める。・・・・以後、世界各地の美術展や音楽祭での展示や演奏を数多く実施なされ、現在もご活躍中である。

感想:この世で初めて耳にした音
おかしな話ですが、現在はLPプレイヤーを持っていないので、このLPアルバムを自分はもう聴くことができません。そこで、ネット検索すると、たちまちいろんなサイトが現れ、youtube にもズバリ、このアルバム・リンクが挙がっていました。

小杉武久という演奏家との即興演奏です。54分と長いので、適当に飛ばして聞いてもかまわないと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=raNONMICorE  

私が当時、この音楽家のLPを聴いて興味を持ったのは、オリジナルの創作楽器「アナラポス」の出す不可思議な響きです。のこぎりのような平らな金属板、金属管や電線のような物体を叩いたり擦ることで生じる、この世で初めて聴くような全く独自の響き、人間の作る旋律や音階ではなく、物自体の発する音が耳に新鮮だったのです。

余談3:
ちなみにヤフオクでこのLP、とんでもない高値がついていました!

以下の鈴木氏のHPを閲覧すると、この創作楽器「アナラポス」の音 sound を4種類、試聴できますので、ぜひ一度お聴きくださいませ。

https://www.akiosuzuki.com/works/sound/


Dolmen Music 1981年
メレディス・モンク Meredith Monk

音楽の傾向:
アルバム最初の曲 Gotham Lullaby ゴッサム・ララバイを聴くと、単調なピアノ音で始まり、やがて、特徴のある歌唱法で女性の声が響いてきます。ちょっと憂愁の漂う夕焼けの子守唄という印象です。

その歌い方、声の出し方が、たとえば、ネイティブ・アメリカン(西部劇に登場するインディアン)が、喉と舌を巧みに使ってさまざまな音や合図を発するような感じです。

ウィキペディアによれば、このアメリカ女性は、パフォーマー、演出家、ヴォーカリスト、映画製作者、振付家として、1960年代から音楽、演劇、舞踏にわたる総合的な作品を送り出してきており、「声」は肉体と密接につながる楽器であり、肉体の表現として創造を行っていると記されています。


感想:原体験のような声
正直、このレコード・アルバムは、ジャケ買いでした・・・。最初の曲以外は、ここ30年以上聴いておりません。レコード針を落として初めて聞こえてきたあの「声」が、強く心に響く体験として残り続けたのでしょう。

お聞きになりたい方は、以下 youtube で 46,000視聴 

https://www.youtube.com/watch?v=jkvH19r717Y  4分12秒 


次で、最後のアルバムです

 
イエスの血は決して私を見捨てたことはない
Jesus' Blood Never Failed Me Yet 1993年

音楽の傾向:
イギリスの現代音楽作曲家ギャビン・ブライヤーズ Gavin Bryars の作品。もともと、事故当時の再現として水中音などを盛り込んだ独創的な音楽「タイタニック号の沈没」で有名になった人です。

この「イエスの血は・・」のオリジナル作品は1971年です。たまたま、ロンドン市街でホームレスの老人がある宗教歌を口ずさんでいるのを収録し、後にその音源にいくつかの楽器によるオーケストラ演奏を重ねて創り上げています。
ただ、私が持っているCDは1993年の再録音盤で、シンガーソングライター :トム・ウェイツ Tom Waits の、あの独特の太くしゃがれた濁声がかぶさってきてフィナーレとなり、厳かに幕を閉じます。

感想:聖と俗、祈りと麻薬、・・
老人の歌声が、無限ループのように繰り返し再生され、その弱々しくもひたむきな祈りのような声に、いつのまにか、深い人生の味わいのようなものを感じ始めて、この音楽から抜け出せなくなっていきます。曲の規模が徐々に大きくなり、最後の方では、トムの唸るような歌声も交じって、荘厳な宗教曲のような神聖さも漂ってきます。
ちょっと、これは、麻薬のような危ない作用があるのではと警戒したくなるくらい、心をグッとつかまれてしまいます。

以下の youtube : 公式プロモのような映像でラストを視聴できます
途中、2分50秒あたりからTom Waitsが重なります 13万回視聴

https://www.youtube.com/watch?v=nbczBcz78vo  約4分30秒 CM skip 

余談4:
NHKで「駅ピアノ」という番組があります。ロンドン編で、老人男性がドン・モーエンという歌手の「ギブ サンクス」という宗教的な曲をピアノを弾きながら歌うのですが、とても心に沁みる感動がありました。
ネットでも多くの人たちが称賛コメントを寄せています。80歳を過ぎた男性の、ひたむきで、枯れてつぶやくような歌声に、何とも言えない人生の老いと哀しみと幸せが滲み出ているようで・・・「イエスの血は・・」と同じ感動があります。

NHK「駅ピアノ」