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再出発



夏休みに私はパートナーと南の島へ旅行に行った。

最近分かったことなのだが、私は心が病気になりかけているようだ。
予兆は2年ほど前、歯医者での治療中、急に息が苦しくなって、動悸がして
居ても立っても居られない、そんな状態になった。
いわゆるパニック発作だった。

それからの間に何度か、いろいろな場面でパニックになることがあった。
ネットで自分の症状を検索して、なんとなくそうなのかも。と思いながらも
やりすごしてきた。

私は昨年パートナーと結婚をした。
結婚した当初は、新婚旅行にはアメリカに行くつもりだった。
そんな長時間ずっと同じ場所にいたら飽きちゃうよ、何して時間をつぶそうかな。なんて笑っていたけれど、今は状況が違う。
飛行機に乗るために、私はいくつもの覚悟と準備が必要な状態になっていた。
飛行機に乗る、扉がしまって、もう自分が降りたくても降りることができなくなる。そう考えただけで冷汗が出て、気分が悪くなり恐怖で落ち着かない、そんな状況になってしまった。
「アメリカに行くのは無理だと思う。」とパートナーに伝えて
それから新婚旅行の話はずっと蓋をしてしまいこんだままだった。

蝉が鳴き始めてそろそろ夏休みが始まろうというある日、パートナーが
言った。「旅行に行こうよ、どこに行きたい?」「せっかく連休がとれるから遠出もいいよね」と。
私は少し考えてから答えた。行きたい場所があったのだ。

そこに行くためには、飛行機に乗る必要がある。
2時間30分のフライト。
実は7年前にも訪れた場所。
もう一度行きたいとずっと思い続けていた場所だった。
今の私にとって飛行機に乗るということは大挑戦だった。
でも、彼とその場所で一緒に過ごしたいという強い気持ちがあった。

7年前の私は気楽に生きていた。
過去にお付き合いしていたパートナーと一緒に飛行機に乗った。
カメラを向けられればすましてポーズを取る、世界はなんて楽しいんだと
毎日心を躍らせて楽しく生きていたように思う。
不安や恐怖もそこまでなかった。
でも、7年後の私は、大人になり多少賢くなって、恐怖にあまりにも敏感になっていた。

私は行動することにした。
何に対して怖いと思うのか、どんな状況なら怖いと思わないのか。
洗いだして、整理した。情緒が不安定になり、涙を流したり無気力になってなにもやるきの起きない日がではじめた。
思いつくことをやっても自信が持てず何度も諦めようとした。
人生で初めてのメンタルクリニックを受診した。

呼吸法を教えてもらい、毎日秒針を見ながら呼吸法を練習し薬を飲んだ。
フライトの前日には、空港に行って離着陸をしばらく眺めてイメージトレーニングをした。怖くて涙がでそうだった。
当日の朝を迎えると緊張と少しの寝不足から体調は不良で、
トイレにこもって「やっぱり飛行機には乗れない。」と彼に言おうとまで
考えたりした。「私がキャンセル料を全部払うからやめさせてほしい」(費用は二人で40万円)とも言おうとした。

でも、ここで飛行機に乗らなかったらこの先一生飛行機に乗ることはないだろうと、腹を決めた。

そうやって心の中に大きすぎる不安を抱えながら私は飛行機に乗った。
そしてずっと行きたかった場所に自分の足で立つことができた。

今までの自分だったらしないことに挑戦したいと思い、いろいろなことに挑戦した。
ドキドキしたり、体がしんどかったりしたけれど、その場所で彼と一緒に過ごした時間は、私にとって文字通り「かけがえのない時間」になった。
海の中を泳いでウミガメを探し、遠くから泳いでくるウミガメを見つけ、一緒に泳いだ時の気持ち。
カヤックで自分たちの力で大海原を横断した時の気持ち。
海の中の洞窟に入って、死の恐怖と隣り合わせで泳いだ時の気持ち。
太陽の陽を全身に浴びながら濡れた髪を結んで海を眺めた時の気持ち。
一瞬一瞬が私にとって意味のある時間になった。

今は、これから先自分がどうなっていくのかわからないという不安に、時折
気持ちが落ち込んでしまうことがある。
でも、勇気を出して行動し、決断してやり遂げようと努力した自分を
大いに称えて自信を持ち、これから先も自分と向き合っていこうと思った。

南の島は私に大きな力をくれた。
またウミガメと泳げる日を心待ちにして。

再出発

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