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記録と記憶〜77年経ったいま〜

◎NHK スペシャル「ビルマ絶望の戦場」の概要

本番組では、8月15日にふさわしい内容が放送されていた。アジア・太平洋戦争中に、日本は「大東亜共栄圏」の建設を目的として、東アジア・東南アジア諸国へ進出・支配を進めていった。この中で、日英の狭間にいたのがビルマであり、ビルマにおける日英の戦いについて、当事者の声と当時の記録をもとに伝えられている。

番組の概要



◎番組を見て

当時のビルマ戦の経験者やそのご家族の証言が様々な場面で散りばめられていた。現地で犠牲になられた方、また、現地で罪なきビルマ人を殺害した経験を持つ方は、皮肉なことに誰一人、無謀な戦争を望んでいなかった。無実の人の殺害を望んでいなかった。大切な仲間と、愛する家族と、幸せな普通の日常を共にすることを望んでいた。言わずもがな、このドキュメンタリーを見て初めて知ったような内容ではない。しかし、ドキュメンタリーの中で度々取り上げられる、当時の兵士が戦場で綴った言葉や元兵士が回顧禄のような形で書き留めた言葉に滲み出る無念さややり場のない怒り、またそれらの言葉で伝えられた戦場での壮絶な経験や思いからでしか、伝わらない本当の戦争の怖さ... もちろん、当事者の言葉に触れたからといって、全てが分かるはずもない。私たちは当事者の記録された言葉に触れることで、雀の涙に満たないくらいの共感をする。そして、残酷な戦争を二度と起こさないために、しっかりと記憶に刻む。戦争体験を語り継ぐことの意味は、ここにあると思う。

本番組でご自身の経験を証言してくださった方のご年齢は、90代半ばであった。貴重なお話を聞けるのは、あと何年だろうか。二度と残酷な戦争を起こさないために、戦争を経験された方の思いや実体験を記録し後世に伝え続けていくことは、戦争体験を直接伺うことが出来た最後の世代としての、重大な責務ではないだろうか。

残念ながら、壮絶な戦争は過去の話ではない。今回のドキュメンタリーの舞台となったミャンマー(旧ビルマ)では、2021年2月に勃発した軍事クーデターを機に、1年半が経った今でも、軍への抵抗活動を続ける市民は絶えず、軍との衝突で多くの血が流れ続けている。軍に拘束をされ、人生の貴重な時間を奪われている人たちや拷問を受けている人たちは、計り知れない。ミャンマーの人権団体「政治犯支援協会(AAPP)」によると、2021年2月1日のクーデターから2022年3月までに、軍は1万4500人以上を逮捕し、2000人以上を殺害している。本番組の中で、アジア・太平洋戦争中に抗日運動に参加した旧ビルマ兵の方がおっしゃった言葉に、当時と現在の軍の決定的な違いを端的に表したものがあった。
「当時は独立のために闘った。今の軍は、権力のためだけに戦っている。」

2020年9月
ミャンマーでボランティアに行った際に、
スラムの子供たちとミャンマーの未来をテーマに描いた絵

また、半年前に始まったプーチン戦争では、悲劇の終わりが全く見えない。両国の死者数は諸説あるが、いずれにせよ何万もの尊き命が無情にも残酷に奪われている。またUNHCRによると、7月19日現在でEU加盟国で記録されているウクライナ難民は376万人に上る。

個人的にロシア語を学習しておりロシアの友達が多いため、ロシア語で現地のニュースに触れたり、現地の声を聞く機会が少なくない。自由で公平な言論を目指す独立系メディアでは、ウクライナの方の声を届けることはもちろん多いが、それだけではない。戦場に送られたロシア兵やそのご家族の本音、当局による言論弾圧や侵攻に対する経済制裁で苦しむ人々の様子、ウクライナにご親戚や愛する人・友人がいらっしゃるロシアの方の思い、そして愛する母国が犯している罪の深さに苦しみロシア国民であることを恥じて、ウクライナ国民に謝罪の意とやりきれない悔しさを胸に生きている人々の思いがよく取り上げられている。

2022年3月3日
新トレチャコフ美術館にて(モスクワ)

誰のための戦争なのだろう。

今も昔も、平和を望む人たちが、NOと言えない立場の人が戦地に送られる。ただ愛する人と愛する土地で平穏な時間を過ごすことを望む人たちが、帰らぬ人となる。

戦争は、誰を幸せにするのだろう。

20世紀の2つの大戦の反戦を踏まえ、平和な世界を目指す21世紀に起きてしまってはならないことが起きている。

あれだけの命を失ったのに。あれだけ世界は壊滅状態になったのに、なぜ人は学ばない、、、?ただ希望はある。現代は、当時に比べ、圧倒的にテクノロジーが発展しており、記録の精度が高まっており、よりリアルな戦争の記録が可能なのは明らかだ。

この先、二度と不当に罪のない人の尊い命が奪われることがないように。

より良い社会のために、より明るい未来のために、しっかり現実と向き合おう。

2022年3月8日
在日本ウクライナ大使館にて
2022年3月8日
在日本ウクライナ大使館にて

参考文献
ミャンマー軍の被拘束者へ残忍な拷問 アムネスティが報告公表し非難 - The Tokyo Post (最終閲覧:2022/08/15)

ウクライナ避難民の多くは当面、現在の受け入れ国にとどまる意向(ポーランド、ウクライナ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース (最終閲覧:2022/08/15)


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