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ポッドキャスト翻訳プロジェクト第9話「ポッドキャストの多言語放送トレンド」

こんにちは。アライ@翻訳です。

これは、読んでもらうために書いている文章ではなく、聴いてもらうための文章です。音声版を同時配信していますので、そちらを是非お聴きください。リンクはこちら

今回は、ポッドキャスト翻訳プロジェクトに関連したお話です。

今まで2回に渡って取り上げてきたAmazonのポッドキャスト制作会社Wonderyの買収に関するトピックなんですが、今回はこの会社も実施するポッドキャストの多言語放送トレンドについて、いくつかの記事をもとに深堀をしていきたいと思います。

1.Wonderyのローカライズ戦略

実は前回紹介したWonderyが配信する人気番組、既に多言語放送が2019年から開始されていたんです。
番組名は「Dr.Death」。2018年9月に英語版がリリースされて人気番組となったんですが、それから約1年弱たった2019年8月には7ヶ国語に翻訳、吹き替えされて配信されました。
その7か国語とは、中性スペイン語、カタルーニャ語(俗に言うスペイン語)、ドイツ語、フランス語、中国語、ポルトガル語、そして韓国語。

またWonderyは翻訳吹替した多言語コンテンツ制作だけに留まらず、いろんな面からのローカライゼーションも同時にしています。

まずは配信プラットフォーム。AppleやSpotifyといった世界的プレイヤーだけでなく、例えば中国ならXimalaya(ヒマラヤ)のように、配信された言語が話される国で強みを持つプラットフォームとも手を組んで配信しています。
更に音声広告についても同様に、各国の広告会社と契約を結ぶという周到っぷり。コンテンツ、配信プラットフォーム、広告と三本仕立てなローカライズ戦略です。

また、現在ではWonderyが配信する他の番組でも一部多言語放送が進んでいるようで、前回紹介した「Business Wars」もその一つ。日本語版は会社ホームページには記載がないものの、ニッポン放送から地上波、ポッドキャストともに配信されました。

2.他社も進める多言語放送

Wondery以外の多言語放送の進み具合はどうなのか?というと。

例えばRTÉ(アイルランド放送協会)から出ているトゥルークライム「The Nobody Zone」という番組は、当初から5か国同時リリースをしています。(英語、デンマーク語、スペイン語、ドイツ語そしてアイルランド語)また、この番組はYouTube版(Audio Cinema Version)もあるなど、多言語に留まらず多様なプラットフォームに配信しているようです。

そして、SpotifyもニュースメディアであるVice Newsと共同で、英語とスペイン語のバイリンガル番組「Chapo」を配信しています。こちらも、ドキュメンタリー調の全8話のシリーズもので、2018年にリリースされています。

一方で、アメリカ大手のネットラジオ会社であるiHeartMediaは、2019年に人気番組を5か国語に翻訳吹替することを発表したものの、現在2021年になってもまだ配信されていない様子。ある記事によると、他のスタートアップ企業と協力して、当初の予定とは違う番組を多言語配信する予定ですすめているとか。

他にも独立系ポッドキャストでは多言語配信をしている所も見られるようですが、選ばれる言語というのは、例えばスペイン語や中国語などのように世界的にその言語話者が多いからというだけではなく、例えば番組の内容が他の国や文化にとって受け入れられるものなのか?ストーリーが沿っているものなのか?といった点も、言語選択の要素になっている様です。

3.日本語版「ビジネスウォーズ」のリリース

今まで、なかなか多言語放送の対象にはなっていなかった日本語ですが、2020年ついに出てきたのが前回紹介した「Business Wars(ビジネスウォーズ)」。

Wonderyが配信する、言わば英語ポッドキャスト版ガイアの夜明け的な番組なんですが、この番組のいろいろあるシーズンの中でも取り上げられたのは「任天堂VSソニー」と、日本マーケットにバッチリあった内容です。2020年2月に英語版がまず配信されて、それから約半年後の2020年9月にニッポン放送からリリースされました。

ここからは、完全に私の個人的な予想で深堀なんですが…

この番組、Wonderyはそもそもの英語版作成当初から日本語リリースを念頭に置いて制作していたんじゃないかと思います。

日本語版リリース1年前には、「Dr.Death」という番組でWonderyは海外へのローカライゼーションの経験を既に積んでいましたし、また翻訳吹替スピードが、当初は1年弱かかっていたものの、今回英語版と日本語版とリリースのタイムラグは約半年。

もちろん、「Dr.Death」の場合は一気に7か国語への吹替という事や、各国の配信プラットフォームや広告会社との契約など、時間もかかっていたでしょうが、既にひな型があるために新たな国、今回の場合は日本への進出も比較的スムーズに進めれるよう、番組のテーマ選定の時点から既に下準備を進めていた、ということは十分あり得るんじゃないかと、勝手に考えています。

4.今後の多言語放送のトレンド

ちなみに、WonderyのCEOであるHernan Lopez(エルナン・ロペス)氏はこうも言っています。

Wondery CEO Hernan Lopez noted that 90% of the world’s smartphone users live outside of the U.S. — but only 22% of Wondery’s audience is currently international. 
世界のスマホ利用者数の90%はアメリカ国外にも関わらず、Wonderyのアメリカ国外視聴者率は全体の22%しかいない(こちらより引用)

この言葉を借りれば、多言語放送に注目が集まっているというのは当然、という市場の見方なのだと思います。そこでよく引き合いに出されるのがNetflix。現在世界190か国で視聴可能なだけでなく、各国独自のコンテンツ制作にも力を入れています。

もちろんポッドキャストの多言語展開との規模感とは差が大きくありますが、こうしてコンテンツをボーダレスに楽しめることが当たり前になりつつある現状で、音声コンテンツだけその流れに沿わない、というのは考えにくいですよね。

現在は、ほぼポッドキャストの聖地アメリカ発信の番組を多言語展開、という流れが主にはなっていますが、以前取り上げたインド国内のポッドキャスト事情のように、ヒンディー語からタミル語だったり、はたまた日本語から英語への多言語放送、というのも出てくると思います。(というか、作ります)

例えばもし私が「Business Wars」を日本発信で新たなシーズンを作るなら…「液晶パネルVSプラズマパネル戦争」ってのをやってみたいですね。
薄型TV市場を席巻した日本の家電ブランド。国内メーカー同士のせめぎ合いから海外マーケットへの進出そして衰退までを、韓国や中国メーカーの台頭も含めてドキュメンタリー調にすると、世界に向けても面白い内容じゃないかなぁ、妄想しています。

5.最後に 悔しい!

最後に、このポッドキャストの多言語放送についての深堀を、なぜ「ポッドキャスト翻訳プロジェクト」として取り上げたかというと、これ、まさに私がやろうとしていたプロジェクトそのまんま、だったからなんです~!

先を越された…と思いつつも、多言語放送のトレンドというのはやはりぐんぐん来ていたんだな、と改めて調べていくうちに確信しました。

実際に、今この世の中に存在する素晴らしいコンテンツをボーダレスに楽しめるだけでなく、今後作られていくコンテンツも、言葉の壁をどんどん低くして配信する、という流れが出来ていくといいな、と常々思っています。

アライ個人が始めたポッドキャスト翻訳プロジェクト。

形を変えつつ、今後も「音声は音声のまま、コンテンツをボーダレスに」楽しめる世界を目指していろんなプロジェクトを進めていきたいと思います。

それでは、次回のnoteで。

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