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「工藤」がいない教室

4月、長女が小学生になった。入学式はひどい雨。
学校までは歩いて二十分ほどかかるので、真新しいランドセルには雨よけのカバーをつけて、親子ともにレインブーツにレインコートと完全装備で向かった。

なんとか学校にたどり着き、隅のほうで濡れた雨具をビニールバッグに押し込んでいると、他のお母さんに話しかけられた。

「じつは、幼稚園が同じだったんですよ」

娘は入園した翌日から休園となった、コロナ禍の影響をまるまる受けた学年。男の子のお母さんだと顔すら合わせる機会がなかった。そのお母さんも、娘を見て気がついたと言う。

「あっちでクラスわかりますよ」

クラス分けの名簿が掲示されていた。

娘の名前を探すのには少し時間がかかった。
というのも、なじみのない名字ばかりがずらりと並んでいたからだった。文字を追うのに少し時間がかかった。


入学式では、児童一人ひとりの名前が呼ばれた。
やはり、耳馴染みのない名字が多い。クラスの6割程度は、一度も出会ったことのない名字だ。

「工藤が一人もいない……」

それが一番の驚きだった。


私は青森で生まれた。
県内でも何度も引っ越しをしているけれど、どの場所でも特に多い名字は「工藤」だったように思う。調べてみると全国規模で見ても多い名字のようだけれど、青森では群を抜いて多いらしい。

「工藤さん」は、クラスに2人以上いることが多かった。
だから、掲示物には誰のものかわかるように「工藤み」とか「工藤ゆ」とか、名前の頭文字が添えられていたのをよく覚えている。

ほかによくある名字としては、「成田」「三浦」「三上」「葛西」「小笠原」「福士」「浅利」など(※以下、敬称略)。

「神(じん)」という名字も割とある気がするし、地名由来なのか「八戸」「一戸」といった名字もある。「八戸」は「はちのへ」さん、「一戸」は「いちのへ」さんだ。

いずれの名字も、娘の学年には一人も見られなかった。


逆に、こちらではどんな名字が多いのだろう? と興味を持った。

学校に限らず、幼稚園のクラスや、店員さんの名札、家々の門柱に取り付けられた表札といったさまざまなシーンでよく見かける名字の人でいうと「大西」「真鍋」「三好」「多田」「小西」「六車」といったものがある。

漢字単位で見てみると「西」が入った名字が多いような気がする。「西村」のように前に「西」がついているものだけではなく、「大西」「香西(こうざい)」「中西」「川西」など、後に「西」がつくものも多い。

難読名字や稀少名字も、はじめて出会う名字ばかり。

北と南。生まれ育ったふるさとと離れた場所で暮らしてみると、日々さまざまな発見がある。
食文化も違えば、植生も違う。それらに気づき、深堀りしていくのも、移住してからの楽しみになっている。

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