見出し画像

疲れたあなたに

前回、ホタルを打ち出した温泉街の物語を投稿しました。モデルにした温泉街は神奈川県湯河原町にあります。

疲れたあなたに、いつか訪れてもらいたい癒しの温泉を…数回に渡ってお届けします。


エッセイ「湯河原温泉」

子どものころ、毎年のように父が連れて行ってくれた温泉街がある。
神奈川県は湯河原(ゆがわら)町。
そこに父の勤め先の保養所があった。

保養所へはいつも父が運転する車で向かった。
国道135号線という小田原から伊豆へつながる道路は海っぺりを走る。
道中、姉がサザンの曲を流してくれ、子どもながらにせつないを感じていた。

途中、通り過ぎる真鶴町は古き良き港町の姿を見せてくれ、旅のテンションをあげてくれる。

その海沿いの道路から千歳川という名の川沿いを走ると保養所に辿り着く。

保養所は昭和に建てられた温泉宿で、
部屋まで仲居さんが夕食を運んでくれ、布団係の方が布団を敷きに来てくれた。
家族がくつろぐ空間に、宿の方が入ってきた時の、空気が変わるあのくすぐったさをきちんと記憶している。

朝食は食堂に集まりみんなで頂いた。鯵の干物やお漬物がきらきらして見えた。

透明の細長いキーホルダーの付いた鍵。
備え付けのお茶菓子とお茶。
ほの暗いロビーで新聞を読むはだけた浴衣姿のおじさんたち。
ゲーム室の賑やかで寂しい機械の音色。
誰もいない廊下のビールの自動販売機。

夕食に出されるリボンオレンジの瓶ジュースなど、小さな記憶の断片はビー玉みたいにカチャカチャと大切な思い出として保管されている。

まったり、のんびり、日ごろの疲れを癒しに来る大人達の横で元気にはしゃいだあの頃。
大人になって訪れても、私に馴染んでくれる湯河原温泉。

訪ねるといつも、「ゆっくりしていきなさい」、と声をかけられている気分にしてくれるこの温泉街が私は好きだ。


湯河原温泉ってどこにあるの?

湯河原町は神奈川県の南西の端っこにある。千歳川という小さな川に掛かった橋をひょいっと渡れば静岡県は熱海市になる。
神奈川県民にとって温泉といえば箱根を思い浮かべる人が多いかもしれない。もしくは、県をまたいで熱海、伊豆等。

湯河原温泉は箱根、熱海の間にある、ちょっと控えめな温泉街だと思う(私の主観)。私はそこが好き。
例えば、戦隊ものの、レッドじゃなくてグリーンやブラックみたいに。
ちょっと端っこの目立たないけど、なぜか惹かれるそんな場所。
※湯河原温泉は万葉集で謳われているほどの古くからの温泉地で、明治・大正の頃より画家や文豪たちに愛される由緒ある温泉地である。

今から10年ほど前に訪れたとき、建物は老朽化し、かつての活気はなくなってしまったのかな?と心配になったこともあった。

そして、今年、久しぶりに宿泊したら、湯河原温泉が生まれ変わっているのかも?と新鮮な気持ちになった。
活気を戻しつつある姿を目にして、勝手に喜んでいる私がいた。


何もしないが似合う街

湯河原温泉は、何もしないが良く似合う。
派手な観光場所はない。
あるとしたら、
滝、公園、神社、町立美術館、浜ぐらい。


温泉に浸かって、散歩するぐらいが丁度良い。何もしないことをしに行く場所。こじんまりのなかに懐かしさ、はかなさ、密会の場所へ来たかのような、そんな気持ちにさせられる街だ。

次回予告

次回は湯河原温泉の見どころをご紹介します。
おすすめの散歩スポットや、文豪夏目漱石とのゆかりについてなどお伝え出来たらと思います。

ゆっくり更新になりそうですが、どうぞお楽しみに。

湯河原温泉をモデルにした物語はこちらで読めます

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?