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息子が仕事を辞めて家に戻ってきた話。

 息子が仕事を辞めて、家に戻ってきた。

 大学進学で家を出て、そして東京に就職して1人暮らしをしていた。
 大学生の時から、LINEを送っても既読すら付けず、連休やお正月にも帰って来たり来なかったりする息子だったので、このまま将来は誰かと結婚して遠くに住むんだろうなあと、漠然と思っていた。
 そして夫の実家に帰省なんて、お嫁さんが嫌がるんだろうなあと。

 その昔、1歳になる前、息子を初めて慣らし保育に連れて行った日のことはよく覚えている。

 育休明け間近、10ヶ月の息子を連れて、初めて慣らし保育に行った。職場の近くの小さな無認可保育所。
 時間はちょうど朝のおやつタイム、小さい子たちが小さいテーブルを囲んでいた。
 先生がすぐ息子を抱き上げて空いている席にストンと座らせ、両手にビスケットを握らせた。
 目と表情で「お母さん早く行って!」と言われ、見ていたい気持ちを押さえて部屋を出た。

 1時間経って迎えに行くと、お友達に混じって積み木を掴んでいたが、私を見つけると大声で泣いた。
 1歳にもならない息子を他人に預けることの不安と罪悪感でいっぱいだった。

 初めての子どもだったので、私も夫も、とても手をかけた。
 本人が気が付く前に、色々と手をやいてしまっていたので、小学校に上がる頃には、ぼんやりした子どもに出来上がってしまった。

 長男あるあるである。

 そんな息子でも、高校生になり大学生になり就職して、全く手が離れて、そのうち結婚できたらイイなあ、なんてのほほんと思っていた。

 ほとんど電話なんてかけて来ないのに、急にかかってきた。
 久しぶりに聞く息子の声。
 しかも涙声!

 聞けば、仕事が辛くて辛くて、今日辞めたと言う。
 頑張っても頑張っても上手くいかず、上司には怒られてばかり、もうムリだったそうだ。

 今は『退職代行サービス』なるものがあるらしく、本人に代わって会社に退職の意向を伝えて、手続きまで全部やってくれるそう。素晴らしい。

 涙声の息子に、
「頑張ったんならいいよ。やっぱ田舎モンに東京の仕事は大変なんだね〜。『東京コエ〜!』って笑って帰っておいで。」
と話した。

 数日後、笑うどころか青い顔をして新幹線から降りて来た。後ろめたさがあるよう。
 私も夫も、多くに触れず、したいようにさせておいたら、もう何日も、食っちゃ寝&ゲームの毎日を送っている。
 そろそろハローワークに行ってもらわないと…。

 部屋を覗くと、学習机に大きいモニターをのせて、ヘッドホンをして、アハハと笑ってゲームをしている。
 これから職探しかあ。
 いいとこあるかなあ…。
 まあ、思い詰めて地下鉄に飛び込まなかっただけで良しとしよう。

 でもこのまま『子供部屋おじさん』になったらどうしよう…、と心配な日々である。



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