地下アイドルオーディションを最終辞退した

 2日目が終了して、夜眠れなくて、帰ろうと思った。無断で辞退でも、断って辞退してもどちらでも良かった。とにかく、ここは私がいていい場所ではないのだと思った。
 ただ偶像に憧れただけなのだ、この7人の中で最も愚かしいのは私だった。それがどうしようもなく真実だった。母親のLINE一つ

これ

で自殺したくなった、私はアイドルどころか普通の人間も向いていないほど脆弱な精神を抱え守っている。
 とにかく今この場から逃げたい。どの形でもいいから逃げたい。5日間頑張ったところで私が選ばれ得ないことはこの2日で確証した。それは深く考えなくても分かることで、なんか、もう、とりあえず帰りたい。帰って自分の部屋で眠りたいと思ってしまった。そして母親には死んで欲しい。私がこんなふうになってしまったことの責任を取れない母親にはもう死んで欲しいと思った。相打ちで殺し合わないと気が済まない。どうにかして死んで欲しいし私も死にたい。どうせなら一緒に死にたい。歪んだ愛からは一生逃れられなくて、米津玄師の言う通り幸せとはありふれていることだった。それ以上でもそれ以下でもない。凡庸は幸せへの第一歩で、だから産まれも育ちも非凡な私はたぶん一生かけても幸せになることができない。幸せになりたい、楽して生きていたい。本当にそう思う、本当にそう思うから本気で帰ろうとしてるんだろうなと思う。私はサイコパスではないけどソシオパスだから、平気でオーディションを途中辞退することができる。何のことわりもなしにそんなことができる。
 それはきっと良いことではないが、私はそんな自分が案外嫌いではない。むしろ好きなのかもしれない。そういう自尊心も相まって一生幸せにはなれない。本当に無理だ、あれほど楽しみにしていたレコーディングも、ダンスの後だと思うとまるでやってられない。チア部にいた時のことを思い出す。チア部にいた時もそうだった、私だけ振りが異様に覚えられなくて、周りの女の子たちがピリピリしだして、露骨に嫌な顔をされたりして、注意もされて、でもそれでも一生懸命やってるつもりだった私は、先輩にも「舐めてんの?」と言われたことがやり切れなかった。「やる気を感じられない」と言う言葉はあくまで彼女の主観であって、私に本当はやる気があった場合それは侮辱罪に当たるんじゃないかなんて思う。そんなこと思ってもまるで仕方ないのだけど。もう本当に無理で、一緒に泣いてくれたaちゃんと私の為に泣きながら怒ってくれたyちゃんには申し訳なさを感じるけど、今日の朝に1人で帰ろうと思う。帰るためにこうして時間を潰している。こんなことなら本を持ってくればよかった。本を一冊も持ってこなかったせいで私は今こんなにくだらない文章をくどくどと、ケーキに生クリームを塗りたくるみたいにして描き続けている。
 小さい頃からショートケーキは嫌いだ。あざとい食べ物という印象が強かった。あざとさとは私が決して持ち得ない要素で、だけど密かに欲しいと思っているものでもあった。あざとい=かわいいとは限らないけれど、あざとい女というのは大抵かわいいを貰えるものだ。あざとさを醸し出そうとして不自然になってしまう私みたいなのは、自然体でむすっとしていた方が人間に好かれることがある。これも体感だから正しいかどうかは分からないけど。

 昔誰かが言ってた何かの歌の話を思い出そうとして、決して思い出せないことを悟った。何故それが思い出せないことだけ理解できるのかが不思議で仕方ない。どうしても理解できないことなんて、この世にはそんなに沢山ないと思っていた。中学生まで神童だった私は、世界を舐め腐っていたから。
 凡人に堕ちたとき、世の中に自分が理解できない事柄が溢れていることを初めて自覚した。あの頃の傲慢さが恨めしい。今、ほんの少しでもそれが残っていれば私の運命はまるで違ったかもしれない。

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