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【ショートエッセイ】じいちゃんはあの世に行ってからも孫の世話を焼く

親父が死んだ日、息子は小学校で運動会をしていた。
学校で一生懸命練習をしていたから、運動会が終わるまで息子には告げなかった。

ぼくはバタバタと葬式の段取りをして、午後から運動会に駆けつけた。
妻は先に来ていた。

その時に知ったのだが、息子は組体操の頂上に立つことになっていた。
人の山が一段一段組み上がっていく。
小学生が山と化して、人は息子だけになった。
息子は裸足のまま一段一段を踏み台にして、人の山を登って行く。

頂上に辿り着いた。
息子は立ちあがろうとした時、バランスを崩した。
「あっ!」ぼくは思わず声を上げた。
このままでは背中から地面に落ちてしまう。
"ふんばれっ!"ぼくは心の中で叫ぶ。
息子は何とか体勢を戻して、ちゃんと立ち上がるとばっちりポーズを決めた。
ぼくと妻は胸を撫で下ろした。

一旦家に帰って、車に乗ってもう一度小学校へ戻った。
妻と息子を車に積んで再度家に向かった。
これから親父の葬式に備えなければならない。

「たけし*、おじいちゃん、昨日の夜に死んでしもた」
ぼくは妻と顔を見合わせて息子に告白した。
「えっ!」
息子は固まってしまった。

「たけし*が組体操の上から落ちかけた時、おじいちゃんの幽霊がすっーとやって来て、落ちないように背中を支えてくれてたよ」
ぼくは悲しむ息子の気を紛らわせようと、ほんの冗談のつもりで言った。
その時、息子がポツリと言った言葉が、今もぼくの耳に残っている。

「あぁ、やっぱり」


※子供の名前は仮名です。


▼子供の思い出エッセイ

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