見出し画像

異彩

「自分のハンカチ」が「誰かに噛まれる」という経験を持つ人は、一体どれくらいいるのだろう。

その「誰か」は、上下の歯が揃い始めた1歳の子供かもしれないし、ペットとして飼っている犬や猫かもしれない。

しかし、私の経験上、どれも当てはまらない。

私のハンカチを噛んだのは、赤ちゃんでも犬でも猫でもない。当時9歳、私の同級生の「友だち」だった。

その「友だち」は、皆んなから「あっくん」と呼ばれていた。あまり記憶が定かではないけれど、好きなものは「アンパンマン」で、とてもよく笑う子だった。でも、ずっとニコニコしているという訳でもなく、時には奇声を発したり、泣き喚いたり、授業中いきなり外へ飛び出したりと、感情のままに生きる自由奔放な子でもあった。だから、「あっくん」の側には、いつも大人がいた。

当時9歳の私にとって「あっくん」は、みんなとは「違う」存在だった。ただ「違う」といっても、その語彙の意味を正しく理解することなど到底出来なくて、たまたま図書室で手に取った「光とともに」を読み進めることで、自閉症や知的障害を知って「違い」を理解していくことになった。

そんな中で起きたのが「ハンカチ事件」で、私がどこかに落としたハンカチをあっくんが拾い、噛めば噛むほど味わいが広がる、まるであたりめを食べるかのように、ハンカチを噛んでいた。(正しく言えば、食べていた。) 一定、知識がついた今となっては、なんてことのない些細な一件に過ぎないが、当時9歳、金子みすゞの「みんなちがって、みんないい」を文字通りにしか読めなかった私にとっては、なかなか衝撃的な光景だった。しかも、そのハンカチが、ディズニープリンセス (アリエル、ジャスミン、シンデレラなどなど)複数人がプリントされているものだったので、「あああああ、プリンセスが食べられている?!?!」となった、ような気がする。

結果、ハンカチは自力で取り戻せず、駆けつけた先生によって取り戻すことができた。直後、あっくんの歯型がついたハンカチを先生が洗ってくれ、洗いながら先生は「ごめんね」と言い、先生にこっぴどく怒られたあっくんも少し時間が経ってから「ごめんなさい」と言いに来てくれた。

当時の自分には処理できなかった記憶も、整理してみれば、今への繋がりが鮮明に見えてとてもいい。とはいえ、なぜあっくんが私のハンカチを噛んでいたのかは未だに不明。きっとそこまで大した理由などないと思うけど、そのコミュニケーションを取れにいけなかった9歳の私、やはり思慮が浅い。タイムスリップできればなあ。できないけど。諦めるけど。

ちなみに、この経験があったから、私の「気になる」が生まれた。それこそが、へラルボニーというスタートアップ。「異彩を、放て。」というMissionを掲げて「障害のイメージを変える」ことに挑戦するチーム。これについては、もっと詳細に書きたいので、また次回。




このnoteは仕事とは切り離して書くと決めていたけど
結局、仕事だなあ。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?