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シルク神話 ロラン・バルトやらインドファッションやら

「シルク神話」という言葉について。世界中のマーケットで共通する概念だとは思うけれど、特にインド絡みで使われることが多い気がする。もちろんシヴァ神みたいにシルク神がいるわけでもなければ、世界史の授業で習った『ラーマーヤナ』や『マハーバーラタ』みたいにとんでもなく昔から伝わる神話の一つでもない。あらゆる繊維の中でシルクが最も上質で優れた高級品であるという、絶対的なシルク信奉の文脈で使われる言葉だ。

神話「ミトロジー」《仏語: Mythologie》
① 神話や伝説の集合体
② 神話・伝説を研究する学問
③ あるテーマに関して、集合の中で押しつけられ信じられていることの集合
(参照:ロラン・バルト著作集3『現代社会の神話』下澤和義訳、みすず書房)

この③の意味がフランスの辞典『プチ・ラルース』に加わったのが、構造主義の思想家ロラン・バルトの『現代社会の神話』(原題Mythologies)が一九五〇年代後半に刊行された後だという。特定の意味をもたらした流行語が継続的に活用されている感じか。この本は、世の中で多くの人が無意識のうちに当たり前のように思い込まされているものをバルトが暴いたエッセイ集ですが、『神話作用』というタイトルでは入手可能なので宜しければ!しかしながら難解です…。ぴえん(二〇一九年流行語)。

ところで私が勤務先の業務で関わっているSNSコンテンツはインドの制作会社から提案してもらうのだけれど、神話に敏感な私の中でどよめきが起こったことがある。なんと「〇〇(素材商標)にまつわる神話を解き明かす」というテーマで提案を受けたのだ。もしや、インドにもバルトの「神話」の定義が広まっていると言うわけか? どんだけぇ〜(二〇〇七年流行語)。

またインドの高級ブランド店でウィンドーショッピング的市場調査をする際に、サリーなどは特に混率表記されていないこともあり、店員さんに素材を尋ねるのだが、強固なシルク神話の影響か、割と自信ありげに「シルクです」とお答え頂く。そしてセールストークにシルクと併せて手刺繍、手織りなどのハンドクラフト事情を盛り込んで頂くことが非常に多い。数年前までのインドアパレル製品におけるサステナビリティは素材というよりもむしろこの手仕事の伝統技術継承という観点からの発信が多かったように思うのだけれど、あれよあれよと言う間に欧米と同様にBCIコットンやリヨセル、そして再生ポリなどの使用が広がって来た。しかしながら、インドではシルク神話が根強く、素材転換が上手く進まないなんて話もきかれたり。

このアヒンサー(不殺生)的潮流に乗り、植物由来のシルク調繊維「ヴィーガンシルク」や、蚕が羽化し去った繭から作る「ピースシルク」などを配した「シルク神話2.0」が台頭している。そして、ここで注目したいのが「ヴィーガン神話」なのだ。これこそバルトに脱神話化(思い込まされている物事を暴露すること)をして欲しいと私などは思ってしまうのだけれど。


インドで購入したシルクのストール巻いてみました。

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